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「大丈夫?急増 アパート経営 トラブルも」(くらし☆解説)

今井 純子  解説委員

担当は、今井純子解説委員。

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【アパートの経営。増えているのですか?】

私の家の周りでも、ここ1、2年、空き地や畑だったところに、次々、アパートが建っています。今週発表された、9月のアパートなど貸家の着工戸数を見てみると、一年前と比べて、12.6%と大幅に増えています。11カ月連続の増加です。

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【なぜ、アパートが増えているのですか?】
背景にあるのは、去年、相続税が増税されたこと。そして、低金利が続いていることです。

【おカネもちの話ではないのですか?】
そうとも言えません。
▼ 街中に土地を持っている人だけなく、親から家を相続したけれど、住む予定がない。もし自分の身になにかあった場合、こどもの相続税の負担が心配だという方。
▼ あるいは、こどもが独立して、家が広すぎて困っている。低金利で、預金は増えず、年金だけで暮らすのも心配だ。こうした方いますよね。

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そこに、事業者が訪ねてきて、
▼ お金を借りてアパートを建てると、相続税の計算上、負担が大幅に減ります。
▼ 家をアパートに建て替えて、その一部を自宅にすれば、毎月、収入が入って、年金の足しになります。
▼ 今なら、金利も低いし、銀行も、積極的に貸してくれます。と、勧誘されて、アパートを建てるという人が増えているというわけです。

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【不安を抱えているから話にのってしまうのですね。でも、アパートを経営するのは大変ですよね】
そうですよね。アパートを建てた後も、入居者を募集したり、賃料の交渉をしたりと、様々な仕事があります。

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そこで、今、人気なのは、家主が、アパートを建設した事業者(グループ事業者)に、例えば30年といった長期間、アパートをまるまる、貸し付け、管理を委託する契約です。新たに建てられている、アパートの多くが、この契約になっていると見られています。この場合、家主は、この事業者から、長期にわたって賃料をもらいます。自分で管理するよりは、入ってくる額は少ないけれど、家主としての仕事は、事業者が引き受けてくれます。

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【それだったら、楽ですね】
ところが、この仕組みをめぐっては、トラブルも相次いでいるのです。

【どのようなトラブルですか?】
国民生活センターや、被害対策弁護団などによると、
「入居者は、自分たちが探すので大丈夫。長期間、収入が安定的に入ってきます。空き部屋がでても賃料は保証します。絶対に損はしません」と勧誘されてアパートを建て、30年、一括で貸し出した。
▼ それが、数年後に、賃料を大幅に下げるよう要請された。
▼ 銀行に返済ができないので断ると、今度は、契約を解除すると言われた。
▼ 空き部屋について、約束通りの保証をしてくれない。
▼ 今の賃料を保つために、太陽光発電を、家主の負担で設置するよう言われた。
こういったトラブルが、相次いでいるというのです。

【約束違反ではないのですか?】
それが、こうしたことは、勧誘の時の口約束で、契約書をよく見ると、
▼ 賃料は、周辺の相場に応じて、2年おきに見直す。
▼ 合意できなければ、事業者の方から契約を解除することができる。
こういった条項が盛り込まれているケースが多いというのです。

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【契約を解除すると、事業者も困るのではないですか?】
それが、弁護団などによると、事業者によっては、最初にアパートを建てた時に、大きな利益をあげて、その後、入居者が集まらなくなると、早めに契約を解除して、切りすててしまう。そういうところもあるというのです。

【それは困りますね】
大幅に賃料が下がって、ローンの返済に行き詰るケースもでてきているということなのです。
トラブルが相次いでいることから、国土交通省は、9月に、国の登録制度に参加している管理事業者に対して、契約する時に、将来的なリスク。例えば、2年おきに賃料を見直して、その時、大幅に賃料が減る可能性がある。とか、契約を一方的に解除することもある。といった事を、書面にわかりやすく書いて、きちんと説明するよう義務付けました。

【それで、トラブルはなくなるのでしょうか?】
いいえ。そうとは言えないのが問題なのです。
まず、そもそも、国への登録は任意で、全国3万2000あると見られている事業者のうち、10%程度しか登録していません。しかも、違反しても罰則はありません。

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【それだと、ぜんぜん、守られない可能性がありますね】
きちんとした事業者は、守ると思います。それでも、対象になるのは、これから新しく契約をするアパートです。今後、心配なのは、すでに、建てられている多くのアパートです。不動産調査会社が推計した首都圏のアパートの空室率の推移を見てみますと・・

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【増えていますね】
はい。神奈川、千葉、そして東京でも去年の中ごろから、空室率が増えています。これは、アパートの着工が増え始めた時期とも重なります。新しくできたアパートに入居者が入ると、周辺の中古アパートに人が入らなくなって、空室率が上がっているとみられています。
一括貸し付けの仕組みは、立地のいい場所では、便利な仕組みかもしれません。ただ、駅から遠く離れた立地の悪いところでも、アパートの建設が続いています。一方、人口が減って、今後、世帯数も減ると予想されています。このままでは、さらに空室率が上がって、競争が激しくなる。それに従って、全国的に、立地の悪いところから、賃料の大幅な引き下げを要請され、トラブルが増える心配があると、この問題に取り組んでいる弁護士や専門家が懸念しています。実際、日銀も「家賃は最近下落幅が拡大している」と指摘しているのです。

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【アパートを借りる側にしてみると、賃料が安くなるのはありがたいですが、家主にとっては、心配ですね】
そうです。問題は、家主といっても、多くは、事業者に「何もしなくても、安定して収入が入ってくる」と勧誘された「素人経営者」だという点です。中には、判断力が鈍くなったお年寄りに営業攻勢をかける事業者もいます。
仮に、こうした素人経営者を、「消費者」とみなした場合、「消費者契約法」という法律で、「絶対にもうかります」と断言したり、不都合なことを隠したりして、勧誘することは禁じられることになります。その場合、消費者側は、アパートを建てるという契約をさかのぼって、取り消すことができます。
ところが、今どうなっているかというと、家主は、「事業者」とみなされて、こうした救済策が受けられない可能性が高いとされています。それだけに、勧誘を受けた場合、事業者が言う収支計画をそのまま信じるのではなく、経営者になるという自覚をもって、立地のいい場所かどうか、長期的に収支があうかどうか、慎重に検討すること。契約の内容をしっかりチェックすることが、本当に大事になってきます。

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【建てた後、トラブルになったら、どうすればいいのでしょうか?】
この問題を専門に扱っている被害対策弁護団がありますので、こうしたところに相談する方法があります。国も、今後、トラブルを防ぐために、素人経営者を消費者とみなして保護することができないか、勧誘をもっと規制できないか、検討することが必要になってくると思います。

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