解説アーカイブス これまでの解説記事

くらし☆解説

twitterにURLを送る facebookにURLを送る ソーシャルブックマークについて
※NHKサイトを離れます。

「どこまで使える あなたの"旧姓"」(くらし☆解説)

清永 聡  解説委員

結婚した後もこれまでの名字で仕事を続けることができるかどうかは、企業によって対応が異なります。旧姓使用を認めるかどうかで裁判になっているケースもあります。
“旧姓”はどこまで使えるのか、そしてどのような取り組みが求められるかについてお伝えします。

k161007_01.jpg

▼「あなたは旧姓を使っていますか?」
職場の旧姓使用というのは、例えば結婚して名字が「山田」から「鈴木」になったとします。営業職の人だと、電話をかけてきた取引先が「山田さんがいない」、と混乱するかもしれません。また研究職の人は、結婚前に書いていた「山田」という論文の著者と今の「鈴木」という著者が同じ筆者と思われなくなるかもしれません。

k161007_03.jpg

そこで本人が希望した場合、以前の名字を仕事の上で使うというのが職場の旧姓使用です。一部を除き書類上も旧姓を使えるところが多くなっています。そうなれば取引先も困らないし、論文の実績も継続されます。
これは女性だけではなく、結婚して名字が変わった男性も同じことです。
企業に対して職場の旧姓使用を定めた法律はありません。したがって企業によって取り組みは異なっていて、トラブルや裁判になっているケースもあるんです。

k161007_06.jpg

▼裁判になるケースも
今回の裁判は教師をしている女性が起こしたもので、都内の私立高校に対し、通知表や時間割表といった書類を含め、事務処理上支障のない範囲で旧姓を使用できるよう希望しています。一方で、この学校は旧姓使用を認めていません。

k161007_07.jpg

教員免許は旧姓のままで持ち続けることができ、女性は「結婚前と同じ名字で働きたい」と希望しています。
一方で学校は「法律上の名字である戸籍の氏名に基づいて対応しているだけだ」としています。学校側によりますと、生徒や同僚が女性を旧姓で呼ぶことは妨げていないということです。
こうした職場の旧姓使用が裁判にまで至るケースは少なく、多くは和解で解決しています。それだけに裁判所がどういう判断をするか注目されています。

▼今も旧姓使えない企業も
今はもうどの職場も旧姓使用ができると考えている人も多いと思いますが、実際はそうではありません。
財団法人「労務行政研究所」の2013年の調査では、2013年の時点で職場の旧姓使用を認めている企業が65、4%です。

k161007_08.jpg

この調査、対象が上場企業、もしくは従業員500人以上などの企業を対象にしています。このため特に中小企業などでは、今も旧姓使用できないところも少なくないとみられます。
この問題に取り組む民間団体によると、女性からの「旧姓使用が許されない」という相談は今も絶えないということです。ただ、雇用主との力関係で、泣き寝入りするケースも少なくないとみられます。
一方で、企業側にとっては、社員を管理するシステムの修正が必要になるという意見や、経営者がそもそも保守的な考えであることなどが、旧姓使用が進まない理由だとみられます。

▼国家資格もバラバラ
国家公務員は希望すれば旧姓で仕事ができるようになっています。ただし国家資格は、登録する上で旧姓の扱いはバラバラです。

k161007_09.jpg

<美容師><保育士><建築士><弁護士>の4つの資格を例に挙げてみます。
このうち、厚生労働省によると美容師と保育士の免許証や登録は、戸籍上の氏名のみとなっています。
一方で建築士は戸籍上の氏名に加えて旧姓も併記できるようになっています。また、弁護士は登録は戸籍上の氏名ですが、日弁連へ“旧姓”を届け出て使える制度が作られています。
もちろんこれらはすべて免許証や登録上の話で、美容師や保育士の方々も職場でお互いに呼び合う名字は旧姓にしているところも多いと思います。ただ、登録した名字と職場で使う名字が異なることで、不便なこともあるようです。
例えば建築士も以前は戸籍姓のみだったそうですが、10年あまり前に見直されたそうです。業界のこうした取り組みも大切だと思います。

▼実は「夫婦別姓」の議論が背景に
この問題、実は日本の家族制度に関する大きな議論とも関係しています。それは結婚した夫婦が別々の名字を選べるようにするべきだという「夫婦別姓」をめぐる議論です。
最高裁は去年、この夫婦別姓を認めない判決を言い渡しました。理由の1つとして「旧姓を通称としての使用が広まることで、不利益は一定程度緩和される」と指摘しています。
つまり最高裁の判断は、職場などで旧姓使用ができることが理由の一つになっているのです。
しかし、実際には裁判も起きていますし、国家資格も旧姓を登録できないところは少なくありません。現状はまだまだだと思います。この点で、最高裁の認識は甘い、と言わざるを得ません。
そもそも「夫婦は同じ名字」であることが法律で定められているのは主要な国では日本だけだということです。このため海外ではこうした問題はほとんどないとみられます。

▼国の取り組みは~初めて旧姓併記も~
旧姓使用を進めていく取り組みとして、政府がまとめた「女性活躍加速のための重点方針」に、この旧姓使用の拡大が今年初めて盛り込まれました。
取り組みの1つがマイナンバーカードです。希望者はここに旧姓を併記することになりました(図はイメージです)。現在システムの改修などを行っていて、準備が整い次第、記載されるようになるということです。
また住民票にも、今後旧姓の欄が設けられるということです。

k161007_011.jpg

2つが併記されると、旧姓と戸籍上の名字を使い分けている人にとっては、自分を証明することが容易になりますから、便利だと思います。
こういう取り組みによって、企業などでの旧姓使用がさらに広がることが望まれます。

▼まとめ~求められるものは
政府は「女性が輝く社会の実現」を掲げています。そのためには、政府はもっと民間企業などへの働きかけなどを行うべきだと思いますし、何よりも企業の真剣な取り組みが求められます。
職場の旧姓使用というのは、ここまで見てきたように、仕事で使う名字の話にとどまるものではありません。家族制度にも関わってくる課題です。共働きの世帯が増える中、「夫婦同姓」という今の制度の下でも、結婚前と同じようにキャリアを継続できる環境を整えることは大事なことではないでしょうか。

twitterにURLを送る facebookにURLを送る ソーシャルブックマークについて
※NHKサイトを離れます。

キーワードで検索する

例)テーマ、ジャンル、解説委員名など

日付から探す

2017年02月
Sun Mon Tue Wed Thu Fri Sat
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28        
RSS