NHK 解説委員室

解説アーカイブス これまでの解説記事

「ゴルゴ13が海外安全対策を指南!?」(くらし☆解説)

増田 剛  解説委員

(岩渕)
あすから大型連休が始まります。連休を海外で過ごされるという方も多いと思うんですが、そこで気をつけていただきたいのが、安全対策です。きょうは、海外での安全確保に向けた取り組みについて、増田解説委員に聞きます。

k170428_01.jpg

増田さん、まず、このタイトル、ゴルゴ13が海外安全対策を指南って、どういうことですか。

(増田)
はい。最近は、世界各地でテロが頻発しています。
日本人が凶悪な事件に巻き込まれるケースも続発しています。
こうした被害を防ぐには、どうしたら良いか。
外務省は、日本人の海外旅行者や海外に赴任する企業関係者を対象に、安全対策を指南するマニュアルを作って、ホームページに掲載を始めたんです。
その指南役を務めるのが、ゴルゴ13。
岩渕さんも、ご存知ですよね。

(岩渕)
もちろんです。有名な漫画の主人公ですよね。

(増田)
そうです。連載50年目に突入し、単行本の発行は184巻に及ぶ、国民的な劇画の主人公です。請け負った仕事は、必ず遂行するプロ中のプロ。男性の読者が多くて、床屋の待合室とか喫茶店とかに、ずらっと並んでいるのをよく見ますよね。
外務省は、このゴルゴ13の圧倒的な知名度に目をつけて、安全対策の指南役として白羽の矢を立てたんです。

k170428_02.jpg

k170428_03.jpg

外務省の海外安全ホームページを開いて、ここをクリックすると、
マニュアルを見ることができます。原作者さいとう・たかをさんによる劇画の形式で、先月下旬から連載が始まり、6月中旬まで週1回、全13回にわたって掲載されることになります。
初回のストーリーは、主人公が、日本政府から依頼を受けるシーンから始まります。
主人公は、自分に依頼したわけを聞きます。

k170428_04.jpg

「強いて言えば、東郷さん・・あなたが臆病・・だからでしょうか」
つまり、臆病な人は、行動が慎重になります。怖いもの知らずで、リスクを顧みない行動をとるより、慎重に行動する方が、自分を守ることにつながるので、安全対策の上で、臆病であることは重要だというわけです。激動の国際情勢を生き抜いてきた主人公も、こう言っています。

k170428_05.jpg

「俺がうさぎのように臆病だからだ・・が・・臆病のせいで、こうして生きている」
ゴルゴ13が言うと、説得力ありますよね。
外務省の立場で言えば、単に安全対策のノウハウをまとめて、マニュアルを作っても、難しい文章が並んでいるだけでは、なかなか、一般の人には読んでもらえません。ゴルゴ13というキャラクターをマニュアルの指南役にすることで、より多くの人に目を通してもらい、安全対策の知識を身につけてもらおうと考えたわけです。

(岩渕)
外務省が、そこまで、安全対策の周知に力を入れるのは、なぜでしょうか。

k170428_06.jpg

(増田)
世界情勢が不安定さを増していることが背景にあります。イスラム過激派によるテロ、自然災害、感染症など、数多くのリスクが存在し、テロの脅威は、今や中東アフリカにとどまらず、ヨーロッパ、アジアにも広がっています。また、日本人が、テロに巻き込まれるだけでなく、テロの標的として名指しされるケースも出ています。

k170428_07.jpg

その一方で、グローバル化の進展により、日本企業の海外展開は、活発化し、日系企業の海外拠点数は7万を超えました。
海外を訪れる日本人の数は、旅行者も含めて年間1700万にのぼります。日本人の海外展開が全世界に広がるなか、被害を防ぐためには、どうしたらよいか。従来のように、海外での安全確保は「それぞれの自己責任だ」といって、被害に歯止めをかけられないようでは、外務省の存在意義も問われかねません。在外公館のネットワークも何のためにあるんだという話になります。そんな外務省が真剣に悩んだ末、行き着いた解のひとつが、ゴルゴ13だったんです。

