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「日本のパスポートが『世界最強』!?」(くらし☆解説)

増田 剛  解説委員

私たちが、海外旅行や外国出張に出かける時に欠かせないのが、パスポート。きょうは、パスポートの最新事情について、お伝えします。外交担当の増田解説委員に聞きます。

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Q1)
増田さん、このタイトル、「日本のパスポートが世界最強?」となっていますが、これ、どういうことですか。

A1)
はい。「世界最強」と言うと、ちょっと盛りすぎた感もありますが、
実は、ビザなしで渡航できる国や地域の数を比較する「パスポートランキング」という調査で、日本が世界1位になったんです。
ビザというのは、簡単に言うと、外国への入国に必要な証明書のようなもので、例えば、日本国籍を持つ人が外国に入国する際、「この人の身元は確かで、入国しても差し支えないですよ」ということを示す書類や印のことです。査証とも言います。
ある国に渡航するにあたって、ビザが必要とされる場合は、事前に、日本にある、その国の大使館や領事館に行って、ビザを発給してもらわなければなりません。手続きも煩雑ですし、時間もかかります。
ところが、ビザなしで渡航できるとなると、パスポートさえ持っていれば、ビザの発給を受けていなくても、その国に入国できることになります。つまり、比較的簡単に外国に行くことができるわけです。

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Q2)
その、ビザなしで渡航できる国の数で、日本が世界1位になったわけですね。

A2)
そうなんです。こちらのランキングを見てください。

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国際的なコンサルティング会社のヘンリー・アンド・パートナーズが、国際航空運送協会の協力を得て、毎年、発表しているものです。
2月に発表された2018年のランキングによりますと、日本は、ビザなしで渡航できる国や地域が180で、調査対象となった199の国と地域のうち、最多でした。シンガポールと並んで、1位です。
日本は、去年、5位でしたが、渡航できる国が増え、ヨーロッパ勢を抜いて、首位に立ちました。
日本が首位になるのは、2008年のランキング発表以来、初めてのことです。ただ、今年のランキングをみても、ドイツが179、2位ですし、3位グループは178、フランス、イタリア、スペインなど、ヨーロッパ勢が多いですね。

Q3)
こんなランキングがあるとは、知らなかったんですが、それにしても、日本が1位というのは、うれしいですね。

A3)
はい。パスポートランキングで上位になるということは、ビザがなくても、渡航が許される国がそれだけ多いということ、つまり、日本の国や国民の信頼性がそれだけ高いことを意味するんです。
外務省も、今年、日本が1位になったことを歓迎しています。

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鈴木誉里子旅券課長は、「日本国旅券の信頼性の高さの表れで、うれしいです。日本人が外国で犯罪を行ったり、不法就労に従事するような、治安上の懸念が少ないと、各国で判断されたのだと思います。
加えて、日本国旅券が、技術的に高度なもので、偽造や変造が難しいことも評価されているのでしょう。外務省は、この対策に力を入れているので、うれしいです」と話していました。


Q4)
日本の国や日本人が、海外ですごく信頼されているということですものね。ただ、他の国はどうなのかも、気になりますね。

A4)

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そうですよね。
このランキングで下位の5か国を見ていきますと、アフガニスタンが、ビザなし渡航ができる国が24で、最下位、そして、下から数えて順に、イラク、シリア、パキスタン、ソマリアとなっています。いずれも、現在、戦争や内戦が行われている国、ないしは、最近まで行われていた国です。
また、関心がある方が多いと思いますので、お伝えすると、北朝鮮は40で、95位のグループ、かなり下位ですね。ちなみに、去年、クアラルンプールの空港で、キム・ジョンナム氏の殺害事件が起きたことを受けて、マレーシアは、北朝鮮国民のビザなし入国を認める措置を取り消していて、ランキングにも反映されています。

Q5)
なんだか、パスポートに、その国の置かれている状況が、反映されていて、興味深いですね。

A5)
そうですね。
また、今回、日本のパスポートは、信頼性という点で、高く評価されたわけですが、実は、他の面でも、より進化させて、世界最高水準を目指そうという動きが出ているんです。

Q6)
どういう動きですか。

A6)

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はい。まず、デザインです。外務省は来年度から、新しいパスポートを導入して、デザインを変更することにしています。
変更されるのは、パスポートの査証欄、出国や入国の際にスタンプを押すページです。現在は、桜の図柄が描かれていますが、これを、江戸時代の絵師・葛飾北斎の「富嶽三十六景」をモチーフにしたデザインに変更します。査証欄の見開きごとに、「富嶽三十六景」のうち、有名な「江戸日本橋」とか「凱風快晴」とか「神奈川沖浪裏」とか、24作品を印刷します。


Q7)
葛飾北斎、最近、ブームですものね。

A7)
北斎は、日本だけでなく、世界的に有名なんです。作品は、ヨーロッパに伝わって、モネとかドガとか、ゴッホといった印象派の画家に影響を与え、「ジャポニズム」と呼ばれるブームを生み出しました。
外務省は、「富嶽三十六景」を採用した理由として、「北斎は世界的に知られているし、富士山は日本を象徴する景観で、世界に日本文化を発信するのにふさわしいからだ」と説明しています。
ただ、別の理由もあるんです。

Q8)
何でしょうか。

A8)

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偽造・変造対策です。これまで査証欄の図柄は、全ページ桜でしたが、新しいパスポートでは、見開きごとに図柄が変わるので、偽造が難しくなります。パスポートには、偽造防止用のICチップがはさまれているんですが、これも、アップグレードする予定で、外務省は「偽造防止という面でも、世界最高水準になる」としています。

Q9)
信頼性でも、偽造対策でも、「世界最強」のパスポートを目指すということですね。

A9)

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そういうことです。
外務省は、この新しいパスポートを、来年の後半には、導入したいとしていて、今年の秋には、導入期日を発表したいとしています。
ですから、来年の後半以降、パスポートを申請したり、更新する際に、新しいパスポートの交付を受けることができそうですね。
ちなみに、交付にかかる手数料と収入印紙代は、現在、10年旅券で1万6千円、5年旅券で1万1千円ですが、新しいパスポートになっても、値段は変わらない見通しです。
ただ、私、ひとつ、気になることがあるんです。
これまで見てきたように、日本のパスポートのパワーは強力で、さらに進化しようとしています。
一方で、日本人の海外志向というのは、あまり高くないんです。

平成29年の旅券統計によりますと、日本の有効パスポート数は、およそ2977万冊。これを人口で割ると、日本人のパスポート取得率が出ますが、およそ23点5%、4人に1人の割合になります。
これは、欧米と比べると、かなり低い数字なんです。

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よく、日本人の内向き志向とか、最近の若者は海外離れが進んでいるとか、言われますが、データは、それを実証している格好です。
もちろん、海外に行くことが良いことばかりだと言うつもりはありませんが、「世界をこの目で見てやろう」という若者が少なくなっているのは、さみしい感じがします。外国の生活を経験し、異なる文化や価値観を学ぶことで、日本の良さを再認識したり、逆に、課題に気づかされることもあると思います。
「世界最強」のパスポートがあって、海外に行きやすい環境が整っているわけですから、ぜひ、それを活用してほしいですね。

(増田 剛 解説委員)


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