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くらし☆解説 「コウノトリ放鳥10年 共生への課題」

土屋 敏之  解説委員

◇ひとたび日本の空から姿を消したコウノトリを人工的に繁殖させて放鳥する取り組みが
始まって十年、飼育や放鳥は軌道に乗った一方で課題も見えてきた。

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特別天然記念物のコウノトリは翼を広げると2mにも達する大きな鳥。
そのコウノトリが近年、全国各地で目撃されるようになっている。目撃情報があったのは青森から沖縄まで43都府県、309もの市町村にのぼる。(*2016年1月19日現在)

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そのコウノトリのほとんどが、兵庫県北部の豊岡市に由来。2005年に放鳥を始めて、そこから多くの雛も生まれ、野生で生息しているコウノトリは80羽に達している。

◇コウノトリの特徴

外見は、体の大きさや、長い首とクチバシなど、鶴にも似ている。
夫婦で縄張りを作ってカエルや淡水魚などを食べる肉食の鳥で、成長するとほぼ天敵もおらず、生態系の頂点に立つ生き物。

◇コウノトリを見かけたら

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あまり近づくのは避ける。特に冬から春にかけては繁殖期で神経質になる。150mぐらいの距離を保つのがのぞましい。
そして、餌は与えないこと、もちろん、捕まえたり傷つけてはいけない。
コウノトリの目撃情報は研究や保護活動にも役立つので、人工飼育や放鳥に取り組んでいる、「コウノトリの郷公園」に連絡を。

コウノトリの郷公園では、11月から全国の市町村に「あなたのまちにコウノトリが飛来したら」という、自治体向けの言わば対応マニュアルを送付している。
コウノトリが電柱に巣作りを始めたらどうすればいいか?といったことも書かれている。
コウノトリは体重が5kgと米袋並の重さがあるため、小さな木の枝に巣を作るのは難しく、電柱は格好の営巣場所。ただ、感電死した例が実際にあるし、停電などが起きたら大変。
そこで、電柱に営巣していたら、電力会社が慎重に巣を除去することになるが、実は勝手に作業はできない。特別天然記念物なので、文化財保護法に基づいて、県や市の教育委員会などに「現状を変更する許可」というのをもらう必要がある。

◇コウノトリはどうやってここまで増えてきたのか

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昔は、コウノトリは日本各地の川辺や水田で普通に見られる鳥だったが、農薬の使用が広がるにつれて水田で餌になるカエルやドジョウなども減り、1971年には野生のコウノトリは姿を消してしまった。
ただ、豊岡では最後までコウノトリが残っていたこともあって、地元の人たちの「復活させたい」という思いが強く、ロシアからコウノトリをもらい受けて、人工繁殖に取り組んできた。
そこから徐々に数も増え、2005年から放鳥を開始。
今では、千葉県野田市や福井県越前市でも人工飼育や放鳥に取り組んでいる。

◇日本にいたコウノトリではなくロシアからもらったコウノトリを繁殖?

コウノトリは元々ロシア極東部と日本などの南方を行き来している「渡り鳥」で、「日本のコウノトリ」と呼ぶのはその一部がたまたま日本に住み着いていたもので、遺伝子の分析からも同じ種だとわかっている。
そして、この極東のコウノトリ全体が今や2、3千羽しかいない絶滅危惧種なので、日本にも繁殖地が広がれば、国際的な希少種の保護にも貢献できるという。

◇一旦は姿を消した鳥の復活がうまくいった理由

半世紀以上、地域の人たちが様々な努力をしてきた結果。
その中でも私は「地域の農業とうまく共存共栄する仕組みが出来た」ことが大きかったと思う。

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コウノトリが絶滅した原因に、農薬によって餌になる生き物が減ったことがあった。
しかも、昔からコウノトリは「獲物を捕るために田んぼに入って稲を踏み荒らす害鳥」だとも言われてきた。
だから、ただ「コウノトリを復活させよう」と言っても、農家の人たちに犠牲や我慢が求められるようなやり方では、持続可能なものにならない。
そこで、豊岡市と兵庫県、生産者が一緒になって、コウノトリの餌場になるような米作りを「ブランド化」することで、農家が積極的に取り組みたいと思えるようにしてきた。
この米作りでは、無農薬または減農薬にした上で、普通は田んぼの水を抜いてしまう冬場も水を張って、通年餌になる生き物がいるようにするもの。
農家には負担が増える面もあるが、それを上回るメリットがある。
無農薬や減農薬でコウノトリと共生する米だと、積極的にPRした結果、大手デパートで売られるようになったり、食をテーマにしたミラノ万博でも紹介されて、高値で取引されるようになった。

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JAの買取価格で、この地域の一般的な米はキロ200円に留まったのに対して、この農法の米はずっと高い値がついている。
さらに、コウノトリの生態を詳しく調べて、「稲を踏み荒らす害鳥だ」というのは誤解で、実際は害はないと確かめて、農家の理解を得てきた。
この農法を行っている水田の面積は増え続けていて、農家が積極的に取り組むようになってきたことが現れている。

◇希少動物保護と今後の課題

こうした取り組みは佐渡のトキも有名だが、コウノトリは絶滅した動物を再導入した日本初の試みとされていて、希少動物保護を考えるモデルケースの一つとも考えられる。
ただ、10年間の取り組みを通じて、新たな課題も見えてきた。
コウノトリは各地に「飛来」はしているが、野外で「繁殖」しているのは未だ豊岡周辺だけ。
よそでは、ペアが年間を通じて餌をとれる場