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「消費者を守る 差し止め請求制度 10年」(くらし☆解説)

今井 純子  解説委員

不当な契約や勧誘をやめるよう、消費者団体が事業者に求める「差し止め請求」の制度が始まって、今年で10年。成果があがっている一方、課題も見えてきました。今井解説委員。
 
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【差し止め請求制度。そもそも、どのような制度ですか?】
不当な契約や勧誘、それに不当な表示について、国が認定した、民間の消費者団体が、ある意味、行政や消費者に代わって、事業者に是正するよう申し入れて、応じない場合は、裁判も起こすことができる制度です。もともと、被害者がおカネを返してと、個別に事業者を訴えることはできましたが、それだと、他の人に対する事業者の「やり得」は続いてしまいます。不当な行為そのものをやめさせなければいけないということで、2007年にスタートしました。10年たってさまざまな成果がでています。

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【どのような成果でしょうか?】
▼ 1つ目は、ネット通販の不当な表示についてです。
「3280円が、今なら980円」と書いてあり、お得だと思って申し込んだら、結果的に1万4100円を請求された、という被害です。
実は、ホームページをよく見ると、わかりにくいところに、「5回以上の定期購入が条件で、2回目からは、一個3280円になる」と、小さく書いてあったのです。このため、消費者団体が「不当な表示だ」として差し止めを求めて訴えを起こしました。結局、途中で和解が成立して、「5回以上の定期購入が条件で、最低1万4100円がかかる」ことが、はっきりわかる表示に改められました。

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▼ 2つ目は、家の賃貸契約についてです。こちらは、契約書に「家を借りている人が、認知症となって後見人を頼んだら、それだけで家主は契約を解除できる」つまり、すぐに家から出ていってもらえるという条項が盛り込まれていました。消費者団体は、「消費者の利益を一方的に害する不当な内容で、無効だ」として裁判に訴えました。その結果、無効と認められて、契約が改められました。この趣旨は、法律の改正にも反映される方向です。

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▼ 3つめは、家を建てる契約についてです。契約をしたあと、設計を詰めていく段階で、納得できなくなり解約したら、事業者には、まだほとんど費用がかかっていない段階なのに、請負代金の20%を違約金として請求された。3000万円の契約なら600万円の違約金です。このため、消費者団体が、消費者の利益を一方的に害する条項で、無効だと求めました。その結果、これは、裁判になる前に、事業者が受け入れて、実際に受けた損害額を消費者に払ってもらうという内容に、その後のすべての契約書を改めました。

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【裁判の前に解決したのですね】
そうです。やはり、訴訟というカードを消費者団体が持っているのが大きな力になっているのです。それまで、いくら消費者や消費者団体が「違法だ」と指摘してもしらんふりだった事業者が、この制度では、ほうっておくと、裁判を起こされるということで、消費者団体の申し入れに真剣に向き合い、訴訟の前に是正するケースが多いのです。

ほかにも、
▼ アイドルのファンクラブの会員規約に、ファンに一方的に不利な条項がある。
▼ 予備校を途中でやめたところ、前払いしていた授業料を一切返さないといわれた。
こうした規約や契約書についても、消費者団体が申し入れをして、是正されました。

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【こんなものだと思って諦めていた方も、多いと思いますよね】
そうですよね。実は、事業者も、すべてが悪質というわけではなく、こんなものだと思っていた。申し入れを受けて慌てて是正したというケースもあります。消費者団体は、年々、取り組みを強化していて、これまでに、およそ450件申し入れをして、およそ50件の裁判を起こしています。

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【契約が改められて、知らないうちに、恩恵を受けていたということがありそうですね】
ただ、10年経って、課題も見えてきました。資金不足です。事業者に申し入れをしたり、差し止めの裁判を起こしたりできる消費者団体は、法律や消費生活の専門家がいるか、活動実績があるか。国がチェックをして認定する形になっています。少しずつ増えて、今、全国に16あります。

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ただ、活動をしている弁護士や大学の先生といった人たちは、ほとんどが手弁当。ボランティアで制度を支えています。このままではいつまでも続けることはできないという指摘もあがっています。

【ぜひ活動を続けて欲しいですよね。なにかいい方法はないのでしょうか】
消費者団体が、行政に代わって、事業者の違法な契約や勧誘を改めさせている面がありますので、国が財政的な支援をすることを、ぜひ検討してほしいと思います。
その上で、私たちにできることもあります。今年、こうした消費者団体の活動を社会で支えようと、「スマイル基金」という基金が発足しました。一般の人や企業から寄付を募っていて、先週、裁判を抱えている6つの団体に、最初の支援を決めました。寄付をしたいという方は、こちらの番号に電話をするか、ホームページで調べるかして、ぜひ検討していただきたいと思います。

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【ひとつ気になっているのは、この制度で事業者が契約などを是正したら、その前に、被害を受けた人は、おカネを取り戻せるのですか】
残念ながら、この制度では、事業者におカネを返す義務は生じません。確かに、違法だという指摘を受けて是正したわけですから、その結果を材料に交渉をすれば、おカネを取り戻しやすくなることは期待できます。それでも消費者が、個別に交渉しなくてはいけません。 
ただ、この点ついては、去年、特定の消費者団体が、消費者に代わって事業者を訴えて、まとめておカネを返してもらう、新しい制度がスタートしました。裁判はこれからですが、期待したいと思います。

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【この制度では、すぐにおカネが返ってこない。となると、被害を受けたかもしれないという場合、どうしたらいいのでしょうか】
▼ まずは、自治体の消費生活センターに相談することです。全国共通の消費者ホットライン「188」に電話をすれば身近なセンターにつながります。助言を受けて、事業者と交渉すれば、おカネが返ってくるかもしれません。センターが斡旋をしてくれる場合もあります。
▼ その上で、お住まいの地域の「適格消費者団体」にも情報を提供していただきたいと思います。インターネットで、「消費者庁・適格消費者団体」と入れて検索すると、一覧がでてきます。話をした結果、消費者団体が是正を求めて、事業者がそれに応じれば、その先、多くの人の被害を防ぐことにつながります。また、時間はかかりますが、その結果を材料に事業者と交渉すれば、被害を回復しやすくなることも期待できます。
▼ 今週土曜日には、16の消費者団体が協力して、若者の消費者被害についての電話110番を開きます。若い方でしたら、ここに相談をするのも、ひとつの方法です。
 
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 事業者のやり得を許さないためにも、解約金が高い。消費者に一方的に不利な契約ではないか。そう思ったときには、泣き寝入りせずに、まずは、相談をすることが大事だと思います。

(今井 純子 解説委員)

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