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「教育機会確保法 不登校対策は」(くらし☆解説)

西川 龍一  解説委員

学校現場で深刻な状況が続いている問題の1つに、不登校があります。不登校の子どもたちの支援を進めることを目的にした「教育機会確保法」が、今月施行されました。西川解説委員です。

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Q.どんな法律なんですか?

A.不登校の子どもたちは、基本的に学校に行かなかったり、行けなかったりする状態が続いています。こうした子どもたちが教育を受ける機会を確保するための施策を国や自治体の責務として、必要な財政上の措置を講じることを求めています。ただ、支援などの具体的な中身はこれからです。

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Q.どうしてこんな法律ができたのですか?

A.不登校の子どもたちが一向に減らないという現状があります。文部科学省の調査によると、昨年度、病気と経済的な理由を除いて30日以上学校を欠席した不登校の小中学生は、12万6000人を超えています。小中学校とも子どもの数は減っているのに、3年連続で増加していて、中学生はクラスに1人は不登校の生徒がいる状態で、高止まりが続いています。中でも90日以上と長期間学校を休んでいる子どもが7万2000人あまりと全体の6割近くに上っているんです。原因は、いじめなどの学校でのトラブルや、勉強の問題、期待に応えようと頑張りすぎて疲れてしまったなど様々です。

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Q.そうした子どもたちは、どうやって過ごしているんですか?

A.教育支援センターといった教育委員会などが設置する公的な施設に通う子がおよそ6万人います。残る半分の不登校の子どもたちの中には自宅にいる子もいるわけですが、多くを引き受けているのが民間のフリースクールという施設です。
元々、法律の出発点は、多くの子どもたちが通っているという現実を踏まえて、フリースクールなどの位置づけを考えようというものでした。

Q.そもそも、フリースクールというのは、どんな施設なんですか?

A.不登校の子どもたちの学習支援や体験活動などを行っているんです。つまり、実態として学校に変わる役割を担っていることになります。全国には、400のフリースクールがあると見られています。フリースクールに通っても学校に通ったことにはなりません。一方で、元々通っていた校長の判断でフリースクールに通っていれば出席扱いができるようになっています。
ただ、フリースクールというのは、これがフリースクールだという定義があるわけではありません。

Q.どういうことですか?

A.設置基準がないため、運営主体や活動は様々なんです。国語や算数・数学などのカリキュラムを設けているところもあります。NPOが運営しているものや、不登校の子どもたちの親が自宅を開放して開いているところもあります。通っている子どもの人数もまちまちです。これがフリースクールの良さでもあるのですが、一方で基準がないことへの不安や活動の内容を疑問視する声もあります。
これまでの不登校対策は、子どもたちの学校復帰が大前提とされてきました。こうした対策には、「子どもが学校に戻ることを無理強いしている」といった意見もあります。このため教育行政とフリースクールが対立することもしばしばで、お互いを知らないまま警戒し合っているというのが実状でした。地域によってばらつきがありますが、保護者が学校や教育委員会に相談しても、フリースクールや不登校の親の会などがあることを紹介することすらないというのが実態だと言います。
ただ、やはり何らかの支援がフリースクールにも必要という声は以前からありました。

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Q.そこで今回の法律というわけですか?

A.当初法案には、こうした子どもたちの居場所となるフリースクールや自宅での学習といった学校以外の学習も義務教育として認めることが盛り込まれていました。ただ、この規定は、国会での審議の中で削られました。「学校に行かないことを安易に認めるべきではない」とか「学校に行かないことを助長する」という根強い意見があるからです。日本では、戦前から一貫して子どもを正規の学校に通わせることを親に義務づけてきました。学校以外の学習を義務教育として認めるとなれば、こうした就学義務の転換となるわけです。不登校の対策としては、「まずは学校を充実させるべき」という考えが国会では多数を占めているということです。

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Q.そうなるとこの法律には、どんな意味があるのでしょうか?

A.教育機会確保法には、2つのキーワードがあります。
「休んでもよい」ということ。「学校以外の場の重要性」を認めたことです。この2つのキーワードを活かすことが子どもたちを取り巻く環境を変えることにつながります。

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Q.まず、「休んでもよい」というのはどういうことですか?

A.学校に行くのが100%正解ではないということを、法律が認めたということです。
「不登校は誰にでも起こり得る」にも関わらず、「学校に行くのが普通の子ども」で「不登校になるのは特殊な子ども」という偏見がまだまだあります。不登校ではない子どもでも、無理に学校に行くことでかえって元気がなくなったり、中には学校に行こうとするとお腹が痛いなど具合が悪くなったりする場合があります。不登校の子どもたちの中には、学校に行かなければと自分を追い込んでしまう場合があります。そんな状況でも保護者は、なかなか休ませると言い出しにくかったのを、法律を根拠に堂々と「しばらく休ませる」と学校に言えるわけです。そして、休ませることを勧めにくかった先生にしても、「休むことを受け入れやすくなる」効果があります。子どもも保護者も状況によっては何もせずに休むことを認めることで自分を否定しなくてもいい、自己肯定感につながります。

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Q.そうなると、居場所としては、フリースクールなどの「学校以外の場」が重要になるわけですね?

A.その通りです。学びの場は、なにも学校に限ったわけではないということです。フリースクールに通うこともそうですし、海外では家庭で親が勉強を教えることを義務教育の一環として認めている国もあります。さらに教育機会確保法は、自治体とフリースクールの連携も求めています。休むことを認める以上は、居場所としてのフリースクールが活動しやすいように行政がどのような支援が必要なのかを共に考えるのは当然のことでしょう。

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Q.子どもたちのためという目的は同じですからね?

A.フリースクールの団体は、行政とどのような連携が可能なのかを考えるイベントなどを開き模索を始めています。教育機会確保法は、3年以内に、法律がどのように機能しているのかを検討し、見直しを含めた措置を取ることも定められています。法律の施行は、ひとつの契機に過ぎませんが、これを機に、「不登校の子どもたちが安心して学べる環境を作り上げる」という真の目的を共有できるような連携が求められています。

(西川 龍一 解説委員)

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