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「遺産相続が変わる?」(くらし☆解説)

清永 聡  解説委員

いま、法制審議会で相続に関する仕組みの見直しが検討されています。このほどその「中間試案」が発表されました。
多くの人が関わる遺産相続がどう変わろうとしているのか。「中間試案」で示されている内容を例を使って詳しく紹介し、その課題も考えます。

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<なぜ相続を見直すのか>
今回検討されているのは、家族や親族などの間で、遺産をどう分け合うかという仕組みを一部変えようというものです。
その背景には、高齢化に伴って相続でさまざまな課題がでているということがあります。また、遺産相続をめぐる裁判所での調停の数も増えています。
1985年はおよそ5100件、しかし2014年はおよそ13000件になりました。30年でおよそ2、5倍になっています。
今回の取り組みは、こうしたトラブルを減らそうという狙いがあります。

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<ケース1「長く連れ添えば相続多く」>
まずは今の遺産相続がどうなっているかを例で見てみます。
夫婦と2人の子供の場合、もし遺言を残さないまま、夫が1200万円の遺産を残して亡くなれば、法定相続分つまり法律で定められた、相続分として受け取れる財産の割合は妻と子供で2分の1ずつになります。このケースでは妻が600万円。2人の子供に600万円なので、1人あたりだと300万円ずつという計算です。

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ところが、いまこれをあるケースでは見直そうとしています。対象は「長年連れ添ってきた夫婦」です。
案の1つでは、長年連れ添ってきた妻は、法定相続分を「2分の1」から「3分の2」に増やそうというものです。この場合は、1200万円の遺産の取り分が、妻は現在の600万円から800万円になります。子供は3分の1を2人で分け合いますから、200万円になります。

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「長く連れ添う」というのがどのくらいかは議論がありますが、法制審議会ではこれまでのところ20年とか30年といった意見が出ています。長く相手を支えて財産を殖やすことにも貢献があったという考えです。

<ケース2「介護した人にも金銭を」>
つぎに、こんなケースを見てみましょう。
ある高齢の男性。奥さんはすでに亡くなって一人暮らしです。子供は男女2人ですが、長男も病死していて、健在なのは長女一人です。
ところが男性は介護が必要になりました。そのときに、長女ではなく、病死した長男の妻が、長年男性を介護しました。その期間10年間。毎日毎日、義父の家に行って、欠かさず世話をしてきました。男性からも「あなたがいてくれてよかった」と感謝の言葉を何度もかけられます。

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ところが、男性が亡くなります。そうすると、介護をしてきた長男の妻は、法律上は相続人になりません。遺言などに書かれていないと、彼女は遺産を受け取れないということになります。この場合は、法定相続人は長女だけで、遺産の配分は全額長女となります。

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そこで、検討されているのが相続人以外でも、長い間介護や看病で特に献身的な貢献をした人には、相続人に対して金銭を請求できる仕組みを作ろうというものです。

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ただし、課題もあります。亡くなった後、近所の人や友人など「私も介護をしていた」「私も世話をしていた」と主張する人が次々と現れて金銭を要求するケースがあるかもしれません。つまり、新たなトラブルになることも懸念されます。

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中間試案では、「対象を一定の親族に限るべき」という案と「親族に限らない方がいい」という両方の案が今示されています。

<ケース3「居住権」新設>
配偶者の住まいを確保しようという案も出ています。
こういう例で考えてみます。夫と2人で自宅で暮らしていた妻。夫が亡くなります。話し合いの結果、残された財産のうち、妻は預貯金を受け取り、自宅の所有権は離れて暮らす息子が持つことになりました。

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しかし息子がこの不動産をすぐに売却してしまいます。そうすると残された妻は、購入した業者から「出て行ってほしい」と立ち退きを迫られてしまいます。

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自宅を売却するのは、例えば借金があるケースや、相続税の支払いのためなど、様々な事情があります。しかし、夫婦で長年暮らしていた家に1人になっても住み続けたい、と考える気持ちもわかります。
そこで、中間試案では亡くなった人の配偶者については、「居住権」という権利を明確に設けようとしています。この居住権、今は2種類のものが検討されています。
1つは「短期居住権」と呼ばれるものです。遺言がない場合は、ひとまず、遺産相続の話し合いが終わるまでの間、配偶者は家を追い出されることはない。住み続けることができるというものです。
もう1つは「長期居住権」です。短期居住権で住んだ後もさらに「十年」とか「生きている間」など、こちらは比較的長い期間住む権利です。
こちらは相続する財産の1つにして、話し合いの際に、配偶者がこの居住権を持つかどうかを選べるようにするというものです。

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ただし、先ほどのケースで見ると、所有権を持つ息子にとっては、不動産を売却ができないケースも出てしまう。だからこの権利を作るときには、居住権の財産的な価値を考えておくことが必要になってきます。

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また、もし家族の間でトラブルになったときには裁判所の審判で本当に長期居住権が必要かどうかを判断してもらうこともできるようにしています。

<遺産相続の難しさ>
遺産相続は、たとえ制度を変えても遺産が増えるわけではありません。いわば一つのパイをどう切り分けるか、という問題で「増える」と言うことは「減る」人もいるということです。
例えば長年連れ添った配偶者の相続分の割合を3分の2にするという案は、妻の取り分が増える一方で、2人の子供たちの取り分は大きく減ってしまいます。高齢者には手厚くなったとしても、現役の子育て世代には不満を感じるケースがあるかもしれません。
見ている人にとって受け止めがまったく異なり、難しい問題も含んでいます。

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今回は「中間試案」ですから、これまでの審議結果をとりまとめたもので、これで確定したということではありません。
法務省は現在一般からこの中間試案に対する意見、パブリックコメントを募集しています。メールやファックス、郵便で受け付けています。

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(郵送の場合)
〒100-8977
東京都千代田区霞が関1-1-1 法務省民事局参事官室
(メールの場合)
minji201@moj.go.jp
(FAXの場合)
03-3592-7039
詳しい投稿の方法は、政府の情報ポータルサイト「e-Gov」で見ることができます。中間試案の詳しい内容もここに掲載されています。
<http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=300080149&Mode=0>

また、法務省のHPにも法制審議会の民法(相続関係)部会の議論や中間試案の内容が掲載されています。
パブリックコメントの募集は9月30日までとなっています。法制審議会は、集まった意見を受けて、この秋から議論を再開し、来年中に民法改正案の要綱をまとめたいとしています。

戦後、家族の姿は、時代によって大きく変わってきました。遺産の相続も生活実態や時代に合わせた見直しは求められます。しかし一方で、高齢者への支援とともに、次の世代にもできるだけ不公平感の少ない制度が求められると思います。

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