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「イラク日報に思わぬ反響!?」(くらし☆解説)

増田 剛  解説委員

防衛省が先週、公表した、自衛隊のいわゆる「イラク日報」をめぐる話題です。増田解説委員です。

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Q1)
増田さん、まず、このタイトル、「イラク日報に思わぬ反響!?」となっていますが、これ、どういうことですか。

A1)
はい。先週の16日、防衛省が、イラクに派遣された自衛隊の日報を公開しました。海外での自衛隊の具体的な部隊行動に関わる文書ですから、その取り扱いをめぐっては、様々な議論があったんですが、その中に、自衛官の現地での日常を描いた記述が含まれていました。これが、ネットやSNS上で「面白い」と大反響を呼んでいるんです。
順序だてて説明しますね。

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イラク日報というのは、今から15年前、2003年に始まったイラク戦争で主要な戦闘が終わったとされた2004年1月以降、現地の復興支援のために派遣された自衛隊の活動記録のことです。この日報について、防衛省は去年2月、国会で、「破棄してしまい、存在しない」と言っていました。しかし実際は、去年3月、陸上自衛隊の内部で見つかっていて、1年後の先月末になって、ようやく大臣に報告されたんです。これを受けて今月初め、小野寺防衛大臣が事実関係を発表。国会で問題になったこともあり、防衛省は、今月16日、この日報を公表しました。2年半続いた陸上自衛隊の派遣期間のうちの435日分、およそ1万5千ページにのぼります。ちなみに、きのうも、新たに34日分が見つかっています。
そして、この中に、バグダッド日誌というのがあったんです。

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Q2)
バグダッド日誌ですか。

A2)
はい。日報には、イラク南部のサマーワに派遣された部隊の日々の活動報告、人員の現況、装備の現況、事案の発生状況などがあります。

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加えて、多国籍軍との連絡のためバグダッドやバスラに派遣された幹部自衛官の日誌も含まれています。バクダッド日誌などと題して、彼らが現地の日常を綴った、エッセイのような記述で、隊員の素顔やエピソードが生き生きと描かれているとされ、ネット民の間で、「読み物として面白い」と話題になっているんです。

Q3)
どんな内容なんですか。

A3)
いくつか、紹介してみますね。まずこれ、当時のイラクの現実をよく描いていると、話題になっているものです。

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「司令部の敷地の周りには、くぼ地があり、水がたまって池のようになっている。夜になると、蛙の大合唱が聞こえてくる。イラクに来て蛙の鳴き声が聞けるとは思わなかった」「イラクのトンボは、なぜかでかい。急に目の前に現れたものだから、びっくりして煙草を落としそうになった」「これからどんな『未知との遭遇』が待っているのだろうかなどと考えている時、警報が鳴り、現実に引き戻された。ロケット弾1発。ドンという音がして、キーンという飛翔音らしきものが聞こえた」。
ほのぼのとした前半と、対照的な後半の緊迫した状況が、隊員の苦労をしのばせます。
もうひとつ、「表現がポエムのようだ」と話題になっているものです。

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「夜勤をしている時、新鮮な空気を吸うために、外に出ると、静寂が広がる宮殿前の鏡のような湖面には、下弦の月が映り、空には、オリオン座が、自分たちの存在を誇示するかのように輝いている。この息を呑むほど、美しい光景を見る時が、疲れた身体への一服の清涼剤だ。アラビアンナイトの世界を独り占めできる夜勤の小さな楽しみだ」。
SNSでは、「枕草子みたいだ」と言われて、評判になっています。

Q4)
なんだか、自衛官のイメージと違いますね。

A4)
そうですね。当時、自衛隊は、多国籍軍と一緒に活動していたので、外国の将校との異文化コミュニケーションをめぐる話題も多いです。例えば、これ。

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「初めて接する他国の挨拶の風習の中で、最近、対応に困っているのがウインクだ。きれいな金髪の女性がウインクしてくれれば、うれしいのだが、残念ながらウインクするのは、額の面積が通常より広いオヤジか、ヒゲヅラのオッサンばかり。オッサンが相互にウインクする光景の中に自分がいることが許せないから、私がウインクしたことは一度もない」。これ、原文のままです。

