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「再犯防止に就職支援は」(くらし☆解説)

清永 聡  解説委員

今、国は再犯防止推進計画を作成しています。その中で課題となっているのが、犯罪を起こした人の再就職をどう進めていくかです。求められる取り組みは何でしょうか。

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【再犯防止計画とは】

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5月31日に法務省で「再犯防止推進計画等検討会」が開かれました。去年、再犯防止推進法という法律ができて、国は今、犯罪を起こした人の社会復帰に向けた具体的な取り組みを「計画」としてまとめる作業を進めています。
再犯防止推進法は去年12月にできたばかりで、あまり知られていない法律です。でも、とても大切です。

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一昨年1年間に刑法犯で検挙された人の数はおよそ24万人。このうち48%は再犯者、つまり2人に1人は事件を繰り返している人です。全体の検挙者数は減少が続いているため、割合で見ると再犯者が年々増えています。
Q:その理由はなんでしょうか。
A:この中には高齢者も含まれているのですが、理由の1つは、仕事を見つけられないことです。刑務所に再び入った人の7割が事件当時、無職でした。
お金がないからふたたび事件を起こすということを繰り返しているのです。

【どうして仕事がみつからない?】
Q:でも、今は好景気といわれていますし、有効求人倍率も高くなっているとききます。やる気があれば就職はあるのではないでしょうか。
A:私も最初はそう思っていました。しかし、出所した人に何人も話を聞きましたが、必ずしもそうではないようです。
企業はトラブルを避けたいという意識が強くなっているそうです。提出した履歴書に空白があれば質問され、刑務所に入っていたことが分かると断られる、というケースは珍しくないそうです。何カ所回っても雇ってもらえず、所持金を使い果たしてしまう人も少なくないということでした。

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協力雇用主という国の制度があります。事件を起こした人を再び雇用してもいいという企業で、全国ではおよそ1万6000が登録されています。しかし、実際に雇用しているのは788。わずか5%ほどにとどまっています。
支援する団体の担当者は、人手不足による恩恵を受けることができていないと話していました。
そうした中で、民間の団体が独自の取り組みを始めています。

【餃子と派遣で再就職を支援】

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新宿・歌舞伎町です。この中に今回紹介するお店がここにあります。「駆け込み餃子」という餃子が名物の居酒屋です。取材で訪ねた日も満席で、順番待ちもできていました。
実はここ、過去に犯罪を起こした人の雇用を目的に作られた店です。店員の3割は刑務所などを出てきた人たちです。
ここがユニークなのは、こうした店の目的を初めから明らかにしていることです。店内には協力を呼びかけるチラシも置いています。
ただこの店は、場所柄から外国人や観光客も多く、大半のお客さんはまったく気にせずに餃子を楽しんでいたのが、印象的でした。
一昨年のオープンからこれまでに21人の出所者がここで働いてきたそうです。
店員の一人は「自分の過去を隠す必要がなく、平等に扱ってくれるので働きがいがある」と話していました。

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この店をプロデュースしたのが、支援団体「再チャレンジ支援機構」の理事を務める玄秀盛さん。長年、歌舞伎町でDV被害者などの支援を行ってきました。
企業の雇用が進まない理由を玄さんに聞いてみました。
1つはやはり、企業がコンプライアンスを重視するあまり、出所した人を雇用してトラブルを起こさないかどうかを心配していること。もう一つは、いきなり正社員の雇用だと、雇う側のハードルが高い、ということです。
そこで、「再チャレンジ支援機構」は餃子のお店だけではなく、もっと企業に積極的に雇用してもらおうと、この夏から、大手人材派遣会社と協力して、出所者を対象にした派遣事業を始める準備を進めています。

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出所者への指導や研修を支援機構が行い、人材派遣会社を通じて、最初はいわば「お試し」として雇用してもらい、今後、正社員へのステップにしようというものです。また、出所者が持っている技術を生かすこともより可能になります。

【区別のない支援を】

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Q:こうした取り組みは広がってほしいと思いますが、国の支援はどうなっているのですか。
A:知られているのは、保護観察所や保護司が、生活の指導監督や就職の相談に応じるというものです。ただ、全部はカバーできません。
同じ刑務所を出てきた人でも、保護司や保護観察所の指導監督を受けることができるのは、十分反省していることなどを理由に刑期の一部を残して仮釈放した人などに限られます。
一方で、そうならずに刑務所を満期で出所する人は保護観察の対象ではないので、特別な就職支援の仕組みは、基本的には一部を除いてありません。しかし、これからは、こうした人たちにも新たな支援が求められると思います。
そこで、埼玉にある民間の団体が、今、新たな取り組みを始めています。

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さいたま市の更生保護施設です。ここに新たに作られたのが「埼玉社会復帰支援ネットワーク」という組織です。
ネットワークは、仮釈放中の人も、満期で出所した人も同じように支援できる仕組みを作りました。

こちらの更生保護施設は、保護観察中の人などが一時的に生活する寮なのですが、やはり施設を出た後十分に支援する仕組みがなかったそうです。

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そこで、支援を継続しようとさまざまな団体が集まりました。現在は、自治体、仕事を紹介する組織、ボランティア団体、医療機関など18の機関や団体がネットワークに加盟しています。
仮釈放の人も満期で出所した人も、区別せずに仕事を紹介し、不安を感じる企業の相談にも対応します。去年は合わせて162人が仕事を見つけることができました。

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仕事だけではありません。自治体を通じて、公営住宅や国民健康保険の手続きの相談、病気の人には病院を紹介します。生活の基盤を作って、再出発を支援する仕組みを作ったのです。法務省によると、こうした取り組みは全国的にもまだ一部だということです。

【行政と企業の支援充実を】
国は再犯防止推進計画を年内にも作ることにしていますが、埼玉の取り組みも、モデルの1つとして検討されているそうです。
ただ就職支援は行政だけではできません。企業の協力も欠かせませんし、私たちも再チャレンジする人たちの存在を、どうか理解してほしいと思います。
「事件を起こした人にそこまでする必要ない」という厳しい意見もあります。また、何よりも本人の努力がまず欠かせません。それでも、社会復帰できる人が少しずつでも増えていけば、治安の改善にも大きな役割を果たします。
これからも取り組みを積極的に進めてほしいと思います。

(清永 聡 解説委員)

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