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「どうする私道管理」(くらし☆解説)

清永 聡  解説委員

今回は住民などが所有する「私道」の管理についてお伝えします。
いま、一部所有者が不明で、私道の補修などが進まないケースが出ています。法務省はこのほど、補修工事などを円滑に行えるようにガイドラインを初めてまとめました。

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【私道も所有者不明土地問題】

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A:道路には「公道」と「私道」があります。公道は国道や市区町村道などで、一般的に管理は行政が行います。これに対して「私道」は多くみられるのが、住民が複数で所有する「共有私道」です。地域の人が幅広く使う道路も多いのですが、多くの場合管理は所有している人たちが行います。

Q:どうしてそれがいま、補修が進まないケースが出ているのでしょうか。
A:一部で持ち主が所在不明になり、長い間相続登記がされないままで、所有者がすぐには分からなくなる「所有者不明土地」の問題が私道でも起きているからです。
特に、私道の場合は、自分のものだと主張する必要性を感じない人や、相続登記を忘れてしまうケースもあるようです。そこで、法務省のガイドラインは、一部所有者が不明の私道を管理する際の注意点をまとめたというものです。

【ケース1:壊れた私道の舗装は】

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Q:ガイドラインの内容はどういうものですか。
A:全国の自治体から法務省に寄せられたケースに基づいて補修や整備の例を示しています。今回は分かりやすくするため、いずれも私道を同じ持ち分割合で共同所有している場合で、あくまで1つの事例として紹介します。実際には対応が異なることもありますから注意してください。
例えば、舗装された私道があります。ところが一部に穴が開きました。このままだと通行している人が転んでケガをするかもしれません。しかし所有者の一部が所在不明です。こういう場合は、補修できるでしょうか。

Q:所在不明の人もいるので全員の了解を得ることはできません。どうなるのでしょうか。

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A:ガイドラインによると、これはあくまでも現状を維持する「保存」行為なので、民法上は単独でも補修を行うことができるそうです。

Q:1人でいいんですね。では、あちこちに穴が開いて、この際、道路を全部舗装しなおそう、と考えた場合は、どうでしょうか。

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A:「全部舗装しなおす」ということは、将来、支障が出ることをあらかじめ防ぐためなので「管理」にあたるとしています。ガイドラインによると、民法では過半数の同意が必要だとしています。この場合は、私道を所有している家は3軒ありますから、所在不明の1軒を除いた2軒が賛成すれば、舗装はできると考えられます。

【ケース2:私道を階段にするのは】

こういう場合はどうでしょうか。私道が坂道です。歩くのが大変なので、坂道を階段にしたい、と思いました。

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ガイドラインによると、これは、大きな「変更」を加えるため、民法上は全員の同意が必要になるとしています。つまり、所在不明の人がいるままでは、取りかかることは現実にはなかなか難しいということになります。

Q:いろんなケースがありますが、大きく分けると、「保存」「管理」「変更」の3つですね。
A:「保存」は単独でもできます。「管理」は過半数の同意。「変更」は全員の同意ということになります。

【補助制度の注意点は】

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Q:こうした補修の費用も私道は所有者が負担することになるのでしょうか。
A:多くの自治体は、補助などの制度を設けています。地域の人たちが利用していることや、公道に接していることなど、一定の公共性を条件にしているところが多いようです。
ただし、私道の所有者全員の同意を条件にしているところが多くなっています。ガイドラインが「過半数で工事が可能」だとしても補助金の条件はまた違うケースがあることに、注意が必要です。
Q:でも、所在不明の人からは、同意が取れません。
A:そこで自治体の中には、一部の所有者が不明の場合、承諾がなくても補助金を支給する制度を始めたところがあります。こうした所在不明者を含む私道への補助金の配慮は、一層広がってほしいと思います。

【ケース3:ゴミボックス】

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ここに「ゴミボックス」と呼ばれるゴミ集積場の金属製の大きな箱を置きたいというケースです。自治会からステンレス製、重さ50キロのゴミボックスを借り受けて設置する。その場所を決める場合です。
Q:家の前に置かれた人にとって、負担が大きいと思うんです。
A:ガイドラインによると、これも共有物の「管理」にあたるそうです。過半数の同意で設置できると書かれています。ただし、ガイドラインは、「よく話し合って、少なくとも設置される家の人の同意を得るなど、配慮してほしい」としています。法律上置くことができたとしても、ご近所でもめるとよくありません。トラブルを避けるために話し合っておくことは大切です。
どうせいないからと、ゴミボックスを所在不明の家の前に置いたらいいと考える人がいるかもしれません。しかし、所在不明の人がもし戻ってきたら、やはりトラブルになるおそれがあります。

【ケース4:樹木の伐採】

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さらに、こうした事例はどうでしょうか。所在不明の敷地に植えられていた樹木が伸びて、私道にせり出してきました。誰もいなくて管理が行われないため、境界線を越えて、通行にも支障が出てきました。
Q:持ち主がいれば切ってもらえますが、いないから、はみ出した部分は単独でも切ることができるんじゃないですか。
A:ガイドラインによると、法律上は、どこにいるか分からない所有者を相手に裁判を起こして、確定した上で、民事執行という手続きを経て切り落とすという手続きが必要だとしています。
これは他人の所有物だからという考え方です。ただし、制度が不備だと思います。実際に裁判を起こす人はまれなので、このままでは誰も手を出せなくなってしまう。所有者不明土地の課題の一つです。

【私道管理が困難になるおそれも】

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Q:所有者不明土地は今後、急増すると言われています。私道もこれから管理が難しいケースが増えそうですね。
A:私道管理も心配なことがあります。もしも、例えば私道の所有者の半分以上が不明になると、過半数の同意そのものも取ることが難しくなってしまいます。さきほどのゴミボックスの設置や舗装工事に対応できなくなる可能性もあるかもしれません。ほかにも、電柱や水道管、下水管などの維持管理にも支障が出る恐れがあります。
このガイドラインは、法務省のホームページから見ることができます。政府は今、所有者不明土地について、抜本的な対策を検討しています。私道にも不特定多数の人が通行する公共性が高いものが少なくありません。それだけに対策を急いでほしいと思います。

(清永 聡 解説委員)


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