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「世界自然遺産 カギは猫!?」(くらし☆解説)

土屋 敏之  解説委員

◇世界自然遺産を目ざしている「奄美・琉球」地域で、カギを握る生き物が「猫」だという。
    
 猫が希少動物というわけではなく、逆に希少動物を食べてしまう外来種として、対策が求められているのが、野生化した猫です。かわいい猫を悪者扱いするのかと感じる方や、色々な考え方がある問題ですが、6月は環境月間ですので、生物多様性の問題を身近な所から考えてみましょう。

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◇世界自然遺産を目ざしている「奄美・琉球」とは、具体的にどの地域か?

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 沖縄県の西表島と沖縄島北部のいわゆる「やんばる」、そして鹿児島県の奄美大島と徳之島で、4島をまとめて「奄美・琉球」として登録を目指しています。
 これらの地域には、イリオモテヤマネコやヤンバルクイナ、そしてアマミノクロウサギなど、絶滅の恐れがある生き物が200種類以上も生息しています。これらの島々は、数百万年前に大陸から分かれて、またつながったり離れたりを繰り返してきたことで、独自の生物進化が進んできたのです。
 2003年には、知床や小笠原諸島と共に世界自然遺産を目指す国内の候補地になりましたが、2005年に知床、2011年には小笠原が世界遺産になったのに対して、この地域は遅れてきました。

◇世界自然遺産登録のための「奄美・琉球」の課題は?

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 世界自然遺産には、絶滅危惧種の生息地などを守る仕組みが求められます。例えば国立公園化するなど、保護区域を設定する必要がありますが、現在も鹿児島県側では調整が続いている状況です。そして、希少種を守る、そのために外来種の対策をすることも必要です。特に今、奄美・徳之島での猫対策が大きな課題になっています。

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 こちらは、猫がアマミノクロウサギを捕食している様子を捉えた写真です。こうして森で野生化した猫が何を食べているのか?専門家がフンを分析したところ、アマミノクロウサギを含む希少ほ乳類が、65%も占めていました。
 アマミノクロウサギは人が近づいてものんびり葉っぱを食べているほど、警戒心が薄いのですが、これは元々奄美には犬や猫などの肉食獣がおらず、あまり外敵を恐れる必要なく進化してきたためとも言われます。そこに優れたハンターの能力を持つ猫が入ってくると、簡単に捕らえられてしまうことが懸念されています。

◇最近各地で猫が増えた島が話題になったりもしているが、ほほえましい事ばかりではない。

 猫は繁殖力も高く、1匹のメスが年間数十匹もの子猫を産むことができますから、避妊・去勢手術をせず放し飼いにしたり捨ててしまう人がいると、短期間に急増します。
 そして、徳之島は、奄美大島より狭くてクロウサギの生息する森も限られているので、この状況を放置すると、あとわずか数年で絶滅してしまう恐れがあるとする専門家の試算もあり、何とかしなくては、という機運が高まりました。

◇徳之島の猫対策

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 猫を3種類に分けて対策を進めています。
①ノネコ、山林に住み着いて野生化した猫をこう呼んでいて、150匹~200匹いると推計されます。
②いわゆる野良猫。こちらは主に集落にいて人間社会に依存して生きている、飼い主のいない猫ですが、2~3000匹もいるとも言われています。
③飼い猫。500匹あまりが登録されています。

 中でもノネコは今、アマミノクロウサギなどを捕食しているので、一刻も早い対処が必要です。そこで、全て捕獲することを目ざして、去年から本格的に取り組んでいます。かご罠を使い捕獲し、捕らえたものは殺処分するのでは無く、避妊・去勢手術をして島内の施設に収容します。健康で人に馴れたものは、新たに飼ってくれる人を探して譲渡しています。
 野良猫はその一部や産んだ子ネコが、やがては森に入ってノネコになる、言わばノネコ予備群ですから、こちらも全て捕獲する方針です。ただ、数が一桁多いので、収容したり引き取り手を見つけるのは困難です。そこで、避妊手術をした後、もとの集落に再び放しています。
 そして、飼い猫です。手術していない猫を放し飼いしたり、捨てたりする人がいれば、いずれ野良猫やノネコが増えます。そこで、徳之島では条例を作って、飼い猫は捨ててはいけないことを明確にすると共に、避妊手術を無料で受けられるように補助金を出しています。
 こうした取り組みで、今月行われた調査では、アマミノクロウサギが姿を消していたエリアにも、少しずつ戻り始めていると言います。ただし、罠にかからない猫もいて、そこから繁殖するため、対策は今後も根気強く続けていく必要があります。

◇奄美大島の猫対策の課題

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 一方、奄美大島は日本でも屈指の大きな島です。猫の総数は1万匹とも言われ、ノネコだけで1千匹とも推計されます。そのため、ノネコを収容する施設を作る場所もまだ決まっていません。仮にそれだけ多くのノネコを捕まえても引き取り手は見つかるのか?見つからなければ殺処分せざるを得ないのか?様々な課題を抱えて、ノネコの捕獲をまだ始められない状況です。
 今や、希少生物や生物多様性を守ることは国際条約にも示されていて、各国の責務とも言えます。また、地域の人たちには、世界遺産になって観光面での発展や、なにより子供たちに豊かな自然を受け継いでいきたいという思いがあります。その視点からは、外来種である猫の排除を急ぐべき、と言えます。
 一方で、動物愛護の立場からは、希少動物だけでなく猫の命も大切だ、という考え方もあって、これも自然な気持ちとも言えます。

◇世界自然遺産に向けて

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 こうした猫問題は世界自然遺産を目ざす4島共に状況に違いこそあれ抱えていますが、ひとつ言えることは、これは人間の問題だということです。
 飼い猫を捨てたり避妊・去勢せず放し飼いにすることが、希少動物の被害だけでなく、不幸な猫も増やすことにつながるわけですから、ペットを飼うということは一生面倒をみる大きな責任がある、ということを自覚し、その上で、人と動物の共生のあり方をあらためて考えていく必要があると思います。

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