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「世界自然遺産へ 奄美・沖縄 現地調査」(くらし☆解説)

土屋 敏之  解説委員

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◆日本が来年夏の世界自然遺産への登録を目指している島々で、国際機関による現地調査が行われている。

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調査が行われている候補地は、鹿児島県の奄美大島と徳之島、沖縄県の本島北部、いわゆる「やんばる」地域と、西表島の4か所です。これらの島は数百万年前は大陸とつながっていたとされ、その後切り離されたことで生物が独自の進化を遂げ、その貴重な生態系が今も残されている所という共通点を持っています。例えばアマミノクロウサギ、ヤンバルクイナ、イリオモテヤマネコなど固有の動植物が豊富に残されていることから、まとめて一つの候補地として2月に日本政府がユネスコに推薦しました。登録されれば、屋久島・白神山地・知床・小笠原諸島についで国内で5番目の自然遺産となります。登録されるかどうかは来年7月頃のユネスコの世界遺産委員会で決められますが、その判断を左右するのが、IUCN・国際自然保護連合の勧告です。
今回の調査はIUCNが、登録に値するかなど勧告の内容を決めるため、専門家を派遣したものです。今月11日~20日まで4島をまわり、簡単に言えば日本政府が提出した推薦書の中身を中立的な立場で検証する、といった意味合いがあります。
 
◆どんな調査が行われている?

今回訪れたのはドイツ人とカナダ人の2人の専門家です。日本の関係者から説明を受けた上で自らの目で調査を行います。16日月曜日には沖縄県国頭村、いわゆるやんばるの森で調査が行われました。また、13日金曜日には奄美大島の最高峰、湯湾岳に調査に入っています。このあたりは年間降水量が3000ミリ近い亜熱帯の森で、アマミノクロウサギなど希少生物の宝庫として知られる地域です。

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調査のほとんどは非公開で詳しい結果も公表されませんが、世界自然遺産に向けた評価のポイントは大きくは2つあるとされます。第一に、生態系や生物多様性について世界自然遺産にふさわしい価値があるかということ。もう一つは、それを保全する十分な対策が取られているかです。

◆奄美・沖縄が世界自然遺産に認められる可能性は?

生態系や生物多様性の価値そのものは十分世界遺産に値すると思います。国内や海外で既に自然遺産になった地域と比べても、固有の生物が豊富な生態系は専門家から高く評価されています。それにも関わらずこれまで推薦されていなかった背景には、保全する上での課題の多さがあります。
      
◆どんな課題がある?

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例えば日本政府の推薦書の中で、現在の主な脅威としてあげられているのはこちら。まず、希少動物の生息地が人口の多い地域に近接していることもあって、車にひかれて死んでしまう交通事故が多発しています。そして、希少な昆虫や植物などの違法な採集や盗掘も問題視されています。これらの対策として、啓発活動や地元の人たちによるパトロールも行われていますが、無くすのは容易ではありません。さらに深刻なのは、外来種の侵入によって希少生物が襲われ食べられてしまう等の問題です。代表的なのはマングースです。かつて沖縄本島と奄美大島に人が持ち込んだマングースはヤンバルクイナなどを襲うことが問題になって、国や県が駆除を進め、これはかなり対策が進みました。ところが今度は、野生化した猫がアマミノクロウサギやヤンバルクイナを襲う問題が浮上してきました。
鹿児島大学の研究者が設置した無人カメラで、今年2月、野生化した猫が生後一月あまりのアマミクロウサギを襲う瞬間が撮影されました。

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動画ではこれが初めてですが、スチール写真では以前から奄美大島でも徳之島でもクロウサギを襲う様子が撮影されていて、猫の糞の分析からもかなりの被害が出ていると見られます。なぜこういうことが起きるかというと、アマミノクロウサギは元々肉食ほ乳類がいない環境で進化したため、警戒心も薄く、猫のような優れたハンターには簡単に捕まってしまうと言います。

◆そうするとネコもマングースのように対策が必要?

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そうなります。特に奄美大島ではこれまで対策が遅れていて、山の中に住み着いた猫だけで1千匹前後、主に集落にいる野良猫を合わせると1万匹ぐらいいるとも言われています。ようやく先月19日に国と地元自治体、専門家などが参加した会合で猫の管理計画を作る方針がまとまりました。国と自治体が連携して山の中の猫を捕獲し収容する。そして、引き取ってくれる人を募り譲渡するというものです。ただ、奄美大島全体でも人口は6万人ほどですし、全ての猫を譲渡するのは到底困難と見られ、どうしても譲渡できない場合は処分することもやむを得ない、との方針が示されました。こうした計画は今回、IUCNの専門家にも説明されました。しかし、この方針に島外の愛護団体などからは強い反発が出ています。今月、1万人を超える反対署名が環境省などに届けられました。

◆どうしたら解決できる?

これは難しい問題です。世界遺産登録のために必要かどうか、という以前に、数百万年かけて育まれてきた島独自の生態系を守るためには外来種である猫の排除は欠かせないと思います。一方で、猫の殺処分には抵抗を感じる人が多いのも事実でしょう。奄美の猫好きの人たちの集まり「奄美猫部」の代表は、1匹でも多くの猫を救うため、猫を飼いたいと思っている島外の人たちにも奄美の猫を引き取ることも選択肢に入れてもらえたら、と話していました。そして、この問題は最終的には、猫を決して捨てないこと、そして屋内で飼うことが徹底されないと、解決しません。どれだけ猫を捕らえても新たに放す人がいれば希少動物の被害も無くならないからです。
      
◆今後、世界遺産登録に向けてはどのように進んでいく?  

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現地調査はきょうは西表島で行われ、20日で終了予定です。調査結果はIUCNに報告され様々な分野の専門家の間で検討が行われることになります。そして、来年5月頃までにIUCNが世界遺産登録にふさわしいかどうかの勧告を出して、7月の世界遺産委員会でこれを元に決定される、という流れになる見込みです。

(土屋 敏之 解説委員)

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