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「AV出演強要問題 動き出した政治」(くらし☆解説)

増田 剛  解説委員

(岩渕)
今、若い女性がAV・アダルトビデオに無理やり出演させられる被害が後を絶たず、社会問題化しています。性質上、長い間、表面化しにくい問題でしたが、被害者が声を上げ始めたことがきっかけとなり、ようやく政治が動き出しました。増田解説委員です。
増田さん、この問題、どれくらい、被害が広がっているのでしょうか。

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(増田)
はい。率直に言って、被害の全貌を把握するのは難しいのが現状です。誰にも相談できず、声も上げられない。被害にあっても、泣き寝入りしている人が、相当数いると考えられているからです。
ただ、被害の広がりを推し量る材料は、いくつかあります。

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先月29日、女子高校生をAVに出演させる目的で勧誘したとして、48歳の男が、職業安定法違反の疑いで逮捕されました。

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男は、コスプレモデルを募集するサイトを開設した上で、応募した女性を美容院に連れて行き、食事をさせます。そして、モデルの契約と信じ込ませたまま、契約書にサインさせていました。
また、出演をもちかけ、断られると、「代金を返せ」とか、「弁護士がいるから大変なことになる」と脅して、出演を強要しました。10代は、社会経験が乏しくて、契約とか弁護士といった言葉を出されると、動転してしまいがちです。そこにつけこんでいるんです。男は、この手口で、5年間におよそ200人の女性と契約していました。

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(岩渕)
200人と契約って、相当な規模ですね。

(増田)
はい。警察は、この中には、出演を強要された女性が相当数いると、みています。ただ、契約をしてしまったことで、業者に脅されたとしても、未成年の場合は、こうした契約は無効で、取り消すことができることを、知っておいてください。
被害者の支援に取り組むNPO「ライトハウス」によりますと、AV出演強要被害の相談の数は、近年、急増しています。

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ご覧のように、2014年に36人だったのが、15年に62人、去年は100人となっています。今年に入ってからは、すでに40人以上。この数字は、あくまで、NPOに寄せられた相談の数に過ぎませんから、実際の被害は、もっとずっと多いのではないかと推定されています。

(岩渕)
この問題が広く知られるようになった、きっかけはあるんですか。

(増田)
きっかけのひとつとされているのが、NPO「ヒューマン・ライツ・ナウ」が去年3月に発表した報告書です。この中には、被害者から聞き取った事例が10件、詳細に掲載されていて、若い女性が、悪質かつ巧妙な手口で、AVの世界に絡め取られていく実態が浮き彫りにされています。

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高校生だったAさん。グラビアモデルとしてスカウトされ、契約書にサインしました。契約書は、Aさんには、渡されなかったそうです。最初の仕事は、極めて露出の多い服装での撮影だったので、断ると、違約金100万円を要求され、やむなく出演します。
その後、20歳になると、今度は、AVへの出演を求められ、何度も「やめたい」と懇願しましたが、聞き入れられず、出演。
撮影内容は、過激なもので、心身ともに深く傷ついたといいます。
次の撮影を拒否すると、違約金1000万円を要求されました。
撮影の日が近づき、死にたいとまで思い詰め、ついに支援団体に連絡。その助力を得て、契約解除の意思表示をしました。

(岩渕)
違約金1000万円って、めちゃくちゃですね。

(増田)
法外な違約金をふっかけて、動揺させる手口です。業者は、違約金を取ることもそうですが、それ以上に、出演を続けさせ、女性を商品として使い切ることが目的なんです。この他にも、悪質なケースは多くあって、中には、出演の過去から逃れるために、整形手術を繰り返している人や、自殺に追い込まれた人もいるそうなんです。

