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「足りるの? インフルエンザワクチン」(くらし☆解説)

中村 幸司  解説委員

11月に入るとインフルエンザの流行が気になってきます。ただ、2017年から18年にかけての冬は、インフルエンザのワクチンが不足するのではないかということが伝えられています。
本当に不足するのか、何が起きているのか考えます。

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◇インフルエンザワクチンの需給状況
インフルエンザワクチンの需要と供給の関係はどうなっているのでしょうか。

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上のグラフは、2016年10月から2017年2月ころまで(2016/17シーズン)のワクチンの需要と供給を累計で示しています。メーカーが供給した量が青い線、医療機関に納入された量、つまり需要が赤い線です。この差が在庫ということになります。昨シーズンは、常に在庫がある状態で、ワクチン不足にはなりませんでした。

では、青い供給量が2017/18シーズンはどうなるのかをみてみます。

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11月以降、供給量が需要量を下回っています。これでは在庫もなくなり、ワクチンが足りないということになります。前のシーズン残ったワクチンは使えません。

◇ワクチンの供給量が減る原因
なぜ、ワクチンの供給量が減るのか。それは、より効果のあるワクチンを導入しようとして、うまくいかず、製造が遅れたためです。

まず、ワクチンについてみてみます。

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ワクチンは、インフルエンザのウイルスを増やして、それを死滅させるなど処理して、作ります。からだに注射すると免疫ができて、感染を予防したり、感染しても症状が比較的軽くすんだりします。
インフルエンザのウイルスは、いま世界中に大きく分けて4種類のウイルスがいます。

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▽「A香港型」と呼ばれる仲間、
▽2009年に「新型インフルエンザ」と呼ばれたウイルスの仲間、
▽B型にも、大きく2種類あります。
いまのワクチンは、4種類を混ぜてつくられています。こうすることで、どのウイルスにも予防効果が期待できるわけです。

ところが、4種類のうちA香港型は、他に比べてワクチンの効果が製造段階で低くなってしまうと指摘されています。

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A香港型のいろいろなウイルスの中で、効果が低くならないウイルスが、日本で新たに見つかりました。

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そこで2017/18シーズン、A香港型については新たに見つかったウイルスを使ってワクチンを作ることになりました。こうすれば、A香港型にもこれまでより高い効果が期待できると考えられたためです。

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ただ、予期せぬことが起きました。
ウイルスがうまく増えないことがわかったのです。ワクチン生産量が、前の年より、およそ30%も減ってしまうことがわかりました。

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このままだとワクチンが大幅に不足して、接種できない人が相次ぐなど、社会的な混乱の恐れも高くなります。
検討の結果、新しいウイルスを使うことを断念し、A香港型は前のシーズンと同じウイルスでワクチンを作るよう切り替えました。

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こうした方針変更の影響で、1か月ほど製造スケジュールが遅れてしまったのです。

こんなに遅れる前に、問題が起きることは分からなかったのか、疑問を持つかもしれません。実は、メーカーが試験的に製造したときは大丈夫だったのですが、大量生産をしてみたところ、ウイルスが増えないという現象が起きたということです。過去にこうしたケースはなく、予期することはできなかったといいます。
次のシーズン以降、同じようにならないようにするために、詳しい原因の解明が求められています。

◇ワクチン不足の対策
今シーズンの供給量が減った理由は以上のとおりですが、下のグラフを見てみるとワクチンが不足してしまいます。

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そこで厚生労働省は、ワクチンの使い方を効率的にすることで、需要つまり使う量を減らすとしています。それを前提にした2017年7月現在の見通しが下のグラフです。

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「効率的にする」とは、ワクチンの接種回数を適切にするということです。

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13歳未満は、2回打った方が効果は高まるので2回接種ですが、13歳以上は、2回ではなく、1回が原則です。
大人も2回接種した方が効果は上がると考えている人も少なくないようです。

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こちらは成人についてのデータですが、棒グラフの高さは免疫がある程度できた人の割合、つまりワクチンの効果を示しています。
2回接種の方がむしろ効果下がっていますが、これは誤差によるもので、1回接種でも2回接種でも効果は変らないということが読み取れます。変らないのであれば、1回接種で十分ということになります。

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13歳以上の1回は「原則」とされています。免疫力の関係でワクチンの効果が出にくい人など、医師が必要と判断したケースは2回打つ場合があるということです。
しかし一方で、1回の接種で効果がある人に対して、2回接種しているケースが一定程度あったのです。これでは、ワクチンを有効に使っていないことになります。

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適切な接種回数にするなど、効率的にワクチンを使うようにすれば、2017/18シーズンは前のシーズンより8%ほど、量にして200万本あまりワクチンが少なくてすむと、厚生労働省は試算しているのです。
上のグラフでは、2017年11月の終わりころから12月にかけては、需要と供給が逆転していて在庫がなくなりそうですが、その状況は、なんとか回避できる見通しになりました。
ワクチンメーカーは、製造のペースを上げるなど供給の前倒しをしています。

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その結果、11月6日に発表された10月現在の見通しが、上のグラフです。供給が追いつかない状況は避けられそうになってきているということです。
ただ、不足しないといっても、12月初めのころは需要と供給が接近しています。このため、医療機関によっては、ワクチンをすぐに接種できないということが起きることが考えられます。
一方で、最終的な生産量は当初の見通しより100万本あまり増えることも明らかになりました。希望しているのに「いつまでたってもワクチンがない」ということは避けられそうな状況になってきました。

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ワクチン不足にならないよう厚生労働省は、医療機関に対して、
▽13歳以上の原則1回接種の徹底
▽必要以上にワクチンを早く注文して買い占めるようなことをしたり、多量に注文したりしないよう呼びかけています。

さらには、全国をまとめた数字の上では足りていても、一部地域で不足するということが起きないようにしなければなりません。厚生労働省は、自治体や業者などに対して、地域によってワクチンが偏在しないよう配慮するよう求めています。
こうした対応がきちっとできるかどうかが大切になっています。

◇私たちはどうすればいいのか
私たちひとりひとりができることは何なのでしょうか。
医療機関が、こうしたことを実践できるように、13歳以上は原則1回接種であるといったことを知っておくこと、不足が心配だといって、複数の医療機関にワクチン接種の予約を入れるようなことをしない、こういったことを心がける必要があると思います。
医療機関や、私たちがこうしたことを徹底することが、特に2017/18シーズンは大切です。

さらに、ワクチンを接種した場合でも、インフルエンザに絶対に感染しないということにはなりません。うがいや手洗いといった毎年、冬に心がけている基本的なインフルエンザ対策をもう一度確認して、インフルエンザから身を守るようにしてほしいと思います。

(中村 幸司 解説委員)

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