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「公共施設が避難所に その運営は」(くらし☆解説)

清永 聡  解説委員

一連の熊本地震は最初の震度7から1年になります。熊本地震では、地域の文化施設や体育館といった公共施設も避難所になりました。
こうした避難所の運営で浮かび上がった新たな課題について清永聡解説委員です。

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【熊本地震で避難の特徴は】
熊本地震では一番多いときで避難者の数が18万人に上りました。これは熊本県の人口のおよそ1割にあたります。
避難した人が増えた一番の理由は、余震が多かったことです。私も直後から熊本に、取材の応援に入りましたが、本当にひっきりなしに揺れている印象でした。体に感じる地震は4000回を超えています。

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もう一つは2度の震度7が、いずれも夜に発生したことです。こうした結果、夜、揺れ続ける家にいるのは怖い、と避難する人が相次ぎました。
しかも、夜中と言うこともあって徒歩ではなく車で、そして、すぐ近くの小中学校ではなく、駐車場の整備されている公共施設に向かった人も少なくありませんでした。

【指定管理者制度とは】
今は、地域の文化施設とか体育館といった公共施設は、今多くの場合、民間などが運営する「指定管理者制度」になっています。

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この制度は、団体や企業などが自治体と取り決めを交わして、施設の管理や運営をする制度です。指定管理者になるのは、公共団体や財団法人、NPO、それにスポーツクラブやイベント会社などさまざまです。総務省によると、今、全国の公共施設の6割が、この制度で運営されています。
「指定管理者制度」であっても、避難所の運営は本来自治体が行うのですが、熊本地震は避難する人が非常に多くなりました。
総務省によると、熊本市の場合、もともと避難所に指定されていた指定管理者の施設は8カ所でしたが、次々と被災者が避難してきて、結果的に71カ所の指定管理者の施設が避難所になったということです。

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このため最初の段階では、自治体の職員がたどり着けなかったり、人手が足りなかったりして、具体的な取り決めがないまま、指定管理者が避難所を運営するケースもあったんです。現場では課題も見えてきました。

【益城町のケースは】
熊本県益城町の総合運動公園、ここにある体育館も当時、避難所になりました。

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現在は立て替えのため閉鎖されています。ピーク時にはここに1300人が避難していました。
この施設を運営していた指定管理者は「熊本YMCA」です。1回目の震度7の直後、まだ施設に残っていたスタッフは、自分たちの判断で被災者を受け入れました。
ところが、体育館のメインアリーナは天井の一部が落下していました。このためスタッフは、被災者をここに入れず、同じ建物の中にある武道場に誘導しました。

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この時点で避難してきた人はおよそ200人。廊下にも人があふれました。メインアリーナに入れるよう求める人もいましたが、スタッフは駆けつけた町の職員とも相談して断り、鍵をかけたということです。
ところが2日後の未明。2回目の震度7が発生します。避難所にいた人たちもこの激しい揺れに見舞われました。
2度目の揺れで、メインアリーナは天井全体が崩落しました。

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もしここに避難していたら、大惨事になっていたかもしれません。自治体とともに適切な判断をしたYMCAのスタッフが被害を防いだと言えます。

【指定管理者が避難所運営する課題】
この出来事は、指定管理者制度の課題を浮き彫りにした側面があります。
熊本YMCAによると、事前に自治体との間で避難所運営の手順や役割などの取り決めは交わしていませんでした。
もし、どこかの施設で、自治体から何の指示もないまま、被災者を受け入れて多くのけが人が出た場合、誰がその責任を負うのか。施設の職員がもしけがをしたら、補償はできるのか。それに避難所を運営する経費は誰が負担するのか。
反対に被災者が訪ねてきても、「自分の仕事ではない」と拒否することはできるでしょうか。

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取材をしてみると、熊本地震では、多くの指定管理者が、戸惑いつつも被災者を受け入れていました。ただ、防災の知識が十分でない所もあって、地震直後から自治体職員やボランティアが駆けつけるまでの数日、運営に悩むこともあったそうです。

【政府の中央防災会議も課題を指摘】
今回、政府の中央防災会議は熊本地震を受けて去年12月に報告書をまとめました。この中で、中央防災会議としておそらく初めて、指定管理者制度の課題を指摘しています。「避難所運営の共有がされていなかった」として「市町村は災害時の役割分担を決めておくよう」求めています。

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【取り組みを始めた自治体も】
自治体の中には、すでに取り組みを進めているところもあります。
横浜市は、あらかじめ指定管理者向けに災害時のマニュアルを整備しています。
また担当部局と指定管理者が結ぶ協定のひな型として▽食料や飲料水などの備蓄▽災害で緊急な対応が必要なときは自主的な判断で施設を開放すること、それから▽ケガなどをしたときの補償についても定めています。

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ただ、横浜市のように災害に備えた具体的な協定を結んでいる自治体がどのくらいあるのか、統計がないためよく分かりません。おそらくまだ一部とみられています。
全国の団体や企業で作る「指定管理者協会」も、熊本地震を受けて、自治体との間で具体的な協定を結ぶことや、指定管理者も備えを進めるよう提言をまとめています。
やはり自治体はあらかじめ、避難所になる可能性がある施設の指定管理者と災害に備えた取り決めを検討してほしいと思います。災害直後の避難所の対応は非常に重要です。例えば、事前の物資の準備や避難所の開設、高齢者の誘導は指定管理者が行い、その後の関係機関との調整は自治体が行うなど、お互いにすべきことを明確しておくことが大切です。

【私たち住民は】
また、私たち住民も自分の避難場所がどこかを知っておくことが必要です。そして避難場所が公共施設の場合、多くが指定管理者制度で運営されていることも、知っておいてほしいと思います。
専門家は、その上で地域の防災訓練に、自治体と指定管理者それに住民の3者で取り組んでほしいと話しています。

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そうするとお互いにどのような準備が必要か、そして避難所の運営の課題は何かが見えてきます。
また、住民も避難所に来れば何でもしてもらえるということではなく、運営に協力する姿勢を忘れないでもらいたいと思います。

【指定管理者も備えを】
指定管理者制度が始まったのは平成15年です。「規制緩和」という流れの中で、今では全国7万6000の施設にこの制度が広がっています。
このすべてが避難所になるわけではありませんが、施設によっては、災害時に住民を守る役割を担うことも指定管理者は自覚すべきです。自治体や住民とも協力して、今のうちに、十分な備えを進めてほしいと思います。

(清永 聡 解説委員)

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