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「円高 暮らしへの影響は?」(くらし☆解説)

今井 純子  解説委員

円高が進んでいます。暮らしにはどのような影響があるのでしょうか。今井純子解説委員。

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【円高が進んでいますね】
もともと、年明けからじわじわ円高が進んでいたのですが、先月、イギリスが国民投票で、EUからの離脱を選んだことを受けて、イギリスやヨーロッパの経済が混乱するのではないか・・という予想から、対ポンド、対ユーロで一気に円高になりました。それだけでなく、世界経済の混乱でアメリカの利上げが遠のいたという予想から、対ドル、そして、新興国でも混乱が続くという見通しから、対元でも、一段と、円高が進んだ形です。

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【円高は続くのですか?】
為替は、地球の裏側の思いもかけない出来事で、動くことがありますので、予測は難しいのですが、ヨーロッパの経済の混乱・低迷は続くので、しばらくこうした円高の傾向は続くだろうというのが、多くの経済の専門家の見方ではあります。

【円高で、日本経済への影響が心配されています】
ただ、円高には、マイナスの面と、プラスの面があります。
デメリットからみると、まずは、海外で事業を展開している企業の業績が下がるという点です。

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具体的に見てみると、例えば、1万ドルの自動車をアメリカで売った場合、一ドル=120円の時には、日本円に換算すると120万円得られます。ですが、1ドル=100円になると、100万円しか得られません。円高になることで、売り上げや利益が減ることになります。こうした企業の社員は、3年連続で春闘の賃金引き上げ=ベースアップが実現してきたのが、来年は、ストップしてしまう。あるいはボーナスが下がるのではないか、という心配もでてきます。

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【ほかにデメリットはありますか?】
日本を訪れる観光客の動向に影響がでることも心配です。というのも、外国からの観光客にとっては、円高になると、その分、日本で使うおカネがかさむことになるからです。

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今のところ、外国人観光客の人数は、まだ増えています。ですが、増加の勢いは、鈍っていますし、いわゆる爆買いも減っています。デパートの外国人観光客の動向を見てみますと、お客さんの数は一年前より13%増えていますが、一人当たりが買う金額は、26%減っています。2度目、3度目の日本訪問という観光客が増えていることも重なって、炊飯器や高級ブランド品を大量に買うのではなく、化粧の仕方を教えてもらいながら自分にあった化粧品を買うとか、自分にあった枕を試したうえで買うとか、日用品を買う観光客が増えているといいます。円高が続くと、このように買うものを厳選する傾向が強まる可能性があります。

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【一方、円高のメリットは?】
まず、輸入品は値下げが期待できます。

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こちらも、具体的に見てみますと、例えば、一ドルのモノを輸入すると、一ドル=120円の時は120円しますが、一ドル=100円になると、100円で同じものが買える計算ですよね。実際に、

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▼    すぐに為替の影響が反映するガソリンの価格。原油がこのところ値上がりしていたことから、今年3月から値上がりが続いていましたが、円高の影響で、今週、17週ぶりに値下がりしました。
▼    また、さきほどの話にもでていたように、輸入品のネット販売。それから、輸入食品を専門に扱うお店などの中からも、円高還元セールを行うところが出始めています。
▼    一方、スーパーなどに聞いてみたところ、まだ、円高が反映される前に契約を済ませたものが多いけれど、今の円高が続けば、クリスマスのころに、ワインや肉、チーズの特売ができるかもしれないと話すところもありました。
今は、日本は、エネルギーや食料品だけでなく、衣類や家具、それに家電製品に至るまで、多くを輸入品に頼っています。今の円高が続くと、じわじわ値下げの恩恵がでてくることが期待できます。

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そして、円高のメリット。もう一つは、日本からみると、海外旅行がお得になるということです。

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【もうすぐ夏休みですが、この夏の旅行も安くなるのですか?】
この夏のパック旅行は、円高になる前に値段が決まってしまっているということで、多くのパック商品はまだ安くなってはいません。ですが、現地での買い物や食事、現地で支払いをするオプショナルツアーの料金は、円高でお安くなります。こうしたことから、実際、JTBの推計では、全体的に節約志向が続いている中、海外旅行に行く人の数は、去年より、7点4%増える見込みだということです。
そして、今の円高が続くと、来年以降には、ツアー料金の本格的な値下げも期待できると旅行会社では話しています。

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【ここ数年、円安で、身の回りの製品やサービスで、値上げが相次ぎました。それだけに、今度は、円高になった分、しっかり値下げをしてほしいですね】
その通りですよね。ただ、消費の現場で話を聞くと、少し不安な点もあります。というのは、少子高齢化の影響で、人手不足が深刻になっているという点です。さきほど大企業の正社員では、円高で賃金引き上げがストップしたりボーナスが減ったりする心配があると言いましたが、一方、流通や飲食店で働くアルバイトやパートの社員、それから、中小企業では正社員についても、募集をしても、賃金を上げないと、なかなか人材が集まらない状態だと言います。ですから、そうした企業にとってみると、円高で仕入れの値段が下がって、少し余裕ができても、賃金に回さなければいけない。今、消費が低迷しているので、値段を下げて、お客さんを呼び寄せたいのだけれど、セールを増やしたり、一部の商品を値下げしたりすることはできても、全面的・本格的な値下げには、なかなか踏み切れない。という苦しい声が聞こえてきます。賃金を上げること。これも働く立場にとっては、大事。上げてほしいですが、ぜひ、値下げにも回してほしいとも思います。

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【結局は、日本全体として、メリットとデメリット、どちらが大きいのでしょうか】
ざくっと言ってしまうと、全体では、企業を中心に、若干、デメリットが大きい。でも、消費者とすると、メリットも大きいということだと思います。ただ、円高でデメリットを受けるという企業の中でも、円安が進んでいた時に利益を内部に積み上げていた企業も多くあります。そういうところは、ぜひ、多少業績が悪化しても、賃金の引上げを続けて、円高のデメリットで日本経済全体が冷え込むことがないよう、取り組んでほしいと思います。

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