NHK 解説委員室

これまでの解説記事

「冷たい?熱い?サンゴの危機」(くらし☆解説)

土屋 敏之  解説委員

▼日本有数のサンゴの群集が広がる紀伊半島の沿岸で、この冬の水温が低かったためにサンゴに大きな被害が出て場所によってはおよそ9割が死んでしまったと4月10日、環境省が発表した。

k180418_01.jpg

沖縄のように海底から海面近くまで立体的に成長したサンゴ礁とは違いますが、紀伊半島・和歌山県沿岸のサンゴもダイバーなどの間ではよく知られていて、世界的にもサンゴ群集の北限とも言われる貴重な環境です。
 そのサンゴが大規模に白化し、和歌山県では約9割が死んでしまった地点もある、とする調査結果を環境省が発表しました。

k180418_02.jpg

本来は左のような美しいサンゴが右側ではまだらに白くなっています。これは水温が低かったことに加え、感染症にかかった結果だそうです。

k180418_03.jpg

 元々サンゴには「褐虫藻」という微生物が共生して光合成で栄養を作っていますが、環境の悪化などでこの褐虫藻が失われてしまうと白化すると考えられています。白化が続くとサンゴは栄養がもらえないので死んでしまいます。
 サンゴが群生している場所は面積で言えば海全体の1%にも満たない限られた場所ですが、そこに海の生物種の4分の1が生息しているとされます。サンゴが失われたら海の生態系は大きく壊れてしまいますし、食卓を支える漁業などにも影響が懸念されます。

▼これまでサンゴの白化が話題になってきた際、「水温が高いのがいけない」と言われていたのでは?
   
 その通りで、例えば沖縄県石垣島近くの日本最大のサンゴ礁でも、記録的な水温の高さによって白化したサンゴの多くが死んでしまったとされます。世界的にも地球温暖化が進むことでサンゴ礁が危機に瀕していると言われていて、オーストラリアのグレートバリアリーフやハワイ、カリブ海など各地で水温の上昇による白化が深刻化している状況があります。

▼しかし、今回は逆に「水が冷たかったから」というのはどういうこと?

k180418_05.jpg

 サンゴはデリケートな生き物で水温は高すぎても低すぎても生きられません。水温以外にも強すぎる光にさらされたり土砂が流入するなど様々な原因で白化が起きます。サンゴの適温は種類などにもよりますが例えば25度~28度などとされていて、30度ぐらいの高温が続いたり、あまり低温が続くと白化してしまいます。紀伊半島沿岸では1月~3月の平均水温が約15℃という、34年ぶりの低水温になって被害が発生しました。

▼温暖化で水温が高くなるのはわかるが、なぜこの冬は水温がそんなに下がった?

 主な原因は、黒潮の大蛇行にあると見られています。

k180418_06.jpg

k180418_07.jpg

黒潮は東シナ海の方から日本列島に沿って北東に流れる世界最大規模の暖流で、普段はこの黒潮が紀伊半島沖にも暖かい海水を供給して北限と言われるサンゴ群集を育んでいるとも言えます。ところが、去年秋頃から黒潮の流れが大きく蛇行して、今年2月初めの気象庁のデータでは紀伊半島から遠く離れてしまいました。その結果この海域には暖かい水が供給されず、この冬の寒波によって極端な低水温になったと見られます。
 黒潮がなぜこうした大蛇行を起こすのか?原因はまだはっきりわかっていません。ただ、この半世紀の間に何度か起きていて、1年から数年で元に戻ることが知られています。
 一時的に白化しただけでまだサンゴが生きている場所は、水温が戻るなどすれば回復すると見られますが、完全に死んでしまった所では、新たにサンゴの幼生が周りの海から供給される必要があるので回復にはとても長い年月がかかると思われます。

▼温暖化で水温が上がるとサンゴの危機だと言われてきたが、こうした水温が低めの場所ではむしろ温暖化が進むほどサンゴに適温になって住みやすくなるのでは?

 単純にそうとも言えません。確かに以前より北の方でも見られるようになったサンゴもありますが、今後さらに温暖化が進むとサンゴは消失してしまう恐れがあると指摘されています。それは、温暖化に伴って、「海洋酸性化」と呼ばれるもう一つの問題が起きるからです。

k180418_09.jpg

k180418_11.jpg

 地球温暖化は大気中の二酸化炭素などが増えることで起きますが、二酸化炭素は水に溶けやすい性質があり、水に溶け込ると「炭酸」ができるので水が酸性になってしまいます。海水は本来、弱アルカリ性ですが、それが二酸化炭素の増加によって酸性側にシフトすることを「海洋酸性化」と言います。既にこの数十年で海水のpHが酸性寄りに変化していると確められています。そして、炭酸はカルシウムなどの成分を溶かしてしまう働きがあり、サンゴの骨格もカルシウムを含む成分で出来ていますので、海洋酸性化が進むとサンゴの骨格が出来にくくなってしまいます。

▼サンゴ礁はこれからどうなる?
  
 仮に温暖化がこのまま進むと海水温の上昇だけでなく海水の酸性化も進むので、2070年代には日本近海からサンゴは消失してしまう恐れがあると国立環境研究所などが予測しています。サンゴを守る、ひいては海の生態系や漁業を守るという面からも、やはり二酸化炭素の排出を減らし地球温暖化を食い止めていく必要があると言えます。

(土屋 敏之 解説委員)


この委員の記事一覧はこちら

土屋 敏之  解説委員

キーワード

こちらもオススメ!