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「熊本城修復 過去の災害の教訓を生かせ」 (くらし☆解説)

名越 章浩  解説委員

熊本地震が発生してから、明日(5月14日)で1か月。
この地震では、熊本城をはじめ、多くの文化財にも深刻な被害が出ました。
熊本城の修復について、「過去の災害の教訓を生かせ」をテーマに、名越章浩解説委員がお伝えします。

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【熊本城の被害は?】
日本三名城の1つとされる熊本城は、戦国武将の加藤清正が築城した、およそ400年の歴史のある城です。
東京ドーム21個分の広い敷地には、天守閣のほか、城門や櫓(やぐら)などがありますが、地震により、至る所で石垣が崩れて危険な状態になっているため、今は立ち入り禁止となっています。
天守閣の屋根にあったしゃちほこも、下の屋根に落ちて、砕けています。

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熊本城には、櫓と塀、城門のあわせて13件の国の重要文化財があり、その全てに被害が出ました。
天守閣は、昭和35年に復元されたもので、この重要文化財の中には入っていません。
重要文化財の13件のうち11件は櫓です。
このうち、「北十八間櫓」や「東十八間櫓」は、その下にある石垣ごと全壊しました。
石垣の崩落は、分かっているだけでも53か所にものぼります。

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【熊本城はどうなるの?】
まだ余震が続いているので、十分な調査ができていませんが、余震が収まれば本格的に被害の状況を調べた上で、修復作業へと進むことになります。
でも、文化財だけに、そう簡単にはいきません。

文化財の修復は、元の状態に戻すことが原則だからです。
まずは、土台となる石垣を直さないといけませんが、石の数が多く、元に戻すために、気の遠くなるような作業が、これから始まることになります。
そこで、熊本市は東日本大震災での経験を生かそうと、福島県白河市にアドバイスを求めました。

【福島県白河市の経験】
白河市には、国指定の史跡「小峰城跡」がありますが、ここも、震災で石垣が10か所で石垣が崩れ、およそ7000個の石が落ちました。
その白河市からのアドバイスは「とにかく現場保存。そして崩れた様子を細かく記録に残すこと」でした。

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【なぜ現場保存?】
石や部材が、崩落現場から無くならないように保存するという目的が1つ。
もう1つは、次の災害に備えるためです。
石垣がどういう崩れ方をしたのかが、現場を保存しておくことで見えてくるので、次の災害への備えができるのです。

石垣は、表面の積み石と、その後ろに詰める裏込め石、さらにその後ろの盛り土の三層構造になっています。積み石の隙間には、小さな間詰め石を入れてバランスを取ります。
地震があったときに全体の揺れを、この三層で吸収していく構造になっています。

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しかし激しい地震でこのバランスが崩れて、石垣が崩落します。
この際、例えば、表面の石の部分が崩れただけなのか、内側の土の部分が崩れ、表面の石が一気に押し出されたのかによって、石の散らばり方が違います。
例えば、一番遠くに飛んでいる石がどこの石なのか、崩れた石が、どのように折り重なっているのかなどが分かれば、どこの部分に最も大きな衝撃が加わったのか、ある程度、推測できるというわけです。
これによって弱点を補強するポイントが見えてくると言うことです。

白河市の場合、崩れた原因が内側の土の強度の問題だった場所については、専門家と相談のうえ、土に強度を高めた「改良土」を使ったと言うことです。

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【崩れた場所以外も要注意】
東日本大震災のあと、小峰城跡では、詳しく調査をしてみたら、崩れた場所以外にも修復すべき所が6か所も出てきて、石垣を基礎から作り直したという経験があります。

実は、これは全国の城に共通した課題でもあります。
熊本城をはじめ全国にある近世の城郭は、築城から400年前後たっていて、石垣の中に水が染みこんで内側から石が押されて表面が膨らんでいたり、木の根っこが伸びて石垣を不安定にさせたりしています。
このため、各地の城は、いま、修復すべきかどうかのチェックが必要になっている時期なのです。
ちょうど、熊本城も、今年度から、本格的なチェックに取りかかる予定でしたが、その矢先に地震の被害にあってしまったのです。
ですから、崩れた場所以外にも、もろくなっている場所があることが予想され、今後、小峰城跡と同じように、全面的な調査が必要になってくると思います。

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【元通りにできる?】
日本の石積みの技術は優れていますので、技術的には可能です。
しかし、時間はかなりかかりそうです。
熊本市の担当者は、現時点では見通しすらたたない状況だと言っています。
単純に石を積み重ねるだけでなく、崩れた石1つ、1つに番号を振って、被災前の写真と照らし合わせながら積み戻すわけですから、10年以上かかるのではないかという意見もあります。
しかも、崩れたときに割れてしまった石があったら、同じ形の石を作り、できる限り、元通りに近づけなければなりません。

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さらに、石垣と一緒に崩落した櫓の場合、土石の中に、櫓の柱や瓦がぐちゃぐちゃに混じっています。今後、余震が収まると、あの中から櫓の部材を慎重に取り出すことになります。

【広がる支援の輪】
熊本城総合事務所は「すべての修復には数百億円かかる可能性がある」としています。
しかし、熊本城の被害には、熊本市民だけで無く、全国のたくさんの人たちが心を痛めていて、支援の輪が広がっています。
例えば、名古屋城や大阪城など、全国各地の城には募金箱が設置されています。
また熊本市には、全国から寄付の申し出が相次いでいるということで、市が、城の修復のために「熊本城災害復旧支援金」の口座を開設しています。

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熊本市の大西市長は、「熊本城は市民の精神的支柱だ。城の修復は、復興の証になる」と話していました。
過去の教訓を生かしながら、できる限り早く修復に取りかかれる日が来て、被災者の心の支えにつながって欲しいと思います。

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