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「乳製品 原料不足の背景は?」(くらし☆解説)

合瀬 宏毅  解説委員

「乳製品 原料不足の背景は?」という話題です。担当は合瀬宏毅(おおせひろき)解説委員です。

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【乳製品の原料が不足しているのでしょうか】

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はい。2年前には、バターがスーパーなどの店頭から消えるバター不足が大きな問題になりましたが、今回は脱脂粉乳です。バターや脱脂粉乳などの乳製品は農林水産省が一元的に輸入しているのですが、今年度の脱脂粉乳の輸入枠を、これまでの1万3000トンから、2.6倍に当たる3万4000トンにすることを、先月発表しました。
脱脂粉乳は生乳から作られ、例年だと需要の少ない冬場に在庫が積み上がりますが、今年は需要が多く、今後不足の恐れがあるとして、輸入枠の拡大に踏み切った。3万4000トンの輸入枠というと平成に入ってから3番目に多い数量となります。

【脱脂粉乳、あまり馴染みがないですが、何に使われているのですか?】
一定の年齢以上の人には昔、脱脂粉乳で作った牛乳を給食で飲まされ、美味しくなかったという記憶を持つ人も多いが、これが脱脂粉乳。

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牛乳を原料に脂肪分を抜いて乾燥して作るのだが、脂肪含量が低いため貯蔵性に優れ、常温で3年は品質を保持することができるとされる。
このためお菓子や、食品原料として広く使われ、中でも多いのはヨーグルトなどの発酵乳の原料としての利用。最近はカフェラテなどの乳飲料、そしてアイスクリームの原料として使われている。低カロリーなので引き合いも強く、ちなみに抜いた脂肪分、バターとして加工されます。

【輸入枠を増やすと言うことは、そうしたものの需要が伸びていると言うこと?】

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そうなのです。特にヨーグルトの需要が伸びている。これは乳成分を発酵させてつくった発酵乳(ヨーグルト)の生産量ですが、2006年の84万キロリットルから、2016年の110万キロリットルと10年間で1.5倍に伸びている。
もともと整腸作用があるとか、花粉症に効くそうだなど漠然とヨーグルトを買う人たちは多かったのですが、更に2年前から機能性表示食品の制度が始まって、さらに人気が高まった。

【機能性表示食品制度ですか?】

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 はい。機能性表示食品制度は、それまであったトクホと違って、企業が科学的な根拠を消費者庁に届ければ、国の審査を受けないでも食品の機能性を、容器などに表示できる。そうした制度なのですが、ヨーグルトの場合、「内臓脂肪を減らす」とか、「お通じ改善に役立つ」などを謳った商品が制度スタートをきっかけに発売されて、それが爆発的に売れている。脱脂粉乳の在庫は減っており、農林水産省としてはバター不足に続いてヨーグルト不足にならないように、早めに輸入枠の拡大をして手を打ったと言うことです。

【しかし、私はヨーグルトを生乳そのものから作るのですが?】
もちろん生乳で作るのが最も天然に近くかつ効率的なのですが、成分が不安定で、原料の生乳が保存が効かない。大量に製造するのが難しくなります。
一方、脱脂粉乳は成分的に安定しており、それを原料とするヨーグルトは安定した品質のものができます。生乳を原料にしてヨーグルトを作るメーカーもありますが、脱脂粉乳を使って成分を調整するのが一般的です。

【輸入枠を増やすことも重要でしょうが、国内生産を増やすわけにはいかないのか?】

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なかなか難しい。というのも国内の乳牛の減少に歯止めが掛かっていない。こちらは全国の乳牛の飼育頭数の推移ですが、2006年には159万頭いた乳牛は、2016年には135万頭と10年間で15%減っている。
酪農家はその分、家畜改良やエサの工夫などで一頭あたりの生産量を増やし、全体の生産量の維持に努めていたのだが、それでもこの間、生乳の生産量は10%ほど落ちている。

【乳牛の減少の原因は何ですか?】
牛を飼う酪農家自体の数が減っていることです。というのは、これまで酪農を担ってきた農家は高齢化しているうえ、家畜を飼う仕事は、休みなしの重労働。高齢化をきっかけに止める人が増えている。また穀物の国際価格が高騰したり、円安でエサの価格が上がって、経営が圧迫されていること。
そしてTPPなど国際的な経済連携が進む中で、乳製品の輸入拡大などが常に話題となっていて、酪農家の間で将来への不安が広がっている。こうしたことから酪農を止める人たちが増え、結果的に生乳の生産量が減ることとなっている。
しかも最近はこれに加えて、乳牛の数が少なくなる新たな要因も出ている。

【何でしょうか?】
 子牛の数が減っている。酪農家が乳牛の数を維持するためには、母牛に子牛を産ませて、そのうちのメスを母親に育て、また子牛を産ませる。こうした循環が必要。
ところが最近は、肉用の子牛が高値で売れるようになってきたため、酪農家が乳牛用でなく、黒毛和牛の精子などを種付けして、肉用の子牛を産ませる動きが広がっている。

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 乳業団体によると、生まれてくる牛の35%が、黒毛和種との混血。そして肉用子牛として売られていっている。これでは生乳生産を担う、新たな乳牛が確保できず、こうした状態が続けば、生乳の生産は毎年1%づつ減っていくと警告している。

【農水省は対策をうっていないのでしょうか?】

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 もちろん酪農家の経営を支えるために、生乳の取引価格に補給金を補填したり、労働負担を減らすような機械導入に対する支援を行うなど、生産量維持のために様々な手段を講じてきた。ただ現状では、生産量の減少の歯止めには至っていない。
 これでは、国内の生乳を原料に、牛乳や乳製品を作るメーカーは困ってしまう。それは脱脂粉乳などを原料にヨーグルトなどを作る食品会社も同じ事。そこでメーカー自身も、自らが酪農家の支援に乗り出している。

【具体的には何でしょうか?】

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 海外から乳牛の子牛を輸入しようという取り組み。意欲のある農家が、新たに乳牛を導入しようとしても、国内には子牛が少なく困難です。そこでオーストラリアなどから子牛を輸入し、経営を拡大する農家を支援する。今年は1300頭あまりを海外から導入することにしており、その一陣が今月、飛行機に乗ってやってくる。
現在の生産量を維持するためには、年間で30万頭のメスの子牛が必要で、1300頭はその1%にも満たない。ただ乳業メーカーがこうした支援を始めるのは初めてのことで、業界を挙げた取り組みだとして、酪農家からも歓迎されている。

【脱脂粉乳の輸入枠拡大の背景には、需要の変化や酪農産業の弱体化など、いろいろありますね。】
そうですね。ただ子牛にしても乳製品にしても足りないからと言って、輸入を拡大すればいいというものでもない。
輸出能力のある国は、オーストラリアやEUなど一部に限られていますし、一方で中国などでの需要が急速に増えて、国際価格は上がっている。
バターやヨーグルトが不足しないためには、国内で一定の生産を維持する必要があり、国内の生産体制をどう立て直していくのか。真剣に考えないといけないと思います。

(合瀬 宏毅 解説委員)

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