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「明治150年 どう振り返る?」(くらし☆解説)

増田 剛  解説委員

年が明けて、ことし=平成30年は、明治元年から150年の節目の年にあたります。これを記念して、ことしは、明治に関連した様々な事業が企画されています。政治・外交担当の増田解説委員です。

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Q1)
増田さん、ことしは、明治150年なんですね。

A1)
そうです。明治元年から150年です。
NHKの今年の大河ドラマも、「西郷どん」ですしね。言うまでもなく、明治維新の立役者、西郷隆盛を主人公にしたドラマです。
最近は、本屋さんでも、明治・幕末関連のコーナーが作られたりしてますし、文庫本の帯にも、このように、「維新150年」と銘打ったものが出てます。ちなみに、これは、私が夢中になって読んだ、司馬遼太郎さんの「翔ぶが如く」です。
また、政府も、内閣官房に「明治150年」関連施策推進室という専門部局を設置して、様々な記念事業を実施しています。
例えば、公募で、こんなロゴマークを作成しました。

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岩渕さん、見たことありました?(いや、なかったです)。
そうですよね。霞ヶ関の官僚も、明治150年を盛り上げようと、いろいろ努力しているんですが、これについては、まだちょっと、浸透してませんね。ただ、やる気はあるんです。たぶん。
そのやる気を表しているのが、今年、実施される関連事業の数です。現時点のまとめでは、国が主催するものが147。都道府県など自治体が主催するものが1018にのぼります。

Q2)
そんなにたくさんあるんですか。どんな事業ですか。

A2)
いろいろあるんですが、明治時代の資料の企画展示や講演会が多いですね。例えば、外務省が主催する事業で、「明治150年記念展示 国書・親書にみる明治の日本外交」というのがあります。

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諸外国の元首が明治天皇に宛てて送った、自筆の署名入りの手紙、非常に貴重なものですが、これらを展示して、日本外交の歩みを紹介しようというものです。

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これは、明治天皇が初めて受け取った国書で、イギリスのビクトリア女王が発した、当時の駐日公使パークスの信任状ですね。
イギリスがいち早く、明治新政府を、徳川幕府に代わる日本の正統な政府として承認したことを表しています。

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オーストリア・ハンガリー帝国のフランツ・ヨーゼフ皇帝が発した、修好通商条約締結に対する感謝状なんてものもあります。
この条約もそうですが、欧米列強と結んだ不平等条約の改正は、明治政府の最重要外交課題でした。

Q3)
他には、どんな事業があるんでしょう。

A3)
大がかりな事業としては、明治記念大磯邸園の設置というのがあります。これは、初代の内閣総理大臣を務めた伊藤博文の旧邸宅などがある神奈川県大磯町のおよそ6万平方メートルのエリアを公園として整備し、一般公開するというものです。国土交通省が所管する事業で、去年11月に閣議決定されました。

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具体的に公園として整備されるのは、「滄浪閣」と呼ばれる、伊藤博文の旧邸宅、旧大隈重信邸、旧西園寺公望邸、それに、旧陸奥宗光邸といった建物群があるエリアです。

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伊藤博文は、初代、5代、7代、10代と、4回にわたり、総理大臣を務め、日本最初の本格的な政党政治を行った立憲政友会の初代総裁も務めた、明治を代表する政治家です。大隈重信は、8代、17代の総理大臣で、今の早稲田大学の創立者。西園寺公望は、12代、14代の総理大臣で、政友会の2代目の総裁。陸奥宗光は、第二次伊藤内閣の外務大臣で、不平等条約の改正に辣腕を振るいました。あの坂本竜馬の一番弟子といわれました。
こうした高名な政治家達の邸宅や別荘が集中していたことから、大磯は「明治政界の奥座敷」とも呼ばれていました。
私は元々、政治記者だったんで、「政界の奥座敷」とか、そういう言葉を聞くと、つい興奮してしまうんですが、ここで、明治の政治家達が、夜な夜な酒を酌み交わしながら、政策の議論を戦わせたり、政局をめぐる密談をしていたんだと思います。

