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「日本にもくるの? 現金を使わない社会」(くらし解説)

今井 純子  解説委員

現金を使わない社会に向けた動きが、世界で急速に広がっています。今井解説委員。
 
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【現金を使わない社会。どのような社会ですか?】
例えば、クレジットカードやデビットカード、店や鉄道の電子マネー。最近では、スマートフォンの電子財布で支払いをするという方も増えていると思います。
現金を使わない社会というのは、生活のあらゆる場面で、現金ではなく、こうした方法で支払いができる社会というイメージです。

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今、このような「現金を持ち歩かなくても困らない社会」に向けた動きが、世界で急速に進んでいます。
消費者が支払いをする時に、現金を使わない比率(キャッシュレス比率)についての各国の状況を示したグラフです。

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【日本は・・低いですね】
日本は、およそ20%ですが、海外をみると、韓国では、すでに90%近くに達しているほか、中国やヨーロッパ、アメリカでも、40%から60%が、現金以外の支払いになっています。

【韓国は、90%ですか?】
韓国では、90年代後半以降、政府が、
▼    クレジットカードを利用した人に対して、その金額の20%を、所得から控除する=つまり、所得税を優遇する、一方
▼    店側に対しては、一定規模以上の店は、クレジットカードを拒否できない。つまり取り扱いを義務付けるという政策をとりました。それで、クレジットカードでの支払いが急速に増えたのです。

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また、スウェーデン。今では、
▼    電車やバスなどの公共交通機関は、現金では切符が買えない仕組みになっていますし、
▼    「現金お断り」を掲げる店があちらこちらに増えているそうです。
▼    また、スマートフォンを使って、相手の電話番号におカネを送る個人間の送金のアプリも登場して、教会への献金もスマートフォンで行うようになっているそうです。

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【献金もスマートフォンでですか?】
そうなのです。また、中国では
▼    お店などで「QRコード」を読み取って、支払いをする、スマートフォンのアプリが急速に普及しています。このアプリでは、
▼    公共料金の支払いや、ホテル、病院など、様々なサービスの予約もできます。
▼    さらに、店への支払いや公共料金の支払いの履歴。それから、学歴や交友関係といったデータが蓄積されていきますと、それがアプリを使う人の「信用情報」となって、ローンを申し込むと瞬時に審査が行われ、お金が振り込まれたり、金利が優遇されたり、部屋を借りたときの敷金が要らなくなるなど家賃が割り引きされたりするサービスもでてきています。

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【なぜ、こうした動きが進んだのですか?】
きっかけは、国によって、事情は違いますが、例えば、韓国では、経済が落ち込んだときに消費を喚起するため。とか、スウェーデンでは、強盗対策。中国では、偽札対策といった背景やきっかけがあって、国全体でこうした取り組みが進んだのです。

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かたや、日本はというと、治安はいいですし、偽札も少ない。また、よその国と比べると、クレジットカードの手数料が高いため、小さな店だと現金しか使えない店も多いですよね。だから、海外と比べると、現金払いがまだまだ主流になっているのです。
ただ、今、日本でも、こうした現状を変えないといけないという「声」、そして、実際の「取り組みも」が急速に広がっています。

【日本は、なぜ、変えないといけないのですか?】
▼ まず、ひとつは、現金を使わないことが当たり前になってきている外国人観光客から、不満の声が上がっているからです。カードで払える店がもっとあったら、もっとおカネを使ったのにと、66%の外国人観光客が答えたというアンケートの結果もあります。

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今、日本は、外国人観光客に過疎化が進んでいる地方に行ってもらって、消費や活気を支えてもらおうと、国をあげて取り組んでいます。それだけに、地方の小さな店でも、現金以外で支払いができるようにしていかないといけない。
▼ また、現金を使わない社会に向けての、世界的な技術の開発競争や、ビッグデータを活用した新しいサービスの開発競争に遅れてはいけないという。そういう声が上がっています。

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【実際に取り組みも広がっているというのは、どのような取り組みですか?】
人手不足に悩んでいる企業の間から、現金の扱いをなくそうという取り組みが、始まっています。
▼ 例えば、ファミリーレストランの「ロイヤルホスト」を運営する会社は、働き方改革の一環として、現金での支払いを受け付けない店を、去年11月に東京都内に試験的にオープンしました。
▼ また、ローソンは、来週から、都内の3つの店舗で、客が事前に専用のアプリを入れた上で、店で購入する商品のバーコードを、スマートフォンで読み取ると、その場で支払いができる実験を始めます。
▼ すでに実験が始まっているレストランのほうでは、現金を扱わないことで、レジの確認作業が、それまでの40分から5分以内と短縮されたほか、開店の前にお釣りを用意する作業もなくなって、働く人の負担が減っているということなのです。ローソンでも、店員の負担が減ることが期待されています。

【利用する側もメリットがありそうですね】
レジに並ばなくてもよくなったり、並ぶ時間が短くなったりと、ストレスがなくなります。また、店側の負担が減ることで、価格が安くなったり、値上がりを防ぐことができたりというメリットも期待できるかもしれませんね。
政府も、こうした動きを後押ししようと、現金を使わない比率について、今、20%なのを、2025年までに40%に。そして、将来は、80%をめざそうという目標を、先週、掲げました。そして、そのためにどのような政策が必要か。例えば、韓国のように、カードや電子マネーで支払いをした場合、利用した側は、所得税が優遇されたり、価格が割引きされたりする措置。店の側もカードなどのシステムを導入できるよう、補助金を設けることなどを検討することにしています。

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【確かに、現金以外での支払いは、便利になると思う一方、不安もありますよね】
そうですよね。
▼    クレジットカードなどの情報が洩れて、悪用されるのではないか。
▼    インターネットを通じて、誰がどのような買い物をしたか。どんなものに関心があるか。といった個人データが集められて、それに基づいた商品やサービスの広告がどんどん届いて、知らないうちに、買い物をコントロールされてしまうのではないか。
▼    使い過ぎにつながるのではないか。
▼    将来的に、現金での支払いを拒否されたり、ATMが減ったりと、現金がいいという人が困るようになるのではないか。
こういった心配はありますよね。

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確かに便利な面が多いので、現金を使わない社会に向けた動きは、とまらないかもしれません。若い人を中心に、小遣い。お年玉。香典。こういったものも、スマートフォンでやりとりする社会になっていくのかもしれません。ただ、やはり、どうしても現金がいい。という人はいます。セキュリティー対策をはじめ、不安をなくす対策をとるのはもちろんのこと、現金がいいという人が困ることがないよう、きめ細かな目線で取り組みを検討していってほしいと思います。

(今井 純子 解説委員)


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