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くらし☆解説 「IoT ブームとセキュリティー」

三輪 誠司  解説委員

IoT は「Internet of Things」の略で「モノのインターネット」と訳されます。身の回りにある様々なものをインターネットに接続することで、新しい価値を生み出そうという取り組みです。

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家電としては、テレビ番組を録画するハードディスクレコーダーや防犯カメラで、インターネットに接続して外出先から録画した映像などを見るという機能があります。また、降水確率を色付きのライトで知らせてくれる傘立てもあります。インターネットから天気予報の情報を取り込み、傘が必要かどうか教えてくれるのです。

IoT が特に期待されているのは、ものづくりの現場の安全対策です。例えば建設現場で働く人にネットにつながる腕時計型のセンサーをつけてもらいます。温度と湿度が高くなると「熱中症の危険がありますよ」と音声で警告するとともに、また会社側のコンピューターにも「これ以上働かせると危険です」と、センサーの GPS 装置で調べた場所とともに表示されます。

また工場設備の応用も期待されています。工場などにはパイプやケーブルなどが敷き詰められていますが、傷んでくると交換が必要です。そこで振動や温度を検出するセンサーを大量に取り付けます。このデータをインターネットを経由して人工知能によって分析することで、それぞれの部品がいつ劣化するか予測するという試みです。

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どうして今になって IoT ブームとも言える動きがあるかというと、IoTを強く推進しているドイツとアメリカに負けないようにしようということなんです。ドイツ・アメリカはいずれも次の産業革命と位置づけるほどの勢いです。国内では去年の秋に、産学官の利用推進団体が設立されたほか、IoTを導入する企業に補助金を出す制度がはじまっています。

しかし導入には大きな課題があるんです。それが「情報セキュリティー」です。
まず、自宅や店の中に設置した防犯カメラが勝手にのぞき見られているという問題です。こうしたカメラは、離れて暮らすお年寄りの見守りや防犯の目的で設置する人が多くなっていますがインターネットを通じてパソコンやスマートフォンで映像を確認できる機能があります。本来は部屋の中ですから、勝手に他人に映像を見られないようにパスワードを設定しますが、初期設定ではパスワードを設定しないようになっている製品が国内で多く出荷されてしまい、国内ではおよそ5000ヶ所がのぞき見される状態と言われています。

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また、世界中の多くのIoT機器に、すでにコンピューターウイルスが感染しているおそれがあることがわかってきました。

サイバー攻撃の観測をしている国の研究所によりますと、観測機器に届く攻撃はおととしから急増しています。その原因を横浜国立大学の吉岡克成准教授が分析したところ、多くの攻撃を仕掛けているのは、パソコンではなく、IoT 機器だということがわかったということです。機種としてはインターネットに接続されたハードディスクレコーダー、防犯カメラなどが多く、中には火災報知システム、駐車場の管理システム、ビルなどの入退室管理をする指紋スキャナなど360種類以上あるということです。

吉岡准教授が通信内容を分析したところ、そうした機器の中にはすでにコンピューターウイルスが入り込み、他のIoT機器に感染をひろげようとしている通信であることが確認できたということです。IoT 機器の中身は実はコンピューターで、何者かがウイルスを使って遠隔操作したり、情報を盗み取ったりしようとしていると見られます。発信元は中国、トルコ、ロシアなどで国内の感染機器は少ないと見られますが、去年7月までの4ヶ月間の観測では15万ヶ所から90万回の攻撃が確認できたということです。

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IoTのセキュリティーを高めていくためには、何よりも、メーカー側がセキュリティー対策を充分に行った IoT 機器を作ることが不可欠です。ウイルス感染してしまったIoT機器を調べたところ、パソコンの世界では 15 年前に指摘された古典的な脆弱性がまだ残っているものが多いということです。

もし、家庭の IoT 機器にウイルスが侵入すると、家庭内の情報が盗まれたり、遠隔操作によってサイバー攻撃に加担してしまうおそれもあります。さらに健康状態を調べる機器に入り込むと、最悪の場合命にかかわるトラブルを引き起こすかも知れません。工場の中にはいってしまうと、事故や火災につながる可能性があります。

もうひとつの対策は、利用する私たちもセキュリティー対策の確認をして導入することです。のぞき見見られた防犯カメラの場合、パスワードを設定していなかったり、パスワードが簡単なものだったので、入り込まれたというケースがほとんどです。

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IoT は世界中でブームになっていますが、セキュリティー対策が不十分だと、パソコンとは比べ物にならない危険性があることは間違いありません。利便性を重視するあまり、対策をおろそかにしないようにすることが不可欠です。

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