Q4)
当時について、いろいろ想像をめぐらせると、面白いですよね。

A4)
そう思います。このエリアについて、政府の有識者の検討会は、「立憲政治の確立に重要な役割を果たした先人の建物が、歩いて移動できる範囲に集中して残っていて、他に例を見ない」と意義を強調しています。政府は、今後、老朽化した建物の修復工事を行い、今年10月をメドに、一般公開を始める予定です。

Q5)
明治150年で、いろいろな事業をやっているのは、わかりましたが、政府がここまで力を入れるのは、なぜなんでしょうか。

A5)
政府としては、この機会に、明治の精神にならって、更に国家として飛躍する機運を盛り上げたいというところでしょう。
自治体としては、地域にゆかりのある人物や出来事をPRすることで、観光を盛り上げたいという狙いもあるかもしれません。
例えば、政府は、「明治150年関連施策推進についての基本的な考え方」という文書をまとめています。

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この中では、「明治の精神に学び、更に飛躍する国へ」というキャッチフレーズを打ち出しました。
「明治期には、能力本位の人材登用のもと、若者や女性が、外国から学んだ知識を生かし、新たな道を切り拓いた。明治に生きた人々のよりどころとなった精神を捉えることにより、日本の技術や文化といった強みを再認識し、日本の更なる発展を目指す」と説明しています。なんだか、すごく力が入ってますよね。

Q6)
そうですね。一般の人はそこまで意識していないと思います。

A6)
ちなみに、今から50年前の昭和43年、明治100年の記念式典が開催されたのですが、当時の佐藤栄作首相が行った式辞も、同じトーンでした。
「100年前、我々の先達は、勇気と英断をもって新しい時代の扉を開き、東洋の島国にすぎなかった日本は、近代化を成し遂げ、国際社会の重要な一員に成長した。この100年の歩みの中から、我々は、多くの教訓を学び取るとともに、日本国民の英知と勤勉に大きな誇りを持つことができる」。
当時の日本は、戦後の高度経済成長を経て、経済大国と呼ばれ始めた時期です。その自負というか、プライドがにじんでいますね。
ちなみに、明治150年を迎えた今の安倍総理も、明治100年当時の佐藤首相も、山口県の出身、維新の原動力となった、かつての長州藩のあった地方の出身です。
これも、力が入る理由かもしれませんね。
ただ、こうした中で、明治の意義を再認識するのは良いけれど、過剰に美化するのは良くないと考える人もいるんです。

Q7)
どういうことでしょう。

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A7)
はい。東京大学法学部の石川健治教授は、「脱亜入欧の考えのもと、近代化を進め、欧米列強と伍していったという意味で、明治の先人達は本当によくやった。ただその過程で、アジアを支配の客体として扱っていたことも事実で、明治の先人の歩みを評価すればするほど、アジアとの和解が難しくなる。歴史には、光と影があり、両方を見なければならない」と話しています。
また、NHKの番組「英雄たちの選択」のキャスターで、歴史学者の磯田道史さん。「国民的作家の司馬遼太郎さんは、明治という時代をひとつの理想として描いたが、その一方で、敗戦への道を進んだ昭和前期を日本国家の失敗と位置づけた。ただ私は、明治の中にこそ、昭和前期の病に至る病根があったと思う。江戸時代の遺産の上に近代国家を築いた明治の意義は大きいが、歴史は両面を見る必要がある」と話しています。
歴史を振り返り、学ぶ意味は、時代の正と負の両面を多角的に検証し、良い伝統は受け継ぐ一方で、過ちは繰り返さないことにあると思います。そういう意味で、明治150年の今年は、私たち日本人が歩んできた道と、これから歩む未来に思いを巡らせる、絶好の機会になるのではないでしょうか。

(増田 剛 解説委員)

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