「健康を守れ ドクターAI」(くらし☆解説)
2018年04月06日 (金)
片岡 利文 解説委員
人工知能、いわゆるAIをどう活用していくか。製造業、小売業など産業分野への導入が進む一方で、実用化が期待されているのが医療分野です。
上は、目の中を撮影した画像。下はその画像を人工知能で分析したものです。
赤くなった部分に網膜はく離などの異常があることを、人工知能が色づけして教えてくれています。
次は頭部のMRIの画像です。
通常は左の画像を医師が見て診断するのですが、同じ画像を人工知能に分析させると、まるで医師のように脳腫ようを見つけて、茶色く色づけして示してくれます。
もう40年ちかく日本人の死亡原因第1位である がんを、人工知能に見つけさせようという研究もあります。
これは、大腸の内視鏡検査の映像を人工知能がリアルタイムで分析して、ポリープやがんを見つけているところです。がんの疑いがある組織を見つけると、アラームを鳴らして、がんである確率とともに知らせてくれます。国立がん研究センターが、大手メーカーやベンチャー企業などと開発しています。
一方、こちらは、胃がんを見つける胃カメラ用AI。
開業医が作ったベンチャー企業が、がん研有明病院・大阪国際がんセンター・東大病院などと協力して開発を進めています。
がんとおぼしき組織を見つけるのにかかる時間は、100分の2秒。こちらもがんである確率まで表示します。6㎜以上の大きさであれば、早期がんでも98%の精度で検出できるとして、世界から注目を集めています。
【どうして人工知能が病気を見つけることができるのですか?】
人工知能・AIとは、コンピュータ上で動くソフトウエアです。ただ、このソフトウエアは、データを与えると、どんどん学習して賢くなっていきます。
ディープラーニング(深層学習)という最新の技術を使ったAIは、医師が見つけたがんの診断画像を大量に読み込ませて学習させていくと、「なるほど、がんにはこういう特徴があるんだ」とがんに共通する特徴をAI自ら割り出すことができます。先ほどの胃カメラ用AIの場合は、1万3000枚を超える胃がんの画像データを学習させています。AIは自ら割り出した特徴を物差しにして、内視鏡が捉えた胃の映像にがんがあるかどうかを調べていくのです。
【ただ、やはりAIに診断を任せるのは不安で、怖いような気もするのですが】
もちろん最後に診断を下すのは、人間の医師の仕事です。ただ、こうしたAIを医師が道具として使いこなせば、より診断の精度を上げられるのではないかと期待されています。なぜなら、ごく早期のがんは医師でも見つけることが難しく、見逃してしまうおそれもあるとされているからです。
例えば、去年、医師会員限定のサイトに、こんな問題が出されました。
どの画像に早期の胃がんがあるでしょうか、という問題です。
この2枚が正解ですが、8000人近い医師がチャレンジしたところ、正答率は58%だったのです。ちなみに、先ほど紹介した胃カメラ用AIは、この2つの早期がんを見つけることができました。この胃カメラ用AIは、まもなくがん研有明病院で臨床治験にかけられ、厚生労働省による医療機器としての承認を目指す予定です。
さて、AIを使って早期に病気を見つけようという取り組みだけでなく、将来病気になったりケガをしたりするのをAIで未然に防ぐことができないか、という研究も始まっています。
プロジェクトを中心になって進めている理化学研究所では、地元の埼玉県和光市の55歳以上の市民、128人の協力のもと、3年にわたって毎年体の状態がどう変化しているか、詳細なデータを集めてきました。そのデータを分析して、いまのうちに何をしておけば将来健康が損なわれるのを少しでも防げるか、1人ひとりに向けた「健康設計手順書」なるものを作ることができるシステムを構築しようとしています。その鍵となるのが、人工知能・AIです。
集めたデータは1人あたりおよそ200種類もあります。AIは、そうした一見関係なさそうな数多くのデータから、人間だと気付かないような特徴を見つけ出すのを得意としています。3年間蓄積してきたデータを、これから本格的にAIに分析させていく計画です。
【期待が高まる一方で、AIを医療分野に導入する際の課題はないのでしょうか】
いろいろありますが、ひとつは「データをどう集めるか」です。
医療現場で安心して使えるレベルにまで分析の精度を上げるには、AIに膨大なデータを学習させなければなりません。しかし、個別の医療機関が持つデータは限られています。
そこで、学会や国の機関が中心となって、全国の病院から画像データを集め、研究のためなら使える“公共財”のようなデータベースを作ろうという動きがあります。
しかし、そこで課題となるのが、個人情報の管理です。
データを匿名化することで個人情報保護法には違反しないようにしているのですが、匿名化しても画像データそのものが個人情報だという意見もあります。去年成立した次世代医療基盤法が施行されれば、データ匿名化によるデータベース整備が進むと期待されていますが、今度は厳しいデータの管理が求められます。クレジットカード番号から仮想通貨まで、データの漏洩事件はあとを絶ちません。
豊富なデータを有効に利用しつつ、安全に管理する基盤を平行して整えていくことができるのか、注目したいところです。
(片岡 利文 解説委員)
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