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くらし☆解説

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「その象牙 合法?違法?」(くらし☆解説)

片岡 利文  解説委員

 いま世界で問題視されている象牙の密猟・密輸。日本も無関係ではないかも!?
 日本に違法な象牙が流入し、取引されているのではないかと指摘する国際NGOの調査をひもときながら、日本がとるべき対応策について考えます。

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 象牙のもととなるアフリカゾウが絶滅の危機に瀕しているということで、1989年(平成元年)に、絶滅の恐れのある野生の動植物を保護するためのワシントン条約で、象牙の国際取引の禁止が決まりました。

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 しかし、国によって違いはあるものの、アフリカゾウの数は全体としてはいまも減っています。例えば、アフリカゾウが比較的多いタンザニアでも、タンザニア政府発表のデータによれば、2009年に11万頭ほどいたアフリカゾウが、2014年には、4万3000頭。つまり5年の間に60%もゾウがいなくなってしまったといいます。

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 国や地域によっては住民や農作物に害をなすとして駆除されているようなケースもあるのですが、最大の原因は象牙を目的とした密猟です。現地では1キログラムあたり日本円にして1万円から2万円ほどで取引されているようですが、現地の人々にとって現金収入になると同時に、テロリストの資金源にもなっているということです。今年(2015年)の夏には、象牙の違法取引の中継地となっているタイで、重さ2トン、日本円にして3億円相当の象牙が押収され、処分されました。このようにタイや香港、そして今や世界最大の象牙消費国となった中国などを経て、違法な象牙が世界に広がっているとみられています。

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 こうした中、ある調査報告書が日本語と英語で発表されました。題して「日本で展開される象牙の違法取引と不正登録」。調査を行ったのはアメリカとイギリスに拠点を持つEIA(Environmental investigation agency)という環境NGOです。1989年の象牙国際取引禁止の決定にも、このEIAの調査が大きく影響を与え、その後も世界各地で象牙の密輸を調査し続けてきました。
 今回EIAが調査したのは、日本の象牙の登録制度です。ワシントン条約で国際取引が禁止された後に設けられました。禁止前からもともと国内にある合法な象牙の中に、海外から入ってきた違法な象牙が紛れ込まないようにするために、日本では丸ごと一本の象牙については登録機関に登録しなければ、売り買いできないよう法律で定められています。

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 登録に必要なのは、申請書と象牙の写真、入手した経緯を説明する文書、そしてそのことを証明する公的機関が発行した書類です。これだけの書類をそろえなければならないのなら、違法な象牙が紛れ込むすきもないのでは、と思うところですが、この環境NGOは、登録に関するあるデータに注目したのです。環境省がまとめた、日本国内で登録された象牙の数を年ごとに追ったデータです。

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 1999年と2009年の登録数が飛び抜けて多いのは、この年に特別な許可を得て、いわゆる合法的な象牙がアフリカから公式に輸入されたからですが、原則として、新たに象牙は輸入されないはずなのに、2011年から急に登録の数が増えています。この環境NGOは、そこに注目しました。新しい象牙は入ってこないはずなのに、なぜこんなに登録件数が増えているのか。これはもしかしたら、密輸された違法な象牙が、“禁止される前からあった象牙だ”と偽って登録されているのではないか、と考えたわけです。そこで、この環境NGO、国内の37の象牙取引業者などに対して、電話によるこのような調査を行いました。

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 「死んだ父が残した一本丸ごとの象牙、15年前に手に入れたものらしいのですが、買ってもらえますか?」
 つまり、象牙を売るふりをして、取引業者がどう対応するか見ようとしたわけです。15年前に手に入れたというのがカギで、国際取引が禁止された後です。違法な象牙である可能性があるため、素性がハッキリしないかぎり、取引業者は買うことはできないはずなのですが、環境NGOによれば、調査した37の業者の内、登録なしで、あるいは虚偽の登録をすることで買い取りますよと答えた業者があわせて30、つまり8割に及んだといいます。

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 これはあくまで環境NGOの調査ですし、この調査だけで、密輸された違法な象牙が国内で流通していることの明らかな証拠になるとは思いません。そこでまず、象牙の登録制度を所管する環境省に、2011年以降登録数が増えている理由についてたずねてみました。すると、理由はハッキリとはわからないとした上で、登録の普及活動の効果が上がったのではないか、高齢者の登録が増えたのではないか、という返答でした。

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 あくまで国内に元々あった象牙が登録されたものであるはずだということなのですが、では本当に海外からの違法な象牙が登録される可能性はないのか、調べてみたところ、象牙登録制度に大きく2つの課題があることがわかりました。
 ひとつは「あやふやな証拠でもOK」。

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 登録に必要なものの中で一番重要と思えるのは、公的機関が発行した書類です。

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 ところが、実際には公的機関の証明書などないケースが多く、その場合、象牙を登録したい人の親族、あるいは知人が「30年前に遊びに行ったとき、床の間に飾ってましたよ」などと一筆書くことで、公的機関の証明書の代わりになっているという現状があるのです。証明書がなくて困っている人への救済策なのでしょうが、環境省から入手したデータを見ると、去年(2014年)12月ひと月に登録された95件の内、94件が親族や親族以外の知人が作成した書類で登録されているのです。

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 つまり、密輸された違法な象牙が登録される可能性を否定できないということです。

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 もうひとつの課題は「現物に名札なし」。ワシントン条約では、一本丸ごとの象牙や一定以上の大きさにカットした象牙には、素性を示す、いわば名札のような消せないマークを記すことが勧告されているのですが、日本の法律では必要ありません。しかもカットした象牙については、登録すら必要ないので、たとえ違法な象牙でもカットしてしまえば、わからなくなってしまうということです。    

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 こういう現状について、登録制度を所管する環境省・野生生物課の担当者は、「日本では象牙の密輸が横行しているわけではないと認識しているし、税関が機能しているので水際で止められているはずだ。しかし、今回の環境NGOの調査結果に対しては、もし事実であるなら遺憾であり、登録制度の運用の徹底に努めながら事実関係を確認したい」とのことでした。
 世界中に違法な象牙が広がる中、それが紛れ込まないようにするためには、どうすればよいのでしょうか。例えば、タイでは、丸ごと一本の象牙だけでなく、象牙を使ったあらゆる商品の所有者に登録を義務づけ、所有できる数を制限しようとしています。ちょっと大変かもしれませんが、国内にある丸ごと一本の象牙やカットした象牙についても、期限を決めて届け出てもらい、売る売らないにかかわらずマーキングをしていくことで、国内にある象牙をすべて把握していくことも必要かもしれません。
 象牙取引に関する国際社会の目が厳しさを増す中、日本もそれなりの覚悟を決めて取り組むべきときだと思います。

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