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「知っておきたい 旅客機の緊急脱出」(くらし☆解説)

中村 幸司  解説委員

2016年5月、羽田空港で離陸しようとしていた大韓航空機のエンジン部分から火が出て、乗客乗員319人全員が緊急脱出し、9人がけがをしました。
万が一のときのために知っておきたい、旅客機の緊急脱出について取り上げます。

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◇これまでの緊急脱出
2000年以降、緊急脱出の措置がとられた主なケースです。

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緊急脱出の理由は、火災や機内に煙が発生したことなどですが、けがの直接の原因は、そうした火災や煙などではなく、ほとんどが脱出する時にけがをしています。

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旅客機は、緊急時には90秒以内に全員が脱出できるようにするという国際的なルールあります。緊急ですから、一刻も早く逃げることが最優先になるので、けがをする人が出てしまうことは、どうしてもあります。

◇けがをするケース
けがが多いのは、脱出スライドを使っているときです。

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▽脱出スライドで降りて着地したとき、腰から地面に落ちたり、転んだりしたときです。脊椎の圧迫骨折などの大けがをした人もいます。

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▽あとから降りて来た人とぶつかって、けがをすることもあります。

◇けがを防ぐには
緊急時とはいえ、けがを防ぐにはどうしたらいでしょうか。
これは航空会社の訓練の担当の方が脱出スライドを滑り降りているところです。

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脱出スライドをけがをしないように滑り降りるための注意点があります。

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▽腕を前にして、
▽足は肩幅程度に広げます。足を閉じると不安定で、横に倒れてしまうこともあるということです。
また、スピードが出過ぎて、着地のときに、けがをすることがあります。
▽これには、重心を前にすると、スピードをコントロールできるということです。
スキーでも、初心者の時、重心が後ろになって、スピードが出てしまうといったことがありますが、脱出スライドも同じです。コツは「滑り終わるまで着地点を見るようにする」ことです。こうすると重心を前に維持できるのだといいます。

◇援助する人の重要性
しかし、頭で理解しても、練習する機会はないですから、いざというとき、できるか不安になります。
そこで重要になってくるのが、スライドの下で支えてくれる人、「援助する人」です。

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過去のけが、特に大けがをしたケースを見てみると、多くは援助してくれる人がいませんでした。

過去の緊急脱出で2007年のケースでは、誰もけがをしませんでした。このときは燃料が漏れて、火災が起き、最後は機体が大破しています。

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これだけの事故で、けが人がいなかった理由の一つに、スムーズな脱出ができたことがあげられています。
火災は、旅客機が空港施設の近くまできて止まったところで起きました。このため、近くに地上係員がいて、その人たちが駆けつけてスライドの下で援助をしたことが、けが人がなかった理由のひとつとされています。
それだけ、下で援助する人は、素早く安全に脱出させる上で重要だということが分かります。

◇非常口の座席に座る人の役割
ただ、飛行場は広いですから、地上の係員が近くにいるとは限りません。
そこで、非常口のところに座る乗客は、緊急のときに乗務員の手助けをするよう求められます。
その内容は、機内では、

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▽非常口に乗客が殺到したときに、客を制止すること、

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▽乗務員の指示で非常口を開ける操作をすることもあります。

そして、先に滑り降りて

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▽スライドの下での援助もするわけです。

他にも

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▽「旅客機からなるべく離れる」よう呼び掛けます。
最近では、スライドを降りても、スマホで写真を撮るなど旅客機の近くにいつまでもいるケースがありますが、こうしたことはダメです。
燃料を積んでいる旅客機は、爆発の危険もあります。少しでも遠くに逃げることが大切です。

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つまり、非常口のところの座席を座る人は、機内の混乱を抑えることや、旅客機の外での安全確保という役割をするわけです。非常口のところに座るときは、その重要性を理解しておく必要があります。

◇脱出スライドには、他にも注意点が
脱出スライドを使うとき、手荷物を持って降りてはいけません。
ただ、これは徹底されないケースが少なくありません。

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5月の羽田空港のトラブルのときには、スライドを降りた後、バッグを転がしている人がいました。他にも荷物を持った人が何人もいました。

過去には、持って出ようとした手荷物をスライドの上から滑らせたところ、下の人にあたって、重傷を負わせるということも起きています。

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それに、手荷物で脱出スライドに穴があいてしまう危険もあります。穴があくと、あとの人が逃げられなくなってしまいます。
自分勝手な行動が迷惑というレベルではなく、周りの人を危険な状況にしてしまいます。

ハイヒールもスライドに穴をあける危険があります。着地したときに足をくじく恐れもありますから、脱いでください。両手に持って滑るのもやめてください。手荷物と同じで、手に物を持っていることがリスクを伴います。下に降りたら、そのまま逃げるわけですから、動きにくいハイヒールは必要ありません。
緊急脱出するときは、「手荷物をどうしよう」とか、「足が汚れる」といったことを考えている場合ではなく、命を守る行動をしてください。

◇脱出スライド以外の注意点
滑り台のようになる脱出スライドは、旅客機が海に着水したときなど、水の上ではボートになります。
その時は、ライフベストを着けます。

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ライフベストの使い方にも注意点があります。
「機内では、膨らませないように」といった注意を聞いたことあると思います。これは逃げるのにじゃまになるということもありますが、単にじゃまというだけではありません。

ライフベストの種類によっては、膨らませると思った以上に首が固定されます。

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足元を見ようとしても、ライフベストの膨らみもじゃまして、大変見づらい状況になります。首が回りにくいので、まわりの状況を確認するのが難しくなります。
こうなると、一層あわててしまうかもしれません。そういったこともあって、座席や通路で膨らませるのではなく、乗務員の指示で、非常口から外に出るときに膨らませるようにすることが大切になります。

◇安全のしおりの確認を
注意を守ることには、なかなか気付かないような意味合いがあります。
注意点については、座席の前にある「安全のしおり」や離陸前のビデオで紹介しています。「なんとなく知っている」ということかも知れませんが、次に旅客機を利用する際に、もう一度、しっかり確認して、万が一の時に自分がどのような行動をとったらいいのか、考えておいてほしいと思います。

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