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くらし☆解説 「ピラミッド禁止で学校は安全なの?」

西川 龍一  解説委員

毎年のように骨折などの大けがが相次いでいる運動会の組み体操。大阪市教育委員会が、今月、危険性が高いピラミッドと呼ばれる種目などを禁止することを初めて打ち出しました。

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Q.組み体操の特徴は?

A.今や、運動会の花形となったとも言われるのが組み体操です。参加する子どもだけでなく、先生も見ている保護者も盛り上がります。この10年ほどで急激に運動会で取り組む小中学校が増えてきた組み体操ですが、子どもたちが身体を組み合わせて表現する形によって、いろいろな種類があります。よく知られているのが、「サボテン」「扇」「タワー」そして「ピラミッド」です。

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このうち「タワー」と「ピラミッド」について、大阪市教育委員会は今月9日、新年度から市内の小中学校では禁止することを決めたんです。去年、組み体操によるけがが問題になって、ピラミッドとタワーの高さを制限しようという動きがありましたが、大阪市では高さを制限したあとも骨折などのけがをする子どもが相次いだため、禁止に踏み切ったと言います。

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Q.そんなにけがが多いのか?

A.たとえば小学校では、体育でも行う跳び箱やバスケット、サッカーについで4番目に多くなっています。球技の場合は手足のけがが多いのですが、組み体操は頭や首、腰などが多いと言います。今の組み体操は、巨大化、高層化が特徴で、去年の運動会で、ピラミッドが完成直後に崩れて生徒6人が骨折などのけがをした大阪八尾市の中学校は、10段のピラミッドを組んでいました。

Q.10段と言うと、どれくらいの高さになる?

A.高さは7メートルと言いますから、建物で言うと3階部分の高さです。崩れてしまったらけがをするのは当たり前、常識的に考えれば、とんでもないことだと思います。

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組み体操は、学習指導要領にないので、必ずしも学校で取り組む必要はありませんが、協調性や団結力、子どもに達成感を味わわせることができるという教育的効果がうたわれてきました。ただ、学年は同じでも子どもの体格はまちまちなうえ、運動が苦手な子どももいます。毎年子どもは入れ替わりますから、十分な訓練は受けられません。10段ピラミッドは、140人近くが参加していて、一番下で土台になっている子どもの場合、3.9人分、中学生だと200キロ近い重量を背中で支えているという研究結果もあります。
けがをするのは、10段ピラミッドとは限りません。日本スポーツ振興センターによりますと、2014年度に全国の小中学校などであわせて8596件の事故が組み体操で起きていて、ここ数年ほぼ同じ件数で推移しています。中には後遺症が残るけがも含まれています。しかもこの数字は、センターが治療費の給付金を出したケースです。請求をしない場合もありますから、実際にはもっと多くのけが人がいる可能性があると思います。

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Q.国の考えは?

A.国としては、設置者である地方自治体を飛び越えて禁止するといったことは、制度上難しいという立場です。ただ、ことは子どもたちの安全に関わるだけに、無関心というわけにはいきません。馳文部科学大臣は、「文部科学省として重大な関心を持って取り組む必要がある」と述べ、運動会を1学期に行う学校が増えていることから、今年度中に組み体操についての国の考え方をまとめて、各教育委員会に対策などを求める方針です。一方、国会でも、この問題を考える超党派の議員連盟が発足しました。

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Q.これほど事故が相次いでいることを考えれば、学校が中止を判断しないのが不思議だが?

A.国に言われる話ではないだろうというところにこの問題の本質があります。子どもの安全には万全の注意を払っているのが学校のはずですし、そうでなければ保護者は安心して子どもを学校に通わせることはできなくなります。

Q.学校がそうした判断をしないのには、どんな理由が考えられる?

A.専門家が指摘するのは、徐々に難度がエスカレートする中で、教育的な効果にとらわれて、危険性への感覚が鈍化しているのではないかということです。よく言われるのは、運動にけがは付きもの、けがを心配していては、部活もできないではないかという人もいます。しかし、部活は希望者が参加するのに対して、運動会は全員が参加する学校行事です。本番ではなく練習中に頸椎を脱臼骨折した例も報告されています。そうしたことを考えれば、命に関わる危険な状態をそのままにしていると言われても仕方ないでしょう。リスクが見えなくなっている状態です。

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Q.学校も対策は取っている?

A.その対策が、本当に有効なのかということです。ピラミッドの場合は、周りに大勢の先生を配置するといった対策があります。しかし、崩れるのは中心部分が多く、食い止めようがありません。高さを半分にしても落ちてきた子どもを受け止められるのか。安全対策になっているとは思えません。また、一部の学校では、保護者の期待や、伝統となっているという卒業生の声があって止められないという声もあると言います。そうした声を押しとどめるのも学校側の役目ではないか。保護者も学校も危険性を冷静に認識する必要があります。

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そしてそのために、国にはやるべきことがあります。

Q.規制以外にできることがあるのか?

A.危険性を冷静に判断するための材料を提供することです。学校の管理下で起きた事故のデータは、日本スポーツ振興センターがまとめています。このデータを分析し、例えば、組み体操の事故が、何段のピラミッドのどこの位置にいた子どもがどんな状況でどんなけがをしたのかを統計的にまとめれば、組み体操の何が危険なのかを「可視化」、つまり見えるようにすることができます。危険なのは10段ピラミッドといった極端な例だけではないことを学校間で共有していけば、学校自身が危険を冷静に判断できます。

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今回、文部科学省は、ようやく組み体操についてこうした分析を進めることを決めました。学校現場全体のリスク除去にもつなげるためにも、学校で起きたほかの事故についても同様の分析は必要だと思います。学校事故の被害者は、子どもたちです。組み体操の問題を契機に感覚的な判断ではなく、学校自身が安全安心の学校作りを真剣に考えることが求められます。

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