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「健康長寿 鍵を握る高齢者の"フレイル"予防」(くらし☆解説)

飯野 奈津子  解説委員

健康長寿の鍵を握ると注目されている高齢者のフレイル予防について、
飯野解説委員です。

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<フレイルという概念>
フレイルは、老化を研究する専門家の学会が3年前に提唱した概念なので、まだ一般にはあまり知られていないかもしれません。フレイルは、「虚弱」を意味する英語「frailty」を語源として作られた言葉です。

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年齢を重ねると徐々に心身の機能が衰えていきますが、フレイルは、「介護が必要となる状態」と「健康」の間の期間。つまり、介護が必要とまではいかないけれど、様々な機能が衰えてきた状態とされています。
特徴は、筋肉の量が少なくなって起きる身体的な衰えだけでなく、認知機能が低下したり心が沈んだりする認知・心理的な衰え、人とのつながりが減って閉じこもったりする社会性の衰えなど多面性があり、それぞれが重なり合い影響しあっているということです。たとえば、会社勤めだった人が定年退職して、身体は元気ですが、地域とのつながりを持てず家に閉じこもりがちになったとします。そうした社会的フレイルをきっかけに、心が沈んでしまい、食欲がなくなり、筋肉が衰えていく。筋肉が衰えるとさらに外出が難しくなって心が沈んでいく。そうしたイメージです。

<重要なのは早期の気づきとて適切な対応>
フレイルで重要なのは、早い時期にフレイルの兆候を見つけて適切な対応をとれば、心身の機能の低下を遅らせたり、健康な状態にもどしたりできるということです。

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段差に躓きやすくなったり、ペットボトルのふたを開けずらくなったりすると、年をとったから仕方がないと見過ごしてしまいがちですが、それをフレイルの兆候かもしれないと自覚して、早い段階で生活を変えれば、元気な状態に戻ることもできるということです。

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<なぜ今、フレイル予防が注目されるか>
これまで健康長寿には、生活習慣病の予防が重要といわれてきましたが、なぜ、今、フレイル予防が注目されるのでしょうか。フレイルは70歳を過ぎたころから顕著になるといわれていますが、まさにその世代が今後増えていくからです。高齢になればなるほど、生活習慣病の予防だけでは健康を保てないことがわかってきました。

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介護を受けている人が、主に何が原因で介護が必要になったのかみてみると最も多いのが認知症、次いで脳血管疾患、高齢による衰弱、骨折転倒、心疾患などとなっています。生活習慣病に関連する原因を青、フレイルに関係する原因をオレンジに色分けすると、オレンジのフレイル関係が半数以上にのぼります。これをみても、介護が必要になる前の時期のフレイル予防がいかに大事かわかります。

<フレイル予防は3つの柱で>
では、フレイルを予防するには何が必要なのでしょうか。

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「栄養」「運動」「社会参加」この3つが柱です。まず、重要なのが栄養です。高齢になると、食欲が落ちたり、かむ力や飲み込む力が衰えたりして、低栄養になりがちなので、しっかりと栄養をとることを心がけることが大事です。生活習慣病予防では、太らないように、腹八分目がいいなどといわれますが、フレイル予防では、しっかり食べることが重要なのです。特に高齢者は、筋肉量の減少が心配なので、筋肉のもととなる良質なたんぱく質を若い人たち以上に摂る必要があります。目安は、体重1キロ当たり1グラム。体重60キロの人なら60グラムのたんぱく質を、毎日食事からとることが望ましいとされています。たとえば、朝牛乳一本と卵一個、昼に生姜焼き2枚くらい、夜に焼き魚、このくらい食べてもたんぱく質の摂取量は60グラム程度ということです。
2つ目の柱が運動、3つ目の柱が社会参加です。筋肉は使わないとどんどん衰えていきますから、毎日意識して、身体を動かすことが大切です。自分にできそうな簡単な筋トレをとりいれることも筋力維持につながります。そして、社会参加。趣味の活動などに参加することは、外出の機会が増え身体を動かすことにつながりますし、仲間とおしゃべりを楽しむことで、気持ちが明るくなる効果も期待できます。
この3つの柱をあわせて取り組めば、フレイル予防につながります。

<注目される“フレイルチェック”>
自分がフレイルかどうかどう判断すればいいのでしょうか。短期間に体重が減ったり、歩く速度が遅くなったりすることが一つの目安といわれていますが、まだ統一的な判断基準はありません。その中で東京大学高齢社会総合研究機構の飯島勝矢教授が、大規模研究をもとに考案した、フレイルチェックという方法が注目されていて、これを使ってフレイル予防に取り組む自治体も出てきて
います。

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そのフレイルチェック。指輪っかテストとイレブンチェックという質問があります。まず筋肉量が減っていないかどうかをチェックする指輪っかテストです。両手の親指と人差し指で輪を作り、利き足でない方の足のふくらはぎの一番太い部分を囲みます。足が太くて囲めない場合やちょうど囲める場合は心配ないのですが、足が細くて指との間に隙間ができる人は、筋肉量が減ってフレイルの可能性があります。
続いてイレブンチェック。栄養、口腔、運動、社会性・こころに関わる11の質問です。たとえば、栄養口腔に関する質問では「野菜と主菜(肉または魚)を毎日2回以上食べるか」「お茶や汁ものでむせることがあるか」。運動では「ほぼ同じ年齢の同性と比較して歩く速度が速いと思うか」。社会性・こころの質問では「昨年と比べて外出の回数が減っているか」「何よりもまず、物忘れが気になるか」といったことを聞いています。「はい」「いいえ」で答えて、フレイルの兆しがあるか、生活習慣に問題がないかみていき、問題があれば改善を促すというのが、フレイルチェックの狙いです。

<自治体で始まるフレイル予防>
東京の西東京市は、このフレイルチェックを使ってフレイル予防を始めた自治体の一つです。7月に実施されたフレイルチェックには、近くに住む10人余りの高齢者が参加して、指輪っかテストやイレブンチェックに挑戦しました。そのあと、足腰の筋肉やバランスをチェックする立ち上がりテストや、舌ぜつのチェックなども行われ、最後にフレイル予防について具体的に学びました。

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こうしたフレイルチェックを仕切るのは、フレイルについて研修を受けた、同じ地域に住むフレイルサポーターです。高齢者が多く、この場が、元気高齢者の活躍の場にもなっています。このフレイルチェック、半年後にまた行うことになっているので、参加者からは次は良い結果が出るようがんばりますといった声が聞かれました。

<気づきと生活見直しのきっかけづくりを!>
こうした機会があると、フレイルの気づきと生活見直しのきっかけになります。自分がフレイルかどうか、高齢者自身が気づきにくいということもありますから、地域の中に、気づきの場を設けて、高齢者が一緒に健康を目指して頑張っていけるような環境を整えていくことが、高齢化が進むこれからは、必要になるのではないかと思います。

(飯野 奈津子 解説委員)

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