(岩渕)
本当に腹立たしいですね。許せないです。

(増田)
私も、報告書を読んで、これほどの不条理、不正義が、まかり通っていることに、強い衝撃を受けました。
契約した本人の自己責任ではないかという見方もあるかもしれませんが、多くの場合、若い女性が、密室で、大勢の大人に取り囲まれ、説得という名の強要を受けて、サインするまで帰してもらえないような状況に追い込まれていたわけです。
すべてを彼女たちの責任に帰すのは、あまりに酷だと思います。
ただ、同じように感じた人たち、実態を知って、何とかしなければならないと考える人たちが、政治の世界にも、現れ始めたんです。
去年3月、衆議院内閣委員会で、この問題が取り上げられ、6月には、政府が、この問題に関する質問主意書への答弁書を閣議決定。AV出演強要は、政府が「男女共同参画基本計画」で、防止と根絶に取り組むとしている「女性に対する暴力」にあたると指摘しました。内閣府の専門調査会も、関係団体のヒアリングなど実態調査を始めます。

(岩渕)
政治が、ようやく動き出したということですね。

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(増田)
そうです。ことし1月には、公明党が、この問題のプロジェクトチームを設置。3月には、支援体制の拡充などを求める提言をまとめ、政府に提出しました。これを受けて、政府は、関係省庁の局長級による対策会議の設置を発表。対策会議は、先月19日、政府としての今後の対策を取りまとめました。永田町・霞ヶ関では、異例の素早い対応といっていいと思います。

(岩渕)
素早い対応というのは、嬉しいですが、肝心の対策の中身はどうなっていますか。

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(増田)
まず、各都道府県の警察に、AV出演強要問題を担当する専門官を初めて設置します。AVには、監督官庁がなく、相談の窓口が必ずしも、はっきりしませんでしたから、それを明確にする狙いがあります。
また、警察・検察は、積極的かつ厳格な取り締まりを推進するとしています。出演強要を犯罪行為とみなし、悪質な業者をどんどん摘発することで、問題の再発を抑止する狙いです。
また、被害を未然に防止する対策も重要です。
上京したばかりで、新しい生活に慣れていない学生が多くいる4月。毎年4月を「AV出演強要被害防止月間」と位置づけ、広報・啓発活動を集中的に実施します。さらに、警察、学校、企業が連携し、様々な機会に、被害防止教育を実施するとしています。
ただ、相談するのに、警察が相手では気後れしてしまうという人もいるかもしれません。NPOでも、相談に応じています。
窓口はご覧の通りです。

(岩渕)
ホームページ、メールアドレス、電話番号、ラインIDは、以下の通りです。
電話での相談は、平日の10時から19時までとなっています。

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(岩渕)
増田さん、この対策で、被害は根絶に向かうでしょうか。

(増田)
例えば、冒頭で説明した事件は、今回の対策を受けた最初の摘発例とされていて、目に見える成果といえるかもしれません。
ただ、課題もあります。加害者に厳罰を望む被害者は多いのですが、これまでの摘発例は、職業安定法や労働者派遣法によるものに留まっていて、強姦や強要、脅迫といった刑法犯での立件は、難しいのが現状です。強要のプロセスの多くが密室で行われ、目撃者はすべて加害者側だからです。
このような状況で、政治が、本気で被害の根絶を目指すのであれば、AV出演被害の防止に特化した特別法の制定、被害者保護と加害者処罰に関する包括立法の制定を、早急に検討すべきです。

(岩渕)
政治にも、まだまだ頑張ってもらう必要がありますね。

(増田)
その通りです。
ただ、政治の場で、この問題が議論され、まがりなりにも、対策が策定されたことは、一歩、前進だとも思います。
支援団体も、「政治が動いたことは、被害者にとって大きな後押しで、本当にありがたい」と話していました。そして、「被害にあった人は、ひとりで悩まずに相談してほしい。必ず解決策が見つかるはずだ」と呼びかけています。

(岩渕)
そうですよね。本当に、被害の根絶、被害者の救済を切に望みます。

(増田 剛 解説委員)

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