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「なり手不足 地方議会はどうなる?」(くらし☆解説)

太田 真嗣  解説委員

きょうは、私たちの身近な政治の話しです。来年4月には、統一地方選挙が予定されていますが、いま、過疎化や高齢化が進む地方の自治体では、議員のなり手がいない問題が
深刻化しています。人口減少が続く中、地方議会はどうなるのか。太田解説委員です。

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Q、この『議員のなり手不足』。現状は、どうなっているのですか?

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A、とりわけ、人口が1万人未満となっている市町村にとっては、すでに深刻な問題で、
自治体の側からも、「このままでは、議会を維持できなくなる」という声が出ています。
これは、前回・3年前の統一地方選挙の結果ですが、議会選挙で、立候補者が定員を超えず、『無投票』となった自治体は、▼人口1万人未満の市町村で、全体の4分の1にあたる27%、▼1千人未満の町村では65%と、半数以上に上っています。
無投票になった議会の中には、立候補者が定員に満たず、最初から欠員が出るところもありました。
人口減少に歯止めが掛からない中、こうした状況は、今後、さらに深刻化する恐れがありますが、議員のなり手不足は、小規模の自治体ならではの事情もあり、解消するのは簡単ではありません。

Q、その「小規模の自治体ならではの事情」とは、どんなことですか?

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A、そのひとつとして、議員報酬の問題があります。開催日などの違いもありますが、自治体の規模別に議員報酬を比べてみますと、この様に大きな格差があります。
都市部に比べ、財政力の弱い、規模が小さな自治体では、議員報酬も低く設定せざるを得ません。これらの自治体では、議員報酬だけで生活するのは難しく、人口1千人未満の自治体で、議員を専業でやっているのは、10人に1人です。

Q、つまり、ほとんどの人が兼業で議員をやっているのですね。

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A、そうなんです。ただ、地方議会の議員は、法律で、国会議員や地方公務員との兼職が禁止されているほか、自治体と多くの取引がある会社の役員なども議員にはなれません。過疎化が進む地域は、働き口が少なく、役場など公的機関で働いている人の割合が高い上、主な取引先が役場という会社なども多いということで、そうした自治体ほど、この地方議員の兼職・兼業の禁止の規定が、より重い『足かせになっている』と指摘されています。

Q、なるほど。そうした中、国や自治体はどう対応しようとしているのですか?

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A、総務省の研究会は、先月、報告書をまとめ、小規模の市町村を対象に、新たな議会のあり方を提案しました。
ひとつは、『集中専門型』。もうひとつは、『多数参画型』という、2つのパターンです。

Q、それぞれ、具体的にどのような案なのですか?

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A、一つ目の『集中専門型』は、まず、議員の数を絞ることで、十分な議員報酬を確保し、より専門的な立場から、議員活動に専念してもらう。ただ、議員が少ないと、幅広い民意を吸い上げることが難しくなりますから、裁判員制度のように、有権者の中から、『くじ』などで、新たに『議会参画員』というのを選び、議会に参加してもらおうという仕組みです。
この議会参画員には、議決権はありませんが、議論を通じて民意が反映できるようになるほか、多くの住民が議会活動に関わるきっかけになるとしています。

Q、もうひとつの『多数参画型』というのは、どんな仕組みですか?

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A、『集中専門型』が少数精鋭だとすれば、多数参画型は、もっと幅広く、例えば、集落の代表や各地区の区長さんなどに議員の役割も担ってもらおうというものです。
まず、議員は、集落単位、あるいは小学校の学区などから、より住民に近い立場の人を選ぶ。
もっぱら、議員は兼業で務めるイメージですから、他の仕事と両立できるよう、議員の仕事自体は、今より軽くする。つまり、議会の権限は縮小することになりますが、その分、さきほど説明した議員の兼職や兼業の規制は緩和し、例えば、県庁に勤めている人でも、自分の住んでいる自治体の議員になれるようにするとしています。

Q、集中専門型とは、全く逆の発想なんですね。

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A、そうなんです。ただ、この様に、全く逆の案が並び立つということは、言い換えれば、どちらにもメリット・デメリットがあるということです。
例えば、集中専門型に対しては、議会参画員を設けるといっても、議決権を持つのは、あくまで少数の議員だけですから、「本当に多様な民意が反映されるのか」。
また、多数参画型も、議会の権限が弱くなることで、「本当に行政のチェック機能が果たせるのか」といった根強い反対意見があり、議論は、まだ始まったばかりです。

Q、なかなか簡単にはいかないようですね?
A、そのため町村の議会関係者からは、議会制度自体の見直しより、▼議員への手当ての拡充や、▼選挙に金が掛からないようにする取り組みなどを優先すべきだという声が出てます。
それも大事ですが、でも、その前に、実は私は、そもそも、『本当に議員になれる人が不足しているのか』ということ自体に、強い疑問を持っています。

Q、どういうことですか?

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A、さきほど、人口が少ないほど、議員のなり手確保が難しいというデータを紹介しましたが、実は、もうひとつ、人口規模によって議会の傾向の違いが見られるデータがあります。
それは、女性議員の割合です。
人口10万人以上の都市部の17%というのも、まだまだ低いと思いますが、この様に、自治体の規模が小さくなるほど、さらに女性議員の割合は低くなっていって、1千人未満の自治体では3%にも届いていません。

Q、ただでさえ人口が少ないのに、その半数を占める女性の参加が少ないとなれば、なり手の確保が厳しいのは当然ですよね。
A、そうなんです。過疎化が進む地域では、よく、「男性は、仕事で都市部に行くので、地域は、女性中心で守っている」などという話を聞きますが、いまの議会の状態は、それと全く逆です。
なぜ、女性の地方議員が増えないのか?これは、内閣府が、全国の女性地方議員を対象に行った、初めてのアンケート調査ですが、女性議員が少ない原因について聞いたところ、▼「家庭生活との両立が難しい」、▼「周囲の理解を得づらい」といった理由に続き、▼「政治は男性が行うもの、という考えが強い」という、『政治への意識』を理由にあげた人も6割近くに上っています。

Q、まだまだ、そういう意識も根強いのですね。

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A、そうですね。先ほど、「地方議会では無投票が多い」という話しをしましたが、やはり、そうした『政治への意識』というものは、選挙などを通じて住民の関心が高まっていかないと、なかなか変わっていきません。
その上で、今回のアンケートでは、多くの地方議会で、▼議員の育児・介護休暇の規定が未だ明文化されていない。また、▼託児所や授乳室がある議会は、ほとんどなく、▼一部には、女性用のトイレもないなど、女性議員が活躍できる環境が整っていない実態も浮き彫りになりました。
「女性議員の比率が低い議会ほど、議員の介護・育児休暇を明文化していない割合が高い」ということで、▼女性が、議会のメンバーにいないことが、こうした▼環境整備を遅らせ、▼女性の地方議会への参加が進まない原因となっているという、悪循環が続いています。

Q、今後、どのような取り組みが求められているのでしょうか?
A、人口減少が続く中、コミュニティーを維持するには、文字通り、住民全体で支えあっていかなければなりません。ただ、そのためには、みんなが納得し、活躍できる体制作りが必要で、それには、お金も手間もかかります。
いま、地方議会の大切さを理解してもらおうと、各地で、休日・夜間議会、あるいは、女性議会の開催といった取り組みが行われていますが、まだまだ不十分です。
一方、私たち有権者の側も、地域を支えるメンバーの一人として、積極的に議論に参加し、行動していく、そんな意識改革が求められているように思います。

(太田 真嗣 解説委員)

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