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「食で支える東京五輪」(くらし☆解説)

合瀬 宏毅  解説委員

くらしきらり解説、今日は食で支えるオリンピック東京大会です。東京オリンピック・パラリンピックの組織委員会では会場で提供される食材の調達基準つくりがおこなわれています。担当は合瀬宏毅(おおせひろき)解説委員です。

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【オリンピック・パラリンピックともなれば食事の用意も大変でしょうね。】

世界の注目を集めるビックイベントですから、世界中から沢山の人が集まり、それだけに食事の準備も大変です。
今年行われたリオデジャネイロ大会では、2万6000人の選手及び役員、競技を支える12万人のスタッフ、2万5000人の各国からのメディア関係者。それに800万人の観客を支える食の基本方針が作られました。

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【そんなに沢山ですか】

対象となるのは、選手村や競技会場で提供する食事で、用意する食材も大変な量ですが、日本としては、我が国の食文化や地域の魅力を世界にアピールするチャンスでもあります。
ただその料理や食材、オリンピックで使ってもらうには様々なルールがあります。

【どんなルールですか】

その前に、オリンピックでどんな食事がだされているのか、まずはこちらの映像をご覧下さい。これは前々回のロンドンオリンピックの時の選手村でのレストランの様子です。
広いスペースの中に、選手が好みに合わせて自由に取れるように、ご飯やパン、パスタなどの炭水化物から、煮込みやグリルなどの肉料理、そして乳製品など、様々な料理がバイキング形式で用意されています。
競技や練習の時間がバラバラなので、レストランは24時間オープン。料理にはカロリーや栄養価が表示され、表示を見て選ぶことができるようになっています。

【自分の体調や競技に合わせて選手が選ぶことができるとうにという配慮ですね。 】

これはその時のレストランマップですが、選手村での食事提供については、選手が最高の結果を残せるように、栄養価などに配慮したメニューを揃えることはもちろん、一方で参加各国に対応した食の充実が大切だとされている。
イギリスの伝統料理を出すコーナーもありますが、多くは地域ごとの料理です。アジアやアフリカ、アメリカなど地域別に4つのコーナーがあり、ベジタリアンやイスラム教徒用のハラル料理など、宗教や習慣に配慮したコーナーも用意されていました。
 
【地元の料理だけで、もてなすわけではないようですね。】

開催地としては地元の料理を食べてもらいたいところでしょうが、アスリートやチーム関係者は、競技を控えている間は普段食べ慣れた食事を重視します。食事が普段通りでないと、いつもの力が発揮できないからです。試合前には食べたことのない食材、料理は食べませんし、食中毒の心配がありますから、刺身のような生の食材も食べません。
また海外で飼育された家畜の中には、成長ホルモンで早く大きくなるような薬剤を使って育てた肉があります。こうした薬剤のなかには、オリンピックで禁止されているドーピング剤と成分が重なるものがあります。そうしたものは排除しなくてはなりません。

【いろいろ大変なんですね。】

オリンピックに参加する選手や関係者は200カ国以上に上りますから、こうした人たちのニーズに合わせた食材と料理を用意する必要があるということです。選手村で用意した食事は200万食。ピーク時には30分で1万食を作らなければならないことがあったそうで、調理人の数は800人に上ったそうです。
しかもそうした料理や食材の提供の場合でも、味や地域性の他に、もうひとつIOCから求められているルールがある。

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【どういうことですか?】

実は、国際オリンピック委員会IOCは近年、「スポーツ」「文化」に加え、「環境」をオリンピック精神の第三の柱とすることを宣言しています。そして2012年のロンドンオリンピック以降、環境や生物多様性に配慮した大会運営を求めてきているのです。
IOCとしてはそうした大会運営を通じて、持続可能な社会を次世代に残したい。そうした狙いがあります。このため東京大会で使う食材についてもそうした考えに基づいて調達しなくてはなりません。

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【具体的にはどういうことですか?】

例えば農業は、農薬や化学肥料を使うことで、生態系や土壌、地下水など環境に大きな負担を与えています。また食肉や乳製品の生産過程では、例えば家畜が出す糞尿などで、環境などに大きな影響を与えます。そして水産物では、適切な資源管理をしないと、生態系に大きなダメージを与えてしまいます。
 オリンピックが環境や持続可能性を掲げている以上、適切な生産や飼育環境で無い食材は使えません。逆に言うと、そうした環境や生物多様性に配慮した食材しか使えないと言うことです。

【そのための対応が必要だと言うことですね】

たとえば農業については、農薬の使用回数を減らしたり、環境への影響を最小限にする散布方法を考えたもの。また化学肥料については、土壌診断を行って余分な化学肥料を使用しないで、栽培された農産物を選ぶべきだとか、様々な意見が出ています。
 大変なのは畜産です。畜産の分野では動物にとっても快適な飼育環境の確保が求められているのです。

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【動物にとって快適な飼育環境ですか?】

例えばニワトリですが、日本では効率性を考えて狭いケージで飼われるのが一般的です。ところがニワトリは朝起きたら羽ばたきをし、毛繕いをし、砂浴びをするきれい好きの動物です。ゲージ飼いであればそうしたことはできません。
また豚はけんかをして、お互いが傷つかないように、生まれてすぐに歯を切断しますし、尻尾もすぐに切り落とします。こうしたことは、動物のためではありますが、一方で動物が意識ある存在であることを理解していないという見方もあります。
そしてたとえ短い一生であっても、動物の生態・欲求を妨げることのない環境で適正に扱うことを求めているのです。そうした取り組みが持続可能な社会をつくるという考え方です。

【生産現場も大変ですね】

そうですね。その上で実際にやっていることをどう証明するかも課題です。今の国際的な考え方では、その食材が基準を満たしているか、生産者が主張するだけで無く、第三者が確認することが主流になってきています。
ところが、これまで日本の流通現場ではこうした環境や生物多様性に配慮した認証などはほとんど行われてきませんでした。そうしたものをどう整備するかです。

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【生産現場も大きく変わらざるを得ないようですね。】

オリンピック組織委員会では、どういう食材調達のルールにするのか、来年3月には公表したいとしている。
世界が注目する一大イベントですから、生産者としては自らが生産する食材をぜひ、オリンピックで使ってもらいたい。政府も日本の食材を使ってもらって、将来的には輸出につなげたい。そう考えている。であればその調達ルールを守る必要がある。
産現場を変えるには時間がかかります。東京大会まであと4年ありません。日本食でおもてなしをするためには、急ぎその体制を固めなくてはなりません。

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