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「変わる肝炎対策」(くらし☆解説)

土屋 敏之  解説委員

◇かつてC型肝炎の治療を受けた小室哲哉さんが作詞作曲した新曲「笑顔の明日」が、ウイルス性肝炎の啓発イベントで披露された。7月28日は「肝炎デー」。

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「肝炎デー」はWHOが、ウイルス性肝炎のまん延防止や感染予防のために定めたもので、日本でも2012年から「日本肝炎デー」として啓発活動が行われています。世界では5億人以上、日本でも2、3百万人もの人がB型肝炎やC型肝炎のウイルスに感染していて、放置すると一部の人は肝硬変や肝臓がんへと進むおそれがあります。日本では今も年間3万人が肝臓がんで亡くなっていますが、肝臓がんの原因の8割はC型肝炎とB型肝炎です。お酒や脂肪肝などで肝炎になる人も多いですが、それ以上にウイルス性肝炎から命を落としている人が多い、ということを知ってほしいと思います。

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こちらは厚生労働省の「知って、肝炎プロジェクト」という啓発活動ですが、杉良太郎さん・伍代夏子さん夫妻をはじめ、EXILE、AKB48など多くの芸能人も参加して「肝炎について知って、検査を受けて欲しい」と呼びかけています。

◇深刻な病気は他にもある中で、なぜ肝炎の啓発にこれほど力を入れている?

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まず、肝炎は「自覚症状が無い」ことが多いので、知ってもらわないと気づかないうちに肝硬変や肝臓がんに進みかねない、ということ。また、特にC型肝炎では最近、新薬が登場して、ほとんど治せる病気になってきたのに、それが知られていない、ということもあります。

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C型肝炎では、これまで主にインターフェロンという注射薬を使った治療が行われていましたが、ウイルスのタイプによっては効果が見られなかったり、副作用も強いので、治療を続られないという人も多かったのです。
ところが、2014年から新たな「抗ウイルス薬」ののみ薬が何種類も登場して、これまで治療できなかった人も治せるようになってきました。今ではC型肝炎の人の95%以上がウイルスを排除できると言われます。ただ、患者の中には昔、「治療できない」と言われてあきらめてしまって、その後は医療機関にかかっていないためこうした情報を知らないなど、治療を受けていない人が大勢います。そういう意味でも、啓発に力を入れる必要があるのです。

◇課題は?

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まず、新しい薬は使い方に注意も必要です。例えば、患者が他の病気も持っている場合など重い副作用が出るケースもあり、先日、新薬の副作用で患者さんが亡くなったという報道もありました。
また、適切に使わないと、「耐性ウイルス」といって、突然変異で薬が効きにくいウイルスができてしまう場合もあります。これらは、医療者側が注意すべき点ですが、まだ医師の間でも新薬の情報が十分に行き渡っていない面もあるとされています。さらに、新薬は値段がとても高い、という問題もあります。治療を終えるまでに数百万円も薬代がかかります。それでもがんになる前に治療出来るメリットがありますし、医療費の助成など本人負担は数万円で済むような仕組みも出来てきましたが、国民医療費の増大という面からも、闇雲に使うのでなく、このタイプならこの薬が効果的、といったものを専門医が適切に使っていく必要があります。
 そして、C型ではこうした新薬が出てきたのですが、B型肝炎はまだそこまでの薬が出ていないので、新薬の研究開発を急ぐ必要があります。さらに、現在も肝硬変や肝臓がんまで進んだ患者さんでは治療法は限られているので、その前の肝炎の段階でウイルス検査をして見つけることが重要です。

◇「肝炎ウイルスの検査」とは?健康診断を受けていればいい?

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 肝炎ウイルス検査は、よく健康診断などに入っている「肝機能の検査」とは別のものです。職場や自治体の健康診断には肝炎ウイルスの検査は入っていないのが普通なので、自分で受ける必要があります。肝炎ウイルス検査は、各地の保健所で大抵無料で受けられますが、その他にもこちらの厚生労働省の肝炎啓発のHPで施設を調べられます。
 検査と言っても大変なことをするわけではなく採血するだけで簡単に済み、結果は後日知らされます。ぜひ一度受けて欲しいと思います。そして、そもそも健康診断に肝炎ウイルス検査が入ればみんなが受けられますから、自治体や企業の健康保険組合には、ぜひ一度でもいいので健診に加えて欲しいと思います。

◇一度検査で大丈夫だったら、一生心配ない?

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 肝炎ウイルス、特にC型の感染経路として、かつて多かったのが輸血や血液製剤、そして注射器が使い捨てになっていなかった時代の集団接種だとされますが、今はこうした感染はほぼ無くなってきたので、一度検査して大丈夫だったらあまり心配はいりません。B型ではかつては母子感染が多かったのですが、近年は減って、性感染の方が多くなっています。
 ただ最近は、B型・C型共にピアスの穴開けやタトゥーなどが原因になる場合があると懸念されています。要するに、血が出る行為で、きちんとした医療施設などでなく針などを使い回していると感染のリスクがあるわけで、注意が必要です。

◇普通の生活では感染する恐れは比較的低い。
   
 他人とカミソリを共用しない等、基本的な注意を守っていれば、日常生活ではまず感染しませんが、その点が十分理解されておらず、患者への差別や偏見も起きてきました。WHOが世界肝炎デーを定めた目的の一つにも、「差別・偏見の解消」があります。例えば、結婚に関しての偏見、というのもあるかもしれませんが、B型肝炎はワクチンによって感染を防ぐことが出来ますから、正しく理解してほしいと思います。そして、お風呂や食器などを共有しても感染する心配はまずないので、周囲の人も知識を持つことが大切です。

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