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「留学のススメ」(くらし☆解説)    

二村 伸  解説委員

若者の内向き志向が指摘される中で、自分が行きたい場所でやりたいことを自ら決めるユニークな海外留学制度に注目が集まっています。

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Q.一般的な海外留学とは違うのですか?

学生の海外留学は、国が費用を負担する国費留学と、個人の負担で行う私費留学がありますが、きょう紹介するのは、民間の寄付金で留学する制度です。企業が社員ではなく全国の若者の留学を手助けしようというものです。

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国際社会で通用する人材の確保は、日本にとって切実な問題ですが、海外留学の経験がある学生はごくわずかです。かつては、多くの若者が海外に行くことを夢見ていましたが、最近では留学が面倒だなどという理由で敬遠する人が多く、企業でも新入社員の6割が海外で働きたくないと答えているという調査結果もあります。そこで、社会が求める人材や世界で活躍できる人材を育成しようと、文部科学省と民間企業が協働で海外留学を促進するプロジェクトを4年前に始めました。

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この写真は、海外に出発する学生たちの壮行会の様子です。
留学を促進しようというこのプロジェクトでは、これまでに8回にわたって募集が行われ、1年間に1500人前後が選考されてきました。

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留学の期間は、28日以上2年までであれば好きなだけ海外に滞在することができます。2020年までに1万人を海外に送り出すことを目標に掲げており、大学や大学院、専門学校や高校などで学ぶ学生や生徒たち、30歳以下であれば誰でも応募できます。これまでに大学生が3506人、高校生は1315人が選ばれました。

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費用はすべて民間からの寄付金で、目標の200億円に対し、これまでに116の起業と個人から116億8000万円が集まりました。企業が特定の学生を確保するためではなく、社会に役立つ人材をみんなで育てようというもので、面接は企業の人事担当者が行いますが、選考は大学の先生たちが担当します。面接に民族衣装で来たり、静岡県から自転車で来たり、と個性豊かな学生も多いということです。応募者は年々増え続け、倍率は3倍から4倍となっています。

Q.行きたい場所で好きなことができるということですが、具体的にはどんなことをするのですか?

留学先は学生が自分で決めます。このプロジェクトの特徴は、学問だけでなく現地での実践活動を重視していることです。その経験を留学後にどうやっていかすかが重要なのです。科学の実験でもボランティアやインターンシップでも、実際の商売やスポーツ、芸術でも何でもよいのですが、自ら現地の受け入れ先を探し、留学中の計画を作成しなくてはなりません。

3月に行われた留学前の講習会では、まもなく海外に向かう学生たちが、現地で何をするか、将来にどう役立てるかなどについて、他の留学生たちの前で発表していました。

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(女子)「世界で活躍できる科学者を」
(男子)「メキシコで網戸を販売したい」
(女子)「デザインを学びたい」

これ以外にも、「人工衛星の研究をして将来は宇宙開発の現場で働きたい」、本場でクラシック音楽を学びステージに立つ、官僚になろうと思っていたが世界を変えるために起業を学びたい、高齢者の社会参加を学びたいなど、みな興味深いテーマをもって留学します。

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(女子)「人口衛星を研究する」
(女子)「ドイツでクラシック音楽を学び、オペラを歌う」
(男子)「アメリカで起業を学びたい」
(男子)「スウェーデンで社会福祉政策を学ぶ」

Q、企業が求める人材とはどんな人たちなのでしょうか?

経団連が3年前に実施した調査では、各企業がグローバルな経営を進める上での課題として、海外事業の展開スピードにグローバル人材の育成が追いついていないことや、経営幹部にグローバルに活躍できる人材が不足していることをあげています。そして、異なる文化や価値観に関心を持ち、柔軟に対応する姿勢や、既成概念にとらわれずチャレンジ精神を持ち続ける人材を企業は求めています。

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文科省の調査では企業の採用担当の6割が留学経験者を採用したいと答えているということです。海外に関心が低い人たちの目をいかに外に向けさせるか、それが官民あげてのプロジェクトとなったのです。留学を通じてコミュニケーション能力と広い視野を身につけてほしいと学生たちに期待しています。講習会の様子を見に来ていた公文教育研究会の鳥居健介社長室渉外担当リーダーは、「これまでにないパラダイムシフトが起きている中で、枠を取り払っていける人、今まで経験したことのないところへ入っていける学生を期待したい。多様な経験をした若者たちと企業がコミュニティをつくり、新しいものを生み出しているのがよいですね」と話していました。

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Q.留学はよい経験となるでしょうが、困難も多いのでは?

すべてが順調というわけでなく、病気やけがもあれば、行ったとたんに予定していた活動が取りやめになってしまったということも珍しくないそうです。紛争地域など治安が悪化している場所は留学の対象外ですが、現地での安全の確保には最新の注意が必要ですし、生半可な気持ちではあっという間に留学期間がすぎてしまい何も身につかないと関係者は学生たちに話していました。また、このプロジェクトでは、海外に行くだけでなく、帰国後に自らの経験を広く発信していくことも求められています。

都内の大学で行われた留学生の帰国報告会では、インドやラオス、アフリカのウガンダで、現地の人たちと協力しあいながら教育の支援やインターン、ボランティア活動をしてきた学生たちが、現地での活動や今後の計画を説明しながら、「チャンスは待っているのではなく自分でつかみにいくものだと感じた」、「自分に自信をもつことができた」などと留学で得たものを報告していました。日本では想像もできない過酷な自然や慣れない風習の中で得た経験は失敗も含めて必ず将来役に立つと思います。

Q.これから留学したい人たちはどうすればよいのでしょうか?.

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留学のコースは6種類あります。理系や世界のトップレベルの大学で学ぶコース、新興国へ留学するコース、スポーツや芸術、国際協力など様々な分野で学ぶ多様性人材コースでは、パラリンピック出場をめざす学生も留学しました。地域人材コースは地方の企業や自治体が地元の若者を海外に送り込むコースで、これまでに20の自治体によって学生たちが留学しました。それに高校生のコースがあります。高校生のときから海外を経験してほしいといった要望が企業や地方自治体でも多いということです。

Q.留学の費用はどのくらい支給されるのですか?

大学生は往復の渡航費と月に12万円から16万円、それに授業料の一部が補助されます。
高校生は場所や長さにもよりますが、平均で1か月、支給額は50万円ほどです。現在9期の選考が始まったところで、次は10期の募集が、大学生が7月、高校生は10月に始まり、学校単位で応募することになっています。
グローバル化が進む中で、日本の国内市場はこれからますます小さくなっていくだけに、企業は海外に打って出ることが不可欠で、そのための人材確保は急務です。また、日本の社会にとっても将来を担う若者たちには様々な経験を積んでほしいと思います。しっかりした目的意識とチャレンジ精神をもってどんどん飛び立ってほしいですね。

(二村 伸 解説委員)


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