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「ジビエ 安全に楽しむために」(くらし☆解説)

合瀬 宏毅  解説委員

今日は「ジビエ 安全に楽しむために」です。担当は合瀬解説委員です。

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Q.最近ジビエという言葉をよく聞きますよね?

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そうですね。もともとこのジビエという言葉、フランス語でシカやキジなど野生鳥獣の肉のことを指し、ヨーロッパでは野趣あふれる高級食材として人気です。
 一方、日本では増えすぎたシカやイノシシなどを管理する法律が4年前整備され、地方活性化として、ジビエを料理として出したり、スーパーなどでも販売するところが増えてきました。この大型連休、地方でそうした料理を楽しんだり、家庭で調理したりする人も多いのではないでしょうか。
ただ野生鳥獣をジビエとして利用する場合には、十分に加熱するなど注意が必要です。今日はそうしたお話をしようと思います。

【VTR】
Q.こちらはジビエを楽しもうというイベントでしょうか。

はい。今年2月に、大分県の猟友会などがつくる「大分ジビエ振興協議会」が発足したのを記念して行われたイベントです。会場では醤油と味噌で味付けされたイノシシやシカの肉の串焼き、それにカレーバーガーが販売されました。イノシシ肉のぼたん鍋、無料で振る舞われ、みんな美味しそうですよね。
一方、こちらは埼玉県の高校生がつくったジビエハンバーガーです。シカとイノシシの肉を混ぜ合わせ、デミグラスソースで味付け、焼き加減を調整することで臭みを抑えるなどの工夫を重ね合わせてきたと言うことです。長瀞町のイベントでは用意した50個のハンバーガーは、販売開始から10分余りで完売したそうです。

Q.各地でいろんなイベントをやっていますね。

というのも、地方ではイノシシやシカなどが増えすぎて、悩みの種になっている。

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イノシシもシカも繁殖力がきわめて強い動物です。環境省が推定した平成27年の生息数をみてみると、イノシシは全国で94万頭と、20年前の2.3倍、ニホンジカは304万頭とおよそ5倍(4.9倍)に増え続けている。
こうした野生生物が農産物を荒らし、被害額は年間170億円に上っている。

Q.すごい増え方ですね。

せっかく作った農産物が野生鳥獣に食い荒らされてしまえば、農家としてはやる気を失い、農業を辞める人も出てくる。地方としてはますます人が減ります。そこで、国は「捕獲強化対策」としてこれまで以上に捕獲を増やし、シカ、イノシシの数を10年間で半分にすることにした。
一方で、見方を変えると、野生鳥獣の肉はヨーロッパでは高級食材。厄介者の野生鳥獣が、高級で滋養豊かな食材に変わるなら一石二鳥です。

Q.いいアイデアですよね。

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そこで国も、ジビエを地域活性化の重要な柱と位置づけ、観光など様々な分野で3年間で利用量を2倍に増やすことを目標とし、全国17のモデル地区を選ぶなどして、ジビエの安定供給を目指している。
シカやイノシシなどのジビエ、学校給食などでも利用されるようになりましたが、今後ますます流通量が増えてくるだろうとみられている。

Q.ところで、ジビエというのは美味しいのか?

野山を駆けまわっていたため脂肪が少なく、筋肉質でヘルシー、割とさっぱりとした味です。しかも牛や豚にはない、特徴がある。

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例えばイノシシの肉、カロリーやタンパク質の量は豚肉と変わりませんが、鉄分が豚肉の4倍。ビタミンB12は3倍に上ります。
またシカ肉は、カロリーは牛肉の半分以下。一方でビタミンB1やB2、それに疲労、ストレスを減らす効果が報告されるアミノ酸を多く含んでいることで、ダイエット食や運動選手に適した食材として注目されている。

Q.であれば、人気が出そうですね。

ただ、ジビエの肉は気を付けなければならないこともある。肉の安全性です。

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こちらは、平成10年以降の野生鳥獣肉による食中毒事例です。平成13年には、シカ肉を食べた3人が腸管出血性大腸菌による食中毒を起こしましたし、シカやイノシシを食べてE型肝炎ウイルスによる食中毒を起こした事例もありました。

Q.平成28年にはクマを食べて食中毒を起こしたケースもありますね。
 北海道で狩猟されたヒグマの肉の一部を、狩猟仲間から譲り受けた茨城の人が自宅でそれを焼き、飲食店で出した。その肉の加熱が不十分で、21人が発熱や腹痛などの食中毒を起こしている。

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 厚生労働省では、ジビエは、肉の中心部まで摂氏75度で1分間、十分加熱して食べるように求めている。実は、シカ、イノシシ、クマなどの野生生物は、家畜と比べ、E型感染ウイルスや寄生虫などに肉の内部まで汚染されている可能性が高い。

Q.熱を加えることが必要なのですね

そうなのです。というのも、例えば豚や牛などの家畜の場合、その健康はエサの安全性から法律で管理され、小さい頃から農家が一頭一頭厳しく管理している。食肉処理場でも獣医が病気がないかなどの確認をして、閉鎖空間の中で食肉に処理する。安全性は高く確保されている。

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ところが、野生鳥獣は山の中などで生息しています。何を食べて育ったのか、育ったときの健康状態もよく分からない。

Q.確かにそうですよね。

それを漁師が野外で鉄砲や罠などで捕獲します。基本的には食肉処理場で肉に処理しますが、シカだと40㎏、イノシシだと大きい物だと100キロ近い重さがあります。このため狩猟した場で血抜きだけでなく、野外で内臓を処理する場合もある。漁師さん達は衛生管理の専門家ではありませんので、その際に肉に病原菌が付着する恐れもある。

Q.衛生管理は十分では無いということでしょうか?

もちろん、厚生労働省はジビエの安全性が確保されるために、野生鳥獣肉の衛生管理に関するガイドラインを作り、解体の手順や、病気などの見分け方を細かく示している。

Q.どういうガイドラインですか?

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例えば狩猟の後、野生鳥獣に異常が無いか、病気の見分け方や、汚染の広がりを防ぐための、処理の仕方。
 また食肉処理場においては、受け入れる肉のチェックや処理工程ごとの衛生管理。それに定期的な細菌検査を求め、食用として問題がないと判断できない限り、肉は廃棄するように厳しく求めている。
 ただ、食肉として衛生的に処理されるとしても、もともとは野山を駆けまわり、健康状態はよく分からない野生鳥獣です。リスクは家畜以上にあると考えなければならない。

Q.消費者としてはどうしたらよいのか?

 まずは、ジビエは熱を通して食べるのが前提の肉だということを認識することです。衛生的に取り扱っていても、お店では、十分火を通してあるか確認すると共に、自分で調理する場合には、中心まで75度で1分以上加熱することが必要です。
国としても、ジビエを地方活性化の手段とするなら、ジビエで食中毒などが起きないように、加工から流通段階までしっかりと安全対策を指導することが重要だと思います。せっかく始まった地域の取り組みですから、事故の無いようにしてもらいたいですね。

(合瀬 宏毅 解説委員)

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