NHK 解説委員室

解説アーカイブス これまでの解説記事

「ユニセフ最新報告 ~日本の子どもの『豊かさ』は?~」(くらし☆解説)

別府 正一郎  解説委員

世界のほかの国に比べて日本の子どもはどれほど豊かに暮らしているのでしょうか?ユニセフ・国連児童基金が、日本などの先進国の子どもをとりまく状況を調べた最新の報告書から見てみたいと思います。

k170628_1.jpg

【ランキング】

k170628_2.jpg

この報告書はユニセフが今月発表したものです。日本を含む世界の豊かな41か国の主に18歳未満の子どもの状況を調べたものです。名づけてレポートカード、つまり「通信簿」です。
日本の子どもをめぐっては数年前から貧困の問題が注目されています。その一方で、有り余るほどのものに囲まれて贅沢に育っていると話す人もいます。では、ほかの豊かな国に比べて日本の子どもの豊かさは何位でしょうか?
ランキングを上位から見ると1位はノルウェー。ドイツ、デンマークと続き、上位には北欧の国が目立ちます。アジアの国では韓国が8位。日本の順位は12位です。アイルランドの次で、イギリスよりは上です。

k170628_3.jpg

順位を出すにあたり、ユニセフでは、まず、「貧困」や「健康」それに「教育」、「栄養」「格差」など子どもの暮らしに直結する10の分野を選びました。次に、それぞれの分野に関連するデータを集めて分野ごとの順位を出しました。そして、分野ごとの順位から先ほどの総合順位が出されました。国によってデータの取り方や時期が異なることもありますので、順位はあくまで一定の傾向を表わすものと割り切って見る必要はあります。

【ランキングを出した理由】
こうしたデータ集めの難しさを抱えながらも、なぜユニセフは今回の報告書を出したのでしょうか?ユニセフといえば、アフリカや南米などの途上国の子どもへの支援活動で知られ、途上国の子どもの状況を調べた報告書はいくつも出しています。

k170628_4.jpg

しかし、豊かな国でも子どもを取り巻く状況が厳しさを増す中、2000年以降から豊かな国の子どもに関する報告書をほぼ年に一回出しています。今回、先ほどの複数の分野をまとめて総合順位を出したのは初めてです。より多くの人に先進国の子どもの苦境にも目を向けるきっかけにしてほしいと考えたためです。

【日本の結果】

k170628_5.jpg

主な分野での日本の順位です。
「栄養」・・・1位
「就労」・・・1位
「健康」・・・8位
「教育」・・・10位
「貧困」・・・23位
「格差」・・・32位

k170628_6.jpg

▼日本が1位となった「栄養」ですが、これは、満足な栄養をとることができない15歳未満の子どもの割合が、日本は1.4%と各国と比べて最も少ないことが背景にあります。このデータで最も結果が悪いメキシコやトルコでは3人に1人に上る子どもが満足な栄養がとれていません。日本でも、最近、「子ども食堂」の取り組みが注目されているように問題がないわけではありませんが、ほかの国に比べるとよい状況です。
▼「健康」の分野では8位。新生児死亡率がきわめて低いことなどが背景にあります。
▼「教育」の分野では10位。基礎学力に達している子どもの割合が高いことなどが評価されています。

その一方で、
▼「格差の縮小」は32位。

k170628_7.jpg

順位はあくまで一定の傾向を知るためのものだとはいえ、報告書の対象となっているのは41か国ですから、32位は下から数えたほうが早く、深刻です。

k170628_8.jpg

報告書では、日本はメキシコやアメリカと違って突出した金持ちは多くないものの、収入が真ん中の世帯と収入が低い世帯の間の差が大きいと指摘しています。日本の格差問題は上位と下位の差ではなく、中位と下位の間の差だということが浮かび上がっています。また、家庭環境が子どもの学力にどの程度影響を与えているのかについて、報告書は、日本は影響の大きい国だと指摘しています。親の収入が高いなど恵まれた家庭環境にいる子どものほうが学力でも有利になりやすい国だということです。

k170628_9.jpg

▼「貧困の撲滅」は23位。

k170628_10.jpg

この分野では、社会保障がどれほど子どもの貧困の削減に役立っているかというデータがあるのですが、フィンランドやアイスランドなどは大きい効果を出しているとされたのに対して、日本はアメリカと並んで効果が小さい方の国だとされました。

k170628_11.jpg

この結果について、子どもの貧困問題に詳しい首都大学東京の阿部彩(あべ・あや)教授は、「生活保護制度や児童手当、児童扶養手当などの現金給付が、子どもの貧困削減に対してきわめて限られた効果しか出していない。日本の財政は危機的な状況にはあるが、子どもの貧困問題を改善するには対策にあてる財源を捻出するしかない」と指摘しています。

【国際政治も垣間見える】
アメリカでのトランプ大統領の登場やフランスでの極右政党の支持の広がりの背景には、国民の間での格差への不満があると指摘されています。

k170628_12.jpg

そのアメリカを見ると、総合順位は37位。「栄養」の分野では5人に1人の子どもが十分な栄養をとれていないなど厳しい状況です。
また、フランスは総合順位が19位。家庭環境がどれほど子どもの学力に影響を与えているかというデータでは最も影響が大きい国になっています。
貧困や格差が伝統的な民主主義の国の政治も揺さぶっていることが、こうしたデータからも垣間見えるように感じました。

k170628_13.jpg

報告書が対象にした41か国のうち統計が揃っている23か国で、子どもがいる世帯のうち、収入が中位の世帯と下位の世帯との差が数年間の間で広がったとしています。この傾向は、先進国を含む多くの豊かな国での共通の課題になっているのです。

【どうすればいいのか】
簡単な処方箋はなく、ユニセフも個別具体的な政策提言はしていませんが、子どもの健康や教育への投資をしっかり行うことが、将来、国全体での格差の解消につながるとして、各国に対して子ども向けの政策を最優先に位置づけるよう訴えています。日本でも、子育て支援対策をどう強化するかが大きな議論になっています。子どもたちのための政策をどのようにして充実していくべきか、日本を含む豊かな国それぞれが問われています。

(別府 正一郎 解説委員)

キーワード

関連記事