Q5)
何というか、ほほえましいですね。

A5)
まだ、あります。2005年11月3日の日誌です。

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「事務所に行くと、モンゴル軍の大佐とアメリカ海兵隊の大尉が『おめでとう』という。『何かあった?』と聞くと、『日本では、きょうは文化の日でしょ!だからおめでとう!』と二人が言う。言われて初めて気がついて、『どうも』とお礼を言った。『文化の日って、何するの?』『寿司と酒でお祝い?』と聞いてくる彼らに、『別に何もしないけど・・』と言いつつ、祝日は家で寝るだけの自分の生活を反省・・。それにしても、彼らは何で知っているのか、不思議でならない」。
このほか、イタリア人に、過去の日独伊三国同盟のネタを振られ、「次も一緒にやろうぜ」と言われ、心の中で「NO」と答えたとか、帰国するエストニアの大尉が「また次の戦争で会いましょう」と言って、イラクを去ったエピソードなどもつづられています。

Q6)
隊員たちの素顔がよく出ていますね。

A6)
はい。ただ、先ほども説明しましたが、日報に記載されているのは、こうしたほのぼのした日常だけではありません。
部隊が活動していたサマーワの厳しい治安情勢も記載されています。
例えば、2005年6月23日の日報には、「爆発事案」の文字があります。この日は、自衛隊の車4台が車列を組んで走っていたところ、道路脇で爆弾が爆発しました。けが人はいませんでしたが、車の窓ガラスが損傷しました。その10日余り後には、自衛隊の宿営地付近にロケット弾が着弾し、安全確認のために宿営地の「一斉検索」が行われたという記述もあります。
2006年1月22日の日報には、「戦闘が拡大」の文字があります。
「パトロールを始めたイギリス軍に現地の武装勢力が射撃し、戦闘が拡大」と書かれ、悪化する治安情勢が報告されています。
そして、このことが、今、国会でも、議論になっています。

Q7)
どういうことでしょう。

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A7)
はい。自衛隊のイラク派遣は、2003年に成立したイラク特措法に基づいて行われ、自衛隊の活動範囲は「現に戦闘が行われていない地域」=「非戦闘地域」に限るとされていました。
ところが、日報には、「戦闘」という記載が複数あります。
当時の政府の説明と現実が乖離していたのではないかと、野党側は、問題視しているのです。これに対し、小野寺防衛大臣は「イラク特措法に基づいて、自衛隊の活動が実施されたという認識に変わりはない」と述べ、問題はなかったという認識を示しています。
ただ、もう一つ、別の疑問も出されています。

Q8)
何でしょうか。

A8)
防衛省は、当初、イラク日報は「存在しない」としていました。
これは、「自衛隊が活動する地域では、戦闘行為は行われていない」という政府見解と、つじつまを合わせるためだったのではないか。
だから「戦闘」という記載があった日報が隠されたのではないかと、野党側は考えているわけです。多くの人が感じる疑問だと思いますので、今後の国会審議の中で、事の経緯を明らかにしてほしいですね。
そして最後に、日報を保存、公開する意義について。
日報には、戦闘を含め、現実に起きたことがありのままに記されます。だからこそ、将来の派遣に必要な装備や部隊の規模、現地対策など、今後の教訓を得るための貴重な資料になります。
当然、保存し、将来、公開すべき性質のものです。もちろん、機密情報も含まれますから、全てを公開することは難しいかもしれませんが、公開範囲を慎重に検討した上で開示することは、十分可能だと思います。今回のイラク日報を機に、防衛省は改めて、文書管理と情報公開のあり方を見直すべきではないでしょうか。

(増田 剛 解説委員)


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