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「年金は大丈夫? 巨額損失 5兆円!」(くらし☆解説)

竹田 忠  解説委員

大事な年金に使うための積立金に、5兆円という巨額の損失が出ていることが
先週末、公表されました。
このニュースを聞いて、年金は大丈夫なのかと、
不安に思われた方も多いのではないでしょうか?担当は竹田忠解説委員です。

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◇年金の積立金で、5兆円もの損失が出た、ということなんですが、誰が、その損失を出してしまったんですか?

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損失を出したのは、この大きなクジラに喩えられている組織です。
正式には、GPIF・年金積立金管理運用独立行政法人という、
長い名前の公的機関です。
国から年金積立金の運用を委されている組織です。

◇その“年金積立金”というのは、どういうものなんですか?

年金というのは、今の若い人が払っている保険料が、
そのまま、今の高齢者の年金に、使われているわけですが、
昔、若い人が多くて、余裕があった時に、
保険料の一部を、年金に使わず、将来のために残していたんです。
それが、年金積立金です。

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そのお金を、この組織があずかって、
株や、債券など、いろんな商品に投資をして、運用をしてるんです。
その運用額が大きいことから、
株式市場という、小さな池の中の大きなクジラ、と喩えられているわけです。

◇その組織が、なぜ、5兆円もの損失を出してしまったんですか?

それは、GPIFの運用比率が関係しています。

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実際に、どういう商品に投資をしているか、と言いますと、
全体の半分は、国内や海外の株式、
つまり価格が変動する、いわゆるリスク資産で占められています。
GPIFによると、中国の景気減速をきっかけにした
世界的な株安や、円高の影響を受けて、保有している株に評価損が出て、
その結果、2015年度末で
およそ5兆3000億円の損失が出てしまった、ということなんです。

◇そんなに多くの損失が出て、年金は大丈夫なんでしょうか?
年金の額が減らされるようなことはないんでしょうか?

これまでの運用実績をみてみますと、GPIFが損失を出すのは5年ぶりで、
損失額は、サブプライム問題やリーマンショックという
一連の問題で大きな損失が出た時に次ぐ、巨額の損失です。

ただ、一方、年金積立金を今のような形で、
市場で運用してきた15年間を累計すると、
およそ45兆円の運用益が出ています。
このため、今回の損失だけを見て、年金が危ない、と批判するのは当たらない、
というのが、政府の見解です。
また、年金積立金の運用総額は、現在、およそ135兆円で、
今回出た損失は、全体の4%足らずなので、
ただちに、年金の支給額に影響がでるようなことはない、と
政府側では説明しています。
ただ、今後もこういう赤字が続くようだと、
やはり年金に影響が出てくる可能性は否定できないと思います。

◇それは、どういうことでしょうか?

それは、そもそも年金積立金とは、どういうものか、という
根本の問題に関わってきます。

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そもそも、年金の仕組みはどうなっているかといいますと、
まず、基本的には今の若い人が払っている保険料が、
そのまま、今の高齢者の年金にまわされる、ということになっていて、
これが全体の7割ぐらいを占めます。そして2割が税金。

そして、残りの1割を、年金積立金を取り崩して埋める、
という形になっています。

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問題は、これが、今後、どうなるか、ということです。
今後、若い人はさらに減っていき、保険料を払う人も少なくなります。
現在は現役二人あまりで、一人の高齢者を支えていますが、
2050年ごろには、一人の現役が、一人の高齢者を支えるという
図式になります。
つまり、それだけ保険料が減って、その分、年金の額も減ることになります。
そこで、大きな意味を持つのが、年金積立金です。
保険料が減る分を、たとえわずかでも年金積立金がカバーできれば、
それだけ、年金の目減りを少なくすることができるかもしれません。
つまり、年金積立金というのは、若い人がさらに減ってしまう、
将来の世代のために残しておかないといけない、大切なお金なんです。

◇それなのに、もうこんなに損失を出してしまって大丈夫なんでしょうか?
 なぜ、こんなことになってしまうんでしょうか?

実は、GPIFが株の運用比率を増やしたことが、
巨額損失の要因の一つとなっています。
というのも、つい最近まで、GPIFの投資は、安全第一、ということで、
投資の大半は、安全資産である国債だったんです。
それを、おととし10月、国内株と外国株、両方の比率を一気に倍に増やして、
高い収益を狙える構成に変えたわけです。
その矢先に今回の株安に見舞われて、巨額の損失を出すことになったわけです。

◇なぜ、そんなに株を増やしたんですか?

理由は二つあります。
一つは、超低金利が続いているため、
国債中心では、利回りがほとんど期待できません。
積立金を少しでも増やそうとすれば、ある程度株を増やして
運用益を目指す必要があるだろうというわけです。

もう一つの理由は、この年金積立金の運用が
アベノミクスの成長戦略に組み入れられたことです。

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おととし6月に閣議決定された成長戦略では、
GPIFの「機動的運用を目指す」という文言が明記されました。
要するに、年金のお金で、もっと株を買いますよ!ということを
宣言したわけです。
この方針を受けて、おととし10月、GPIFが行った、
株の運用比率を増やすという発表は、
実は、日銀の追加の金融緩和の決定と、同じ日に同時発表されました。

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このあまりの絶妙のタイミングと、影響の大きさから、
市場では、この同時発表を、“ダブル・バスーカ砲”などと呼んで
大いに持ち上げ、株価は大きく上昇しました。

しかし、その後は、中国経済の減速などの影響で株価は一転して下落に転じて、
今は、こうした一連の動きが裏目に出た形となっているわけです。

◇今後は、このままで大丈夫なんでしょうか?

世界経済は今後も不透明な情勢が続く可能性が高いと見られています。
事実、今回、GPIFが発表したのは、2015年度の決算までですが、
その後もイギリスのEU離脱問題などで、株安・円高基調が続いているため、
16年度に入っても、直近の4~6月の四半期決算は、
同じ5兆円程度の損失が出ている可能性があるという指摘が
専門家から出ています。

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重要なのは、この年金積立金は、国民のものだということです。
なのに、運用比率を見直したり、リスクが高まったり、という
重要なことについて、多くの国民はほとんど知らされていません。
年金という国民の資産で、どこまでリスクをとるのか?
そして、それがどこまで本当に有利なのか?
国も、GPIFも、もっと、国民に説明をして、
理解を求める必要があると思います。

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