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「映画で考える難民問題」(くらし☆解説)

二村 伸  解説委員

難民をテーマにした世界のすぐれた作品を上映する「難民映画祭」が9月17日から始まります。映画祭はUNHCR駐日事務所が難民問題に理解を深めてもらおうと、11年前から毎年開催してきましたが、迫害や紛争によって住む家を追われた難民や国内避難民が世界全体で6500万人を超え、戦後最悪を記録、ヨーロッパでは多数の難民が流入し大きなニュースになっただけに今年は関心が高いようです。映画を通して難民問題を考えます。

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【今年はどんな作品が上映されるのですか?】

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今年上映されるのは、ドキュメンタリー11本とドラマ2本のあわせて13本です。シリアをはじめ中東やアフリカ、アジアの難民の苦悩や、受け入れる側の戸惑いや心の変化を描いた作品、それに自然災害の被災者が復興に立ち上がる姿を描いた作品もあります。今年の特徴は、多数の難民が押し寄せたヨーロッパを舞台にした作品が選考段階から数多く目立ったことです。

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【注目作は?】
地中海を舞台にしたドキュメンタリー「海は燃えている」で、今年のベルリン国際映画祭で「金熊賞」を受賞した話題作です。

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島の名前はランペドゥーサ。イタリア最南端にある広さ20平方キロメートル、人口5500人ほどの小さな島で、子どもたちは昔ながらの遊びに興じています。そんな牧歌的な島に、中東やアフリカから難民や移民が次々と逃げ込んで来ています。イタリア本土よりもリビアやチュニジアに近いため、ヨーロッパへの玄関口として逃げ込む人が後を絶たず、島の近くでは船が沈没して多数が犠牲になる痛ましいニュースがたびたび伝えられています。地中海を渡ってヨーロッパに入国した人は今年およそ30万人、途中で命を落としたり行方不明になったりした人は3200人、その多くがこの島に向かっていた人たちです。
島でたった一人の医師は、住民の治療と同時に、次々と運び込まれる難民の手当てに追われています。840人が乗っていた船が沈没した事故では、「乗客は水も飲めず、ろくな食べ物がなかった。目の前は死体の山だった」と語ります。

島では昔と変わらない平和な生活の端々で、難民の事故のニュースが流れたり、医師が難民の治療にあたったりすることで、難民たちの存在が垣間見られます。この映画は、世界を揺るがす難民問題を大上段に構えるのではなく、テレビや新聞の報道とは違う島の住民の視点で捉え、住民の日々の暮らしと対比させながら淡々と描いています。来年2月に日本で上映されますが、今回一足早く見ることができます。

【なぜ難民は減らないのでしょうか?】
世界各地で紛争が長期化し祖国に帰ることができない人が多いこと、政治対立や差別、過激派によるテロなどが相次ぎ、脅威が増しているためです。とくにシリアの難民は500万人近くに上っていますが、祖国に帰る日は当分来そうにありません。

シリア難民が多く暮らす隣国レバノンでは人口の4人に1人に相当する100万人以上のシリア難民がいますが、政府がキャンプの設置を認めていないため、ほとんどの難民が空き地などに作られた粗末な小屋で暮らしています。

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この写真はレバノン東部、ベッカー高原のテルボルという町の郊外、山の向こう側がシリアです。人口1万5000人の町に3000人のシリア難民が暮らし、その多くがこうしたバラック小屋で生活しています。多くの人が、過激派組織ISが首都としているラッカなどから逃れてきました。
ラッカで夫をISに殺害されたということです。10人の子どもを抱え、食べ物も着るものもなく生活が苦しいと話していました。

【難民というと、キャンプで暮らす人が多いのではないのですか?】
ベッカー高原には、こうした非公式キャンプ、仮説の小屋が密集した居住区が1700か所もあります。レバノン以外でもシリア難民の8割以上はこうした空き地やアパート、倉庫などで暮らしています。

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こちらは、ベッカー高原の中心都市ザーレの郊外です。町のいたるところにこうしたバラック小屋が立ち並んでいます。小屋の屋根にはテレビのアンテナが目立ちます。衛星放送でシリア情勢を知るためです。野菜や缶詰、飲料水などを売る店もあります。

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難民たちはUNHCR・国連難民高等弁務官事務所から生活費として家族ごとに月175ドル、またWFP・世界食糧計画から食料費を各自20ドル余り支給されていますが、とても足りないと言います。食べ物を買い、部屋代や電気・水道代を払わなくてはなりませんが、仕事を見つけるのは容易ではないからです。子どもたちの半分が学校に行けない状態です。シリア北部のアレッポから逃げてきたという男性は、シリアに家族を残してきましたが、「治安が悪く、食べ物も水もなく電気もない。電話も通じないので家族が生きているかどうかもわからないと」と不安そうに話していました。レバノンの生活もたいへんで、カナダかドイツに行きたいとも話していました。難民の多くが男性と同じようにヨーロッパに行きたいと考えています。

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難民たちは国際社会の支援なしに暮らしていけません。また、将来への希望も持てず精神的に追い込まれた人が少なくありません。そんな中で、困難な環境の中で夢を追い求める少女を描いた作品が「SONITA」です。

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主人公はタリバン政権下のアフガニスタンからイランのテヘランに逃れてきた18歳の少女、
ソニータ。ラップ・ミュージシャになるのが夢です。女性が学校に行くことも働くことも許されないアフガニスタンから逃れてきたものの、イランでも歌手になるのは困難です。さらに、兄の結婚資金が必要だとして、母親から結婚を迫られます。ソニータは夢を捨てるのか、それとも第2の人生が開けるのか、ぜひ映画を見てください。

【どこで映画を見ることができるのでしょうか?】
映画祭は今週土曜日、17日に仙台で開幕し、その後札幌、東京、大阪で順次上映されます。入場は無料ですが、事前にインターネットで申し込みが必要です。すでにいっぱいのものもありますので、詳しくはUNHCRに電話で確認してください。

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【映画で学ぶことも多そうですね。】
映画のようなことが世界のいたるところで実際に起きている、決してフィクションではないということをまず理解してほしいと思います。難民もごく普通の市民であり、ソニータのような才能のある若者も少なくありません。そうした人たちが夢を叶えることができるように私たちも何か手伝えないか、考える機会にしてほしいと思います。

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