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「どこまで進んだ? バスの安全対策」(くらし☆解説)

松本 浩司  解説委員

もうすぐお盆休み。長距離バスで帰省や旅行をしようと考えている方も多いと思います。気になるのは安全性。長野県で起きたスキーツアーバスの事故から半年が過ぎましたが、安全対策はどこまで進んだのでしょうか。
長距離バスの安全対策がテーマです。担当は松本解説委員です。

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【スキーツアーバス事故のあと対策は取られていると思うが、安全性は高まったのでしょうか?】
先月、国の再発防止策がまとまり、さまざまな対策が進められています。ただ時間がかかるものが多く、安全をめぐる状況はまだ大きくは変わっていないと言わざるを得ないと思います。

事故は今年の1月、長野県軽井沢町で起きました。スキーツアーのバスが道路脇に転落して、大学生13人の命が奪われました。事故原因はまだはっきりしていませんが、事故後、バス会社の安全管理がきわめてずさんだったことが明らかになりました。ツアーバスをめぐっては4年前にも群馬県の関越道で乗客7人が亡くなる事故が起きていて、対策はとられたはずなのに事故が繰り返されてしまいました。

【なぜ繰り返されたのでしょう?】
4年前の事故の後、安全性を高めるためにバスの制度が大きく変えられたのですが、一番根深い、構造的な問題が改善されていなかったからです。

<事故を繰り返す構造的問題>
【構造的な問題とは、どういうことでしょうか?】
4年前の事故は「高速ツアーバス」という形態のバスが引き起こしました。高速ツアーバスは、旅行会社がお客さんを募集して、貸切バス会社にバスを運行する「ツアーバス」のひとつ。従来のツアーバスは、お客さんをスキーや温泉などに連れて行って、宿に泊まって戻ってくる、パック旅行の形をとっています。高速ツアーバスは、東京から大阪など都市から都市へと運ぶだけで、路線バスと同じです。

平成12年の規制緩和で、参入要件が緩和されて貸切バス会社が倍増しました。その貸切バス会社を使って旅行会社が高速ツアーバスを次々に仕立て、さまざまな都市を結びました。高速ツアーバスは路線バスにくらべて格段に規制が緩いことから格安運賃を実現し、それを武器に年間600万人が利用するまで急成長しました。その一方で、行き過ぎた低価格競争で安全の軽視、無理な運行が横行していると懸念の声が高まっていた中で、関越道の事故が起きてしまったのです。

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【この事故でどういう対策がとられたのですか?】
「高速ツアーバス」は廃止され、高速道路を使って都市間を結ぶバスは、すべて路線バスの免許が必要になりました。指摘されていた問題点、つまり「旅行会社が主催者であるにもかかわらず、お客さんを集めるだけで、安全は貸切バス会社に丸投げし、責任を負わない」というゆがんだ仕組みが改められ、これで長距離バスはより安全になったはずでした。ところが、また大事故が起きてしまった。今度は、こちら側、以前からあったツアーバスで起きました。

今回の事故の調査と、事故を受けた全国のバス会社への国の監査などであらためて、わかったことは
▼安全管理がずさんな中小零細の貸切バス会社がまだたくさんあること
▼国の監督や指導が行き届いていないこと
▼貸切バス会社が、旅行会社の下請け的な弱い立場に置かれ、ルールを下回る価格で仕事を受けざるを得ないケースが少なくないこと
こうした以前からの根深い問題が改善されていなかった、ということがあらためて浮き彫りになったのです。

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<軽井沢事故後の対策と課題>
【2回目の事故を受けた対策が、先月まとまったということですが、今度はどういう対策なのですか?】
多岐にわたりますが、ポイントは3つあると思います。

▼チェック体制の見直し
バス会社に対しては国が監査を行っていますが、対象が12万社あるのに要員は360人ほどでとても手がまわりません。この点は前回の事故の後にも問題になったのですが、積み残しになっていました。そこでバス業界に協力してもらい、新たな民間機関をつくって監督・指導にまわるという対策が打ち出されました。ようやく踏み込んだと言えます。

▼不適格なバス会社の排除
事業許可を更新制にしたり、厳罰化で、違反を重ねた会社は即、退場してもらうことにしました。

▼利用者に対する安全情報の公表
旅行のパンフレットに利用するバス会社を明記することを義務づける。また国は貸切バス会社の安全情報を公表することになりました。

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【課題は?】
不当に安い価格をバス会社に押し付けるなどした旅行会社に対する行政処分の強化についても検討されたのですが、先送りされました。旅行会社の責任明確化が課題として残っています。

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<今、利用者にできること>
【そうした対策、時間がかかるということでしたが、今、利用者ができることはあるのでしょうか?】
できることはあります。さきほどの安全情報の公表はまだ義務化されていないが、高速路線バスやツアーバスのサイトでは、先行してバス会社名を表示しているところが増えています。まず、利用したい便やツアーをどこのバス会社が運行するのか確認します。

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【バス会社名がわかったら、どう判断するのですか?】
▼ふたつ方法があって、ひとつは「セーフティバス」という制度を参考にすることです。この制度はバス会社で作る「日本バス協会」(にほん)が設けています。書類審査と訪問調査で、運転手の健康管理や適正検査、バスの整備状況など安全対策を細かくチェックし、十分な取り組みをしていると認めた貸切バス会社を認定します。全国4400社のなかで768社が認定されていて、バス協会のホームページで資格を持つ会社名が公表されているほか、バスの車体にステッカーが貼られています。

【セーフティバスをぜひ利用したいが、認定された会社がまだ少ないので利用したいツアーや路線でそういうバスがない場合も多いのでは?】
その通りだと思います。ただ、軽井沢の事故のあと、貸切バス会社の側でも認定を申請する会社が急増しています。
また市町村や教育委員会などが修学旅行や幼稚園の送迎、公的な行事などで貸切バスを利用する際に、セーフティバスであることを条件にするところが増え始め、30ほどになっている。セーフティーバスを増やして、利用者が安心して利用できる環境を整えることが必要だと思います。

▼もうひとつの方法は、ネガティブ情報を利用することです。国土交通省は監査の結果を公表していています。国土交通省のホームページで検索すると、そのバス会社が過去3年間の監査で、行政処分を受けたのか、どのような理由でどのくらい重い処分を受けたのか、調べることができます。

【この例はひどいですね。】
これは実際に掲載されている一例です。バス業界の関係者は、処分を受けているところ、特に重い処分を受けているところは避けたほうがいいとアドバイスしています。利用者の目が厳しくなることで、業界側の自浄作用を促すという効果もあります。

国が打ち出した対策、93項目にも及んでいてむずかしいものもあるのですが、関越道や軽井沢のような事故をこれ以上繰り返さないよう、着実な実施を急いでもらいたいと思います。

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