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「高校生が挑む 福島県農産物の風評被害」(くらし☆解説)

合瀬 宏毅  解説委員

くらしきらり解説、今日は「高校生が挑む 福島県農水産物の風評被害」です。担当は合瀬宏毅(おおせひろき)解説委員です。

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Q.高校生が挑む?どういうことでしょうか?

 震災から6年が経ち、福島県で生産する農産物から基準を超える放射性物質が見つかる事はほぼ無くなりました。ところが福島県産に対する不安は、まだ払拭されていません。
そこで、地元の高校生達が、人材育成を目指す民間団体と組み、福島特産の農産物と農家の取り組みを紹介する情報誌を作り、風評被害の払拭を目指している。

Q.梨やアスパラ、キュウリなど様々な物がありますね。

 一昨年の夏に創刊され、すでに8冊が出された。

Q.その福島県の農水産物、今の状況はどうなっているのか

 はい。こちらは福島県での農水産物の放射性物質の検査結果を示したものです。事故以降、18万点の農林水産物を検査した結果、震災の翌年には1100件を超えた基準超えは、水田の土壌改良や樹木の洗浄などの対策を続けた結果、徐々に減り続け、今年度は6件に減少しました。 

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 基準を超えたのは、野生のタラの芽などの山菜、それに野生のイワナなどの川魚で、出荷できないようにな体制になっており、コメや野菜、果物などの基準超えはありません。
それでも例えば去年の秋にとれたコメは、全国平均より12%ほど安く、今だに震災前の水準に戻っていない。これは牛肉や桃などでも同じ。

Q.まだまだ不安、根強いのでしょうか

 消費者庁や農林水産省なども、検査体制や基準値を超える食材が市場に出回らないような仕組みについて、全国各地で説明会を行っているが、なかなか不安を払拭するまでは至っていない。
こうした中で、高校生が注目したのが、生産者個人に焦点をあて、農産物のすばらしさや生産者の思いを情報誌にして発信する取り組み。生産者と消費者とが信頼で結ばれることが、福島県農産物の不安払拭に繋がると、高校生は考えた。

Q.どんな内容なのですか

 中を開けてみますと、まずは生産者の顔。創刊号のジャンボなめこは、鈴木農園の鈴木さん親子の写真がまず見開き1ページ全面を使って紹介してあります。

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そしてどうやって作られているのか、原料のおがくずをどこから調達して、何日掛けて育成しているかなど、栽培の工夫。そして消費者に安心してもらうための検査などの取り組みや、風評被害にあった時のつらさなど、鈴木さんの思いが綴られ、この人が作ったものなら食べてみようという作りになっている。

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そしてこの雑誌に、実際の農産物をつけて、一冊2500円。福島の農産物を応援したいという定期購読者に年4回発行しています。応援したい人たちはネットで、この情報誌を申し込むことになっている。

Q.なぜ高校生がこうした活動を?

 もともとは復興を担う人材の育成を目指す民間団体に集まった高校生が、福島県産の農産産物が誤解されて悔しいとして、情報誌をつくることにになった。メンバーは多くが農家ではない家庭の高校生で、民間団体のサポートを受けながら、どこの農産物を取り上げるのかや、実際に農家に出向いて話を聞き、写真をとって記事に纏めている。

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 次号の編集を任された高橋明子さんは「福島の生産者と全国の消費者の間にあった信頼関係が、原発事故をきっかけに失われてしまった。情報誌という形で再構築する架け橋になりたい」と、話している。

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Q.確かに作っている人の顔が見えれば安心ですよね。

 そうですよね。もちろん届けられる部数も限られているので、活動は限定的です。しかし情報誌に興味をもった読者が、実際に福島を訪れたりして、取り組みの輪は広がっている。
これは先週の日曜日、福島県相馬市で行われた食べる通信と読者との交流会の様子です。春に発行する情報誌の取材に、東京の読者と高校生が合流することになったのです。
訪れたのは養鶏を営む菊池将兵さんの農場です。

Q.ニワトリが沢山いますね。

 菊池さんが飼っているのは、300羽ほどのニワトリで、卵を専門に販売しています。菊池さんのこだわりは、自然の状態でニワトリを健康に飼育することです。狭いケージで密集して飼う近代農業を目指すのでは無く、ニワトリは温室での平飼い。
エサにもこだわり、コメや野菜、魚のあらなど地元で採れたものを与えています。ニワトリは温室の中を自由に歩き回り、土の中の虫などをつつきながら、好きなときにエサを食べ、卵を産むことができるようになっています。

Q.ニワトリものびのびと育っていますね。

 こうして生まれた卵は、10個770円と一般の3倍の値段に関わらず、直売所などで大変な人気だということです。
<菊池さん>
「原発というのは人間が科学を支配して、そこからエネルギーを得ようとして失敗した。そこから立ち直るときに、また科学をベースにした農業をやっていいのかという思いはある。相馬から自然を壊さない農法をやっていくべきだと思う」
高校生達も、これまでにない農業を目指す菊池さんの思いに、心を打たれたようでした。

Q.そして試食ですか?

 はい。菊池さんの農場で飼われていたニワトリを、実際に料理して食べてもらおうという取り組みです。
<高校生>
「東京と全然変わらない。もう大丈夫だと思った」
「ここに来て食べてみて、普通に食べれるなと。新しい発見が一杯あった」

Q.実際に生産者に会ってみると安心ですよね

 東京の高校生にしても、もともとツアーに参加するような意識の高い子供達ですから、放射性物質の検査態勢や福島の現状についてのある程度の知識は持っていました。
それでも実際に専門家から検査についての話を聞いたり、農家に実際に会うことで福島の印象がずいぶん変わったことは確かな様です。

Q.こうした動きが広がればいいですね?

 はい。ただ福島のことをもっと知りたいという人たちがいる一方で、原発事故への関心は薄れてきていることも事実です。これは今週発表された消費者庁のアンケートですが、農水産物に対して、放射性物質の検査をしていることを知らない人は、事故当時より増えて、現在は35%となっている。

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 原発事故から時間が経つ中で、放射性物質にたいする関心が薄れ、それが福島県農産物に対する風評被害。とりあえず福島産農産物を避けておこうというような動きに繋がっている可能性があると専門家は指摘している。

Q.風評被害を無くしたいとする福島の高校生としても残念ですよね

 福島県の生産者も、消費者同様に原発事故の被害者です。行政としては、まずは福島に限らず、全ての農産物の安全性は、検査などによって確保されていることを改めて消費者に伝えること。その上で、安全で美味しい食べ物を、消費者に届けようとする、生産者の取り組みをもっと知ってもらうことだと思います。
 福島県のことをもっと知ってもらいたい。そうした高校生の気持ちを、きちんと受け止める消費者が増えると良いと思います。

(合瀬 宏毅 解説委員)

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