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「介護の現場に外国人」(くらし☆解説)

広瀬 公巳  解説委員

外国人の労働にかかわる二つの法律が成立しました。
少子高齢化が進む日本で外国人の力を活かしていけるのか。特に注目されているのが介護の現場です。現状と課題はどうなっているのでしょうか。

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【日本で暮らす外国人】
法律が成立にともなって何か変わるのでしょうか。すぐにということではありませんがこれから大きく変わっていくことになるかもしれません。
そもそもの働く外国人はどれくらいいるのか。全体状況からみていこうと思います。
コンビニとか、レストランとかで結構増えてきているように感じますが。
今、日本で働いている外国人、どれくらいいるでしょう。
去年10月の集計でおよそ91万人です。
外国人労働者は急増していますので、もう100万人規模になっているかもしれません。それらの人たちがどのような人たちなのか。

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日本にいる理由を見ますと、
①いちばん多いのが日系人などが働いているグループで37万人。
②次に留学生の資格外活動、つまりアルバイトをしているものが19万人。
③技能実習生が17万人。
④専門性を認められた労働者が17万人です。

【介護人材の受け入れは限定的】
この中で外国人の「介護人材の受け入れ」はどこにあたるのでしょうか。
実はこのどれにも入っていません。
これまでは「特定活動」という名前の小さな、いわば「特別枠」の中で外交上の人材交流という例外的な措置として年に数百人程度が受け入れられてきました。
介護の人材は「特別扱い」だったのです。それが法整備でどうかわるのでしょうか。

③技能実習生と④専門職の部分で増やしていけないかということなんです。
③技能実習生はこれまで製造業や建設業を中心に70余りの職種が対象になってきました。
それが今回成立した技能実習適正化法で技能実習の環境整備が図られたのを機会に政府は対象職種に「介護」を加えていくことにしています。

日本で介護福祉士の資格を取った人など技量のある人が
専門職の労働者として介護の仕事ができるようにするための法律の改正も行われました。

【戦力となる外国人】
人材の枠を広げていこうというこうした動きの背景のひとつは、特別扱いで受け入れてきた人材が実際に介護の現場で戦力になっている実情があります。

何度かお邪魔している横浜市内の福祉施設の様子を見てきました。
インドネシア人のエマ・ユリアナさんは、平成20年に来日。
日本語を学びながら介護の仕事を続け日本の「介護福祉士」の資格を取りました。
始めは日本人の手助けが必要でしたが、食事の介助やお風呂の世話などなんでもこなします。

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利用者の家族とも自由に日本語で話すことができ、外国人が苦手とされる手書きによる介護の記録も行います。
なによりいつも絶やさな笑顔は利用者のお年寄りにも好評です。

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そこでこの施設では、エマさんと同じように特定活動の資格を持つ他の3人のインドネシア人に働いてもらうことになりました。
新しい人たちの評判も上々です。
ただそれでも、人出不足は深刻で、施設ではさらに外国人を増やすことを検討しているということです。
特別養護老人ホーム「さわやか苑」の高木清さんはこんな風に話していました。
「どちらの施設もそうだと思いますが求人を出しても日本人の求人の数がほとんどゼロに近いと。今後、高齢社会で入所する方は増えているんですが、働き手がいないという状況を考えていくと、外国人の力に頼るしかありません。」

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アジアには大家族でくらす元気で明るい人材がたくさんいます。医療の基礎知識もある優秀で意欲に満ちた若い人材はひっぱりだこの状態です。
しかし、特定活動による受け入れは高い日本語の力が必要とされます。
3年以内に介護福祉士の試験に合格しなければ。原則帰国することになっている厳しい制度で試験は日本人でも難関ですので3年を待たずに途中で帰る人もいます。
一方で、施設側としては外国人の力で人出不足を補いたいところです。
さらなる外国人の受け入れを進めていきたいということでミャンマーからの人材の受け入れを考えているということでした。

【技能実習への拡大と課題】
しかし、外国人の人材をどうやって集めることができるのでしょうか。
今一番注目を集めているのが技能実習生です。
ただこの技能実習生については労働力としての期待を寄せる声も強いのですが、これまで様々な問題点も指摘されてきました。低賃金や長時間労働など、異国で暮らす弱い立場の外国人に対する人権侵害。毎年何千人という単位で実習生が失踪している問題。それに制度と現実のずれです。本来は途上国の人材育成というタテマエですが、ホンネでは技能実習生自身も「出稼ぎ」だと思っているケースが少なくありません。

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国は今回新たに成立した法律で受け入れの監督を強化するなどの対策を取ることにしています。「介護」が新たに技能実習の対象職種に加わってもこうした問題が起きないようにしなければなりません。
対象職種への追加は政府の判断だけでできてしまうところが要注意です。
さらに介護は今までの一次産業や二次産業とちがって人を相手にする仕事ですから。対人サービスの難しい仕事がこなせるのか。そのために必要な日本語の修得はできるのか。また日本式の介護の技能を帰国後、外国人が母国で活かせるのか。つまり家族介護が中心の国で高齢化が進んでいない国の外国人にとって必要な技能といえるのかなど心配する声も出ています。
このため新しい法律の議論の中でも、技能実習の基本理念として「労働力の需給の調整の手段として行われてはならない」という点が強調されてきました。
日本側の都合だけで中途半端に利用するだけに終わることのないように注意して行かなければならないということで、これは技能実習に限らず外国人の労働を考える上で大事なポイントです。
また外国人の労働問題を考える上では、日本人スタッフの労働環境をよくしていくということも忘れてはなりません。
世界では人材の争奪戦が激しさを増しています。外国人の力を正しく活かしていくにはどうすればいいのか。
今回、取材した外国人の一人は「言葉ができないと、介護の仕事も、日本で生きていくことも難しいと思う」と話していました。
そうした外国人を支援するしくみをどう整えていくのか、これからも真剣に議論を続けていく必要があると思います。

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