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「野菜はもっと安くなる?オランダ農業に学べ」(くらし☆解説)

合瀬 宏毅  解説委員

今日のくらし解説「野菜はもっと安くなる?オランダ農業に学べ」という話題です。担当は合瀬宏毅(おおせひろき)解説委員です。

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Q.なぜいまオランダ農業なのですか?
オランダと言えば風車が有名なだけに風が強く、しかも気温も低い。面積も狭いと農業には向いていない国ですが、農産物輸出額はアメリカに次いで世界第二位。トマトなどの生産性は世界最高レベルの生産性を誇る、他にはない農業を行っている。
このため農業の競争力強化を目指す政府や農業界、それに企業が、こぞってオランダに注目している。

Q.具体的にはどういう農業なのですか?
先日、先進的な農家を視察するツアーに参加しました。私が訪れた農家では、一棟20ヘクタールという巨大なハウスでパプリカを作っていた。
20ヘクタールのハウスというと、横が170メートル。縦の長さは1.2キロ。サッカー場が28面とれる広さになる。ハウスの中は外気の影響を受けないように、屋根の高さを7メートルと高くし、茎を上に長く伸ばして一つの苗から沢山のパプリカをとるように工夫してあります。
経営するのは家族が中心となった農業法人で、従業員200名。人件費が高いので収穫したパプリカを運ぶのは自動で動く機械が行うなど機械化が進んでいます。

Q.ほんとに工場の様な風景ですね。
そうですよね。苗が植えられているのも土ではありません。岩を原料にしたロックウールで、そこに水や養分などが自動で運ばれてきます。
ハウス内には様々なセンサーが取り付けられ、温度や湿度、光の具合、それに植物の光合成に必要な二酸化炭素の量を検知し、コンピュータが植物が最も効率よく光合成が出来るような環境を、自動的に作り出してしています。オランダの施設園芸は、農産物が生産能力を最大限発揮するよう、環境を徹底的に制御するところにその特徴があります。
こうした方法で収穫されるパプリカは、1000平方メートル当たり年間30トン。日本の6倍に上り、しかも品質も収穫量も極めて安定している。

Q.日本の6倍というのはすごいですね
パプリカだけではありません。FAO国際食料農業機関によると、オランダの1000平方メートルあたりの、平均的な収穫量はトマトで48トンと日本の8倍。キュウリは11倍。ナスは14倍ほどと、驚異的な収穫量を誇る。
もちろん日本とは品種も作り方も違うので、単純に比較できませんが、少なくともこの技術を使えば、日本でもかなり生産量を増やすことが出来ます。価格も現在の半分ほどまで安く出来ると専門家は言います。

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Q.ただ、その分高い設備投資が必要ですよね?
そうですね。こうしたオランダ式のハウスを日本で3ヘクタール規模で作るとなると、建設費は設備も込みで10.5億円。
農業資材や、燃料費や二酸化炭素の購入費など、毎年かかるコストが人件費を除き9000万円近くかかる。
それでも、オランダの技術を使えば採算は合うとされ、すでに様々な企業がこの技術を使ったハウスを、日本国内でも作っている。また農林水産省でも、全国で補助事業として始めている。

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Q.企業はともかく、国までがオランダの技術に注目しているのはなぜですか?
日本国内の生産力が落ちていることがある。日本の農業就業人口激減して、平均年齢は66才と高齢化。中でも今後の日本農業を担う50才未満が25万人と、5年前から7万人減少している。
世界の食料需給が逼迫する中で、将来的に私たちの食料は確保できるのか不安になる状況です。
であれば、生産性を上げて収穫量を維持するしかない。そこで高い生産性が特徴のオランダ農業に注目が集まっているというわけです。

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Q.それにしても味はどうなのか?
味の研究も進んでいる。こちらはオランダに本社がある世界5位の種苗メーカーです。オランダをはじめ、世界各地に販売するトマト苗の開発が行われています。
日本ではトマトを一個一個収穫する方法が一般的ですが、ヨーロッパでは収穫作業のし易さから、房で収穫するトマトが広く普及しています。味や大きさなど、ハウス栽培に最も適した、およそ300種が現在開発中で、健康に良いとされるリコピンを多く含む日本向けの品種も開発されていました。

Q.ほんとに沢山のトマトがありますね。
こちらで販売している品種を試食させてもらいました。ツアーに参加したのは何れも、日本でオランダ型のハウスの導入を検討する農業法人や、周辺機器の開発を目指す企業で、真剣に品種の食べ比べをしていました。
<シングル>
・日本でも作れるのではないか(コンピュータ会社)
・参考にはならないけど、目指したいところではある(農家)

Q.皆さん興味深そうに試食していましたね
感心したのは、こうした作物が化学農薬は使わずに作られていることです。ハウス内では湿度を低く抑えているため病気は出にくく、害虫に対しては、そうした虫を食べる天敵昆虫を放して害虫からの被害を無くしている。
農産物は土から育った物でないと、美味しくないだろうと思っていましたが、日本で作るトマトとの差は分かりませんでした。

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Q.オランダがこうした農業を作り出した秘密はどこにあるのか?
もちろん、オランダがはじめから生産性が高かったわけではない。これは日本とオランダのトマトの生産性の推移ですが、日本の生産性が低迷している中で、1980年代から急激に生産性を伸ばしている。それを支えた要因が3つあるとされている。

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Q.どういう要因でしょうか?
一つは技術開発の集中。オランダでは農産物全ての生産性が高いわけではない。トマトなど施設園芸に特化した技術開発が効を奏している。また大学や試験場、それに民間企業が集まり、研究開発拠点として機能していること。
そして、そうした技術がすぐに農家に流れる仕組みになっている。こうした大学や研究機関、民間の取り組みが高い生産性を下支えしている。

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Q.今後こうした技術が日本にも広がっていくのでしょうか?
先ほども紹介したように、オランダ農業は一部の農産物に特化した強さです。ただその考え方は、植物の生理を科学的に解明し、その特性を生かしてIT技術などで収穫量を高めるところにある。それは施設園芸だけでなく、露地野菜やコメなどにも応用できると専門家は言います。
日本の農業はこれまでどちらかというと経験や勘に頼っていました。今後は科学をベースとした農業へ。オランダの農業はそのことを教えていると思いました。

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