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くらし☆解説 「人工知能 どこまで進歩?」

土屋 敏之  解説委員

◇囲碁で世界トップクラスの棋士を打ち負かすなど、今や様々な分野で進歩を見せている人工知能。いったいどこまで進んでいるのか?

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囲碁以外でも、車の自動運転を可能にするという話題はこの番組でも取り上げましたし、他にも、日本の研究グループが病気の診断を支援する人工知能を開発したという発表もありました。アメリカでは、大手通信社が企業の業績に関する記事を、既に人工知能に書かせています。
一方で、マイクロソフトがツイッターで会話ができるように公開していた人工知能が、「ヒトラーは正しかった」と言い出したり、差別的な発言を繰り返して、公開を止める事態も起きています。人工知能は「育て方」を間違えると大変だ、とも感じられますね。

◇そんな中で、人工知能が小説を書いた、なんてニュースも。そんな「創造的なこと」も可能?

短編小説の「星新一賞」で、人工知能を使って書かれた小説が、受賞は逃したものの一次選考を通過したと、3月21日、開発した研究グループが発表しました。
どんな小説が書けるのか? 応募作の1つの、冒頭部分を紹介しましょう。

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その日は雲が低く垂れ込めた、どんよりとした日だった。洋子さんはだらしない格好でカウチに座り、くだらないゲームで時間を潰している。でも、私には話しかけてこない。ヒマだ。ヒマでヒマでしょうがない。

この「私」というのは、家庭用の人工知能ですが、所有者の洋子さんがあまり使ってくれなくなったために、ヒマを持てあまして小説を作ることを覚えるというものです。
ところが、小説を書くことに夢中になって、最後は人間に仕えるのをやめてしまう、というオチになっています。

◇この小説を人工知能が創作した?

正確にはまだ、「研究者が、人工知能を使って生み出した小説」と言うべきだと思います。物語の基本的な流れは、開発した名古屋大学の佐藤理史教授が考えたもので、それに沿って、具体的な単語や短文を選んで文章化するのを人工知能が行いました。
佐藤教授は「部品と設計図は人間が作り、コンピュータが組み立てた」と表現しています。どういうことなのか、この人工知能にもう1回、小説を書かせてみたところ、今度はこんなお話が、一瞬で出来ました。

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その日はこの夏一番の暑さだった。新一さんはテレビをザッピングしている。私は朝ご飯作り。新一さんは、ひき立てのお出汁を使ったお味噌汁を毎日飲みたいと、わがままを言うので、とっても面倒。この忙しさが続けば、いつか新一さんをシャットダウンしてしまいそう。

◇別の話だが、どこか先ほどの作品と似ているようだが?

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この人工知能は、最初にその日の天気、続いて登場人物が何をしているか、人工知能の不満の内容・・・といった20~30の要素を順番に並べていくようにプログラムされているので、基本的な形は共通なんです。それぞれ選択肢が用意されていて、その中から人工知能が選んで、文章を生成します。
最初の天気などはランダムに決められますが、「風が強い日」だと設定が決まったら、その後の部屋の記述では、「窓を閉め切っている」など設定にあった内容を自動的に選んで、整合性のとれた内容になります。できた後の文章には研究者は全く修正を加えていないと言います。

◇どうしてこういう研究が始まった?

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このプロジェクトは2012年に始まりましたが、きっかけは、チェスなど具体的な答えのある問題を解くことは目処がついてきたので、次は「創造性」が必要な難問に挑戦しよう、ということだったそうです。
星新一さんが遺した膨大な短編小説を分析すると共に、人工知能に小説を創作させて、いずれは文学賞を受賞できるようなレベルを目指していますが、これは囲碁や将棋よりさらに難しくて、まだまだ時間がかかるだろうと言うことです。

◇しかし、その囲碁も人間に勝つのにあと10年はかかると言われていたのが勝ってしまった。

グーグル傘下のベンチャーが開発した「アルファ碁」が、世界トップクラスの韓国の棋士に勝ってニュースになりました。そして、この人工知能に使われた「ディープラーニング」という手法も注目されています。

◇ディープラーニング、簡単に言うとどういうもの?

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ひと言でいえば、人間が物事をマスターする仕組みに似たプログラムの強化法です。囲碁や将棋の人工知能は、まず、過去の人間の対局データを沢山使って、「どういう局面になったら勝ちやすいか?」を計算で導き出します。そのために従来は、例えば囲えそうな陣地の広さや幾つかの石の位置関係など、局面の「何に注目して計算するか?」は、人が決めていました。
ところが、ディープラーニングでは、そもそも「何に注目するのか?」自体を人工知能に膨大なデータから探らせます。言わば経験を積むことで、勝敗を左右する要素を自分で見つけさせるわけで、それを重ねることで、人が予想もしていなかった答えに辿り着くこともある、というイメージです。
ただ、この方法は、学習するのにものすごく時間がかかりますし、桁違いのデータ量を処理できるマシンパワーも必要で、囲碁のような複雑なゲームでは実現していなかったんです。

◇ディープラーニングを使ったら、面白い小説も書ける?

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そうとも言えません。ディープラーニングなどの技術は、複雑ではあっても使えるデータが沢山あり、勝ち負けのように、きちんと結果の評価ができる問題では威力を発揮すると考えられます。
しかし、「どういう小説が面白いか」というのは、数値化できる評価方法がありません。そのため、コンピュータが書いた物が面白いかどうかは、一々人間が評価するしかないので、今のところ、ディープラーニングで小説を面白くする、というのは難しいんです。
 ただ、将来、研究が進んで、「小説の面白さ」というものが数値化できたら、人工知能に執筆と評価を繰り返させて、質の高い小説が書けるようになるかもしれません。逆にそうした研究の結果、あらためて人間の創造性の素晴らしさがわかるかもしれませんし、そうなって欲しい気もします。

◇ただ、人工知能に人間の仕事が奪われないかという心配も。どこまで進歩するのか?

数値化できる問題なら、いずれ人工知能で解ける、という意味では進歩に限界は無いのかもしれません。だからこそ、人がどういう方向に育てて使っていくかが問われています。
例えば、「自動運転」が普及すると、タクシードライバーの仕事が失われる心配がありますが、一方で既に、地方で過疎化が進んで、タクシー会社も儲からないから、いないような地域もあります。
そこで自治体などが自動運転車を配備すれば、お年寄りの買い物や通院にも役立ちます。人工知能が、なし崩しに人減らしのために導入されるようになってしまう前に、社会全体で賢い使い方を考えていく必要があると思います。

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