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「加工食品の原料原産地表示は?」(くらし☆解説)

合瀬 宏毅  解説委員

くらしきらり解説、今日は加工食品で使われている原料の原産地表示の見直しについて、担当は合瀬宏毅(おおせひろき)解説委員です。

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【原料の原産地表示、気になりますよね】
 自分の買った加工食品の原料がどの国から来たものなのか、関心のある人多いですよね。そうしたニーズもあって、こうした一部の加工食品には現在、原材料の原産地表示が義務づけられています。
例えば、カツオの削り節。原料となったカツオは国内でとれたことを表示してありますし、豆とナッツのお菓子に使われている原料のピーナッツ、これが中国産という具合です。
政府は今、こうした原料の原産地表示を一部ではなく、全ての加工食品に義務化することを目指し、検討会を立ち上げ議論しています。その議論が迷走しているのです。

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【どう迷走しているのですか】
表示の対象や表示方法を巡って、検討会の中で、意見が対立しているのです。
そもそもこの原料原産地表示、原料に中国など外国産を使っているのに、あたかも国内産と思わせる漬物や干物が出回り、消費者や生産者から苦情が続出したことを受けて、2001年からスタートしました。
ただ加工食品と言っても、冷凍食品から清涼飲料水など様々です。
そこで①原材料の品質が商品の品質に大きな影響を及ぼし、かつ②主原材料の割合が半分以上を占める加工食品について表示を義務づけてきました。対象となっているのは梅干しやらっきょなどの漬物、それにウナギの蒲焼きや干物など26の食品です。

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【意外と少ないですね?】
というのも実際に表示をしようとするとなかなか難しい状況があるからです。
例えばミカンやリンゴなどの果物のジュースですが、メーカーは原料を国内だけで無く、様々な国から調達しています。その調達先が固定しているなら良いのですが、農産物は天候や病気などの影響に左右されます。メーカーとしては原料の調達先を頻繁に変えることで商品の安定供給を実現しているのですが、表示が義務づけられると調達先が変わる度に、包装を変えざるをえなくなり、大変なコストがかかる。

【確かにそうですね】
それに、チョコレートなど、海外でブレンドされた材料を輸入して作るお菓子もある。海外には原料原産地の表示がある国は稀ですから、原料となる中間の加工品はどの国のカカオを使って作ったのか分からない。
このように加工食品の原料の調達方法は様々で、そうした特性を考えると、表示義務の対象を増やすのは、なかなか難しかった。
それを今回は、全ての加工食品が対象として、議論を進めている、

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【全ての加工食品に義務づけて大丈夫ですか?】
 そこが問題なのです。こうした中で政府が検討会に出してきたのが、新たな表示の方法です。可能表示や、大括り表示、それに加工地表示とされるものです。

【どういう表示ですか?】
 事務局の説明によりますと、可能性表示というのは原産国が、頻繁に切り替わるような場合、過去の取り扱い実績などを根拠にして、使用する可能性のある産地を列挙して表示するものです。
たとえば、しょうゆであれば「原材料名:大豆(アメリカ又はカナダ又は国産」となります。こう書けば、アメリカ産しか使っていない場合でも、この表示ができます。
また、容器に国名を複数書くスペースがない場合は、産地を一括して「輸入」と表示できる大括り表示も提示しました。しょうゆであれば「原材料名:大豆(輸入)」や、「原材料名:大豆(輸入、国産)」などとなります。

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【かなり、漠然とした表示ですね】
そうですね。さらに、さきほどのチョコレートのように原料原産地の情報が分からない、中間加工品については、例えば「加工地:シンガポール」というように、最終的に加工された国を書く加工地表示を提示しました。

【でもこれだと、どこの国で取れた原料か分かりませんよね?】
 そうですよね。検討会でも意見は割れました。
「表示対象が拡大されるとなれば、一歩前進だ」と賛成する委員がいる一方で、「消費者が知りたい情報ではない」とか「表示と中身がずれている」、また「消費者の誤解を招き、デメリットの方が大きい」などと反対する声が相次ぎました。

【私もそう思います】
 しかもこの3つの表示、5年前の別の検討会でも検討され、「消費者が本当に知りたい情報なのか疑問」などとして、いずれも導入が見送られてきた案なのです。国の名前を書くという、これまでの原則を考えると、明らかに後退している。
全ての加工品を対象にするなら、こうした方法しか無いのかという気がしますが、「原材料(輸入、国産)」などと書かれていれば、一体、どっちなんだ?と、表示の意味をなしません。
事業者もこういう表示をすると、会社に問合せが殺到して、かえって手間がかかると困っていました。

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【そこまでして、なぜ検討会は「全ての加工食品」の義務化にこだわるのでしょうか?】
原料原産地表示が、消費者の選択の材料であるとともに、国内農業の成長産業化にも寄与すると位置づけられているからです。
自民党は4月、農林水産業のTPP対策として「全ての加工食品について、実行可能な方法で、原料原産地を表示する」と決めましたし、政府も骨太の方針の中で、全ての加工食品の原料原産地表示の導入を検討すると、すでに閣議決定している。
 国内産と書かれていれば、国産志向のつよい日本の消費者は、その商品を買ってくれる。その結果、国内産農産物や水産物の需要が増えて、国内の農漁業が元気になるという、生産者向けのアピール。
とはいえ、自民党や政府に先にきめられてしまっては、委員会としてはなかなか反対しにくい。

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【そうはいっても、わかりにくければ、消費者は困りますよね?】
 そうですね。本来は消費者にとってのわかりやすさや、事業者の実行可能性を最優先に感がなければならなかったのですが、全ての加工食品を対象と、先に決めたものですから、議論が迷走している。そんな印象です。

【議論は今後どうなるのでしょうか?】
まだまだ課題は山積しています。例えば監視活動。法律では虚偽の表示をした場合、2年以下の懲役又は200万円以下の罰金。法人であれば一億円の罰金となっている。
ただ、原料がどこ国で作られたのか見分けることは難しく、会社への立ち入り検査や、帳簿などを持ち帰って、違反を見つける必要がある。
 全ての加工食品が対象となると、その数は膨大になります。

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【議論は纏まるのでしょうか。】
検討会は秋までの結論を目指しています。原料原産地表示は、消費者にとって関心の高い表示です。消費者が自らが望む商品を選ぶのに役に立つ制度となるのか、注目していきたいと思う。

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