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「外国人観光客が支える 地方の活性化」(くらし☆解説)

今井 純子  解説委員

先週発表された全国の土地の価格を示す「地価公示」では、地方圏の地価が26年ぶりに上昇に転じたという点が大きな話題になりました。その背景に、外国人観光客がいるということなのです。その地価から、地方の活性化の動きを見てみたいと思います。今井解説委員。
 
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【そもそも・・地価が上がるというのは、いいことなのでしょうか?】
土地を持っている人、持っていない人で、受けとめは違うかもしれませんし、バブル的に上がるのは問題があります。ただ、特に、地方をみると、今、急速な人口減少で、「地方の消滅」が叫ばれています。誰もこなければ、いわゆるシャッター街や空き地になっていくかもしれません。
 
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地価が上がるというのは、その土地を活用したいという需要が増えているということで、活気の現れです。
 
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【その地価。どのくらい上がったのですか?】
きょうは、特に、経済活動の活発さを示す「商業地」の地価を見てみたいと思いますが、景気の拡大、そして、日銀の金融緩和を受けて、全国平均では、1.9%と3年連続で上昇しました。内訳をみると、東京、大阪、名古屋を中心とした3大都市圏は3.9%。そして、それ以外の、地方圏も、0.5%とプラスになりました。地方圏の地価は、バブル期の1992年以降、ずっと下がり続けていて、プラスになったのは、26年ぶりのことです。リーマンショックの前の前回の景気拡大のころも、地方圏の地価は下がり続けていました。それだけに、今回、上がったということは、景気拡大の恩恵が地方にもじわりと広がっていることを示しているといってもいいと思います。
 
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【地価が上がっている背景にいるのが、外国人観光客ということですか?】
そうです。実際、商業地の上昇率トップ3の地点を見てみると
▼    1位が北海道のスキーで有名なニセコの一帯です。
▼    2位が大阪市の道頓堀近く。
▼    3位が京都市の京都駅の南側。と、
いずれも、外国人観光客に人気のところです。ホテルやみやげ物屋を建設するために、土地を買いたいという需要が増えているためとみられています。

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【いずれも、非常に人気の高いところですね】
確かに、このあたりは、外国人観光客が集中しているところですね。それだけに、これまで、いかに、外国人観光客に地方に分散してもらうかということが課題になっていました。それが、地価をみると、人口減少や過疎に直面している地方でも上がり始めたところがでてきています。

【どのようなところですか?】
2つ紹介したいと思います。まず、香川県の高松市です。
ここには、日本庭園が有名な栗林公園があって、世界的な旅行ガイドで、「わざわざ旅行する価値がある場所」という最高ランクに評価されています。高松市の近隣にも、現代アートが人気の直島、それから、「こんぴらさん」の愛称で知られる金刀比羅宮もあります。
また、最近は、地域の店が、外国人観光客向けに、讃岐うどんを、こねるところからつくって、その場で食べることができる本格的な手打ち体験や、着物や浴衣の着付けをしてもらい街なかを歩くことができるといった、体験プログラムを充実させていて、

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県や市がこうした情報をSNSで、積極的に海外に発信したり、海外のイベントに出向いてアピールをしたり、広報活動に力を入れています。
こうした取り組みもあって、香川県を訪れて宿泊した外国人観光客は、2016年に、前の年より70%増え、去年はさらに27%増えました。

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【すごい勢いで増えていますね】
今後も、今月、民営化した高松空港が、アジア各都市からの路線を増やすなど、四国の玄関口として、高松への観光客の呼び込みに力を入れるとしています。
こうしたことから、ホテルやみやげ物屋など向けに需要が高まって、高松市の平均で、下がり続けていた地価が、今年、27年ぶりに上昇に転じました。

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【外国人向けの体験プログラムや熱心な広報活動がポイントになりそうですね。もうひとつは?】
広島県の尾道市です。
尾道は、坂のある歴史的な町並み、そして坂の上から見る景色が有名ですよね。でも、車が入れない場所も多くて、空き家が増えています。そこで、NPOが中心になって、市民や地元企業も協力して、10年以上かけて、少しずつ手作業で空き家をよみがえらせる取り組みを続けています。これまでに10軒以上の空き家を雑貨店やカフェ、ゲストハウスとして再生活用し、100軒近い空き家を尾道市空き家バンクなどを通じて、借りたいという人にマッチングしてきています。

【前にこの番組でもお伝えしましたが、使われていない古民家をうまく再生しているのですね。】
そう。そして、外国人観光客にも人気のスポットになっています。
尾道には、もうひとつ。尾道から今治につながる「しまなみ海道」もあります。サイクリングコースとして人気なのですが、広島県や尾道市が民間企業と連携して、尾道の海に面した倉庫を2014年にホテルなどの複合施設として再開発しました。ホテルは、自転車にのってチェックインできて、客室まで自転車を持ち込めるほか、施設で、自転車をレンタルしたり、メンテナンスしたりすることができます。これで、外国人観光客の間で、サイクリングの出発点として、尾道が、ぐんと人気を高めているというのです。

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尾道を訪れる外国人観光客の数は、おととしは、前の年より26%増えました。その勢いは続いて、今年、この複合施設のすぐ近くの一地点で地価が上がりました。尾道市で、上昇に転じる地点がでたのは、バブル期以来のことです。

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【外国人観光客が来てくれることが、活性化につながっているということですね】
そうです。最近は、2回目、3回目のリピーターが増えて、地方に向かう人も少しずつ増えています。こうしたリピーターが重視するのが、体験型のコト消費です。それだけに、うどん打ちやサイクリングなど、魅力的なプログラムをいかに増やして、外国人の観光客を増やせるか。という取り組みが活性化に向けて大事になってきます。

【でも、栗林公園とか、しまなみ海道のような人気の観光資源がない地域もありますよね】
なにもないように見えても、例えば、雪のある地域では、雪の中を歩くツアーとか、馬そり体験が人気を集めている地域もあります。四季折々の自然、温泉、食事、それから歴史、文化、アニメなど、これだけ多彩な観光資源がある国は、世界でもフランスと日本だけという専門家もいます。

【知恵と工夫次第で、観光客を呼び込み、地方の活性化につなげることができるということですね】
そうです。その上で、体験や滞在の中で、いかに地元の食材や特産品を提供できるかも地方活性化に向けてポイントになってきます。農業や地元のものづくりなどにも、恩恵の広がりがでてくるからです。

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地域を活性化して、そして、それを一時的なものに終らせないためにも、外国人観光客が、持続的に訪れてくれるための魅力を磨く、地道な取り組みがますます大事になっていくと思います。

(今井 純子 解説委員)

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