(岩渕)
では、私たちが海外の安全対策を考える上で、最も重要なことは、何でしょうか。

(増田)
はい。ゴルゴ13は、こう答えています。

k170428_08.jpg

「・・10%の才能と20%の努力・・そして30%の臆病さ・・残る40%は、情報だろうな」
背景には、去年7月、バングラデシュで起きた人質事件の教訓があります。この事件では、JICA=国際協力機構の委託を受けて、現地で活動していた企業の社員など、7人の日本人が犠牲になりました。衝撃を受けた日本政府は、海外での安全対策を再点検。
リスクを避けるためには、的確な情報を入手し、危険な場所に居合わせないようにするしかないという結論になりました。

(岩渕)
バングラデシュの事件が起きたのは、飲食店でしたね。

k170428_09.jpg

(増田)
そうです。最近のテロは、飲食店や公共施設、イベント会場を狙ったものが増えています。ソフトターゲットと呼ばれる、不特定多数の人が集まる日常生活の場が、攻撃対象とされ、テロがいつどこで起きるのか、予測が難しくなっているんです。
私たちとしては、現地の治安情報を積極的に入手し、その地域で危ないとされる時期や、狙われやすい場所を、把握しておくことが、安全確保につながります。情報を知ることによって、テロが起きそうな現場には行かない、やめておこうという行動の変化が起きるかもしれないからです。

(岩渕)
情報の大切さはよくわかりましたが、私たちは、それをどうやって入手すれば、良いのでしょう。

k170428_11.jpg

(増田)
はい。今、政府が力を入れているのが、「たびレジ」への登録の推奨です。この「たびレジ」、3か月未満の海外旅行者や海外出張者に向けて、外務省が発信するメールサービスです。「たびレジ」のウェブサイトにアクセスして、旅行の日程や滞在先、連絡先など必要事項を登録すると、旅行期間中、自動的に、現地の最新の安全情報や、緊急事態発生時の連絡が日本語で送られてきます。

k170428_12.jpg

例えば、このタブレットの画面にあるのが、来月7日に決選投票が行われるフランス大統領選挙の注意喚起。フランスへ渡航・滞在される方は、選挙期間中、テロ等、不測の事態に巻き込まれることのないよう、以下のような場所には不必要に近づかないなど、十分、注意してください。投票所及びその付近。候補者の演説や関連の集会。候補者の選挙事務所付近。となっています。具体的ですよね。
また、万が一、重大な事件や大規模な事故、災害が発生した場合、外務省が登録者の安否確認を行い、必要な支援をスムーズに受けることができるとしています。ゴルゴ13も、こう言っています。

k170428_13.jpg

「たびレジが完璧であるというつもりはない・・しかし、これが安全対策の第一歩だと・・俺はそう思う」
ただ、この「たびレジ」、十分に周知されているとはいえません。
日本人海外旅行者は、年間1700万にのぼりますが、登録者は、160万人。かなりお寒い状況です。そこで、この春、登録促進のキャンペーンが行われています。

(岩渕)
どんなキャンペーンですか。

(増田)
例えば、岩渕さんのような、海外旅行が好きな女性。
そうした人たちをターゲットに、このような、女性向けの雑誌や旅行雑誌に、「たびレジ」の特集記事を掲載し、関心を寄せてもらおうとしています。とかくお堅いと思われがちな霞が関の役人も、彼らなりに、世のトレンドにあわせて、知恵を絞っているということでしょう。そして、来年=平成30年の夏には、240万人の「たびレジ」登録を目指しています。

k170428_14.jpg

ただ、外務省が情報提供をいくら拡充しても、それだけで、日本人の安全を確保するには、限界があります。ひとりひとりが、様々な情報に自ら接するように努め、自分の身は自分で守るようにする努力も必要です。きょうの番組が、海外での安全対策に関心を持ち、そのための備えを考えるきっかけになればと、思います。

(増田 剛  解説委員)

キーワード

関連記事