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「性犯罪"厳罰化"今後の課題は」(くらし☆解説)

清永 聡  解説委員

性犯罪の厳罰化などを盛り込んだ改正刑法が施行されました。
どのような内容が見直されたのか、そして今後の課題は何かをお伝えします。

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【改正のポイントは】
Q:「性犯罪」の法律が変わったということも知りませんでした。
A:6月に成立してすでに施行されています。当時はテロ等準備罪の審議が行われていたこともあって、あまり大きく注目されたとは言えない状態でした。ただ、とても大事な見直しです。

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まず名前が変わりました。「強姦罪」と呼ばれていたものが「強制性交等罪」になりました。そしてこれまで女性だけだったものが、性別にかかわらず被害者になり得るとしています。それから罰則を厳しくしました。法律上の下限を、これまでの懲役3年から5年に引き上げました。また、告訴の要件をなくしました。
告訴する場合は、被害者が事件について警察で詳しく話をして、さらに相手の処罰を求める手続きをとらなければなりませんでした。しかし、こうしたデータもあります。

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平成27年の強姦罪の検挙の件数は1100件です。しかし、「全国被害者支援ネットワーク」によると相談は5800件。罪名別では最も多くなっています。さらに、内閣府の調査で、「性暴力の被害を誰かに相談した」と答えたのは31、6%。7割近くは誰にも話せていないことがうかがえます。
改正には告訴を不要にして、こうした泣き寝入りを少しでも減らそうという狙いもあります。

【課題1・暴行脅迫の要件は】
Q:ところで、課題はどんなところにありますか。
A:1つは、法律が改正されても、罪に問うことができないケースがある、ということです。
強制性交等罪には「暴行や脅迫」という条件があります。つまり暴力をふるったり、脅したりしたことが証明されないと犯罪が成立しない可能性があるんです。
しかし、特に女性は怖くて体が凍り付いて、抵抗できない場合もあると思います。
ほかにも、職場の先輩と後輩とか教師と教え子など、被害者の立場が弱い場合もあって、暴行や脅迫が行われなくても被害にあう可能性があります。
このため支援団体は「暴行や脅迫」の撤廃を求めていましたが、今回は見送られました。

Q:どうしてだったのでしょうか。
A:「暴行や脅迫」がないと、むりやり性的暴行を行ったという証明が難しいという考え方なんです。反対する人の中には「この条件がなくなればえん罪を生む恐れがある」という声もあります。この点は、大きな課題として残されました。

【課題2・ワンストップ支援センターの整備を】
Q:被害者の秘密を守ってくれる相談窓口は整備されているのでしょうか。
A:今全国で、国も支援して性暴力の被害者のために無料で相談に応じる「ワンストップ支援センター」という施設が作られています。東京の場合は、「東京都性犯罪・性暴力被害者ワンストップ支援センター」の機能を「特定非営利活動法人  性暴力救援センター・東京」(略称「SARC(サーク)東京」)が担っています。被害者を守るために場所は明らかにしていません。
「SARC東京」はこのセンターを24時間体制で担当しています。スタッフは40人あまりいて、交代で寝泊まりをしながら被害者の相談に応じています。電話だけでなくスタッフが直接出向いて支援も行っています。私が取材で訪ねた日も何度も電話が鳴っていました。1年間の相談や支援の件数は、6200件に上っているということです。

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Q:直接の支援というのはどういうことをしているのですか。
A:性暴力の被害を受けた人がまず行く必要がある場所は、警察と病院です。
ただし1人では、その勇気がない人も多いと思います。その場合、スタッフが同行してくれます。もちろん警察への届け出をするかどうかは、本人の意思を尊重します。ほかにもカウンセラーや弁護士なども紹介してくれるということです。
「ワンストップ」という名前通り、ここが性暴力の被害者を総合的に支援する拠点なんです。

Q:全国にどのくらいあるのですか。
A:内閣府は2020年までに全国の都道府県に設置する目標を立てているのですが6月の時点で38の都道府県にとどまっています。1つもない県もあるのです。現在も設置の準備が進められているところもありますが、人口からすれば窓口は300カ所以上必要だという指摘もあって、専門家はまだまだ足りないと話しています。

【勇気を持って声を】
Q:見直しは行われるのでしょうか。
A:この法律ができたときに、3年後にはさらに必要な措置を検討することも盛り込まれました。支援する団体のスタッフは、「暴行や脅迫」という条件について3年後の見直しをさらに求めていきたいとしていました。また、付帯決議ではワンストップ支援センターの充実も盛り込まれました。これからも必要な対策を議論して取り組みを進めてほしいと思います。
最後にもう一つ、こうしたケースで言われるのが「被害者にも落ち度がある」という言葉です。しかし、それが性暴力を正当化する理由には、決してなりません。さきほどの動画のように自らを責める被害者は少なくないそうです。支援する人たちは、こうした言葉が、被害者をさらに傷つけ、泣き寝入りを増やしていると指摘しています。

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東京の支援センターの番号は03-5607-0799です。また、局番なしの「#8103」に電話すると各都道府県警察の「性犯罪被害相談窓口」につながります。
どうか、勇気を持って声を上げてほしいと思います。

(清永 聡 解説委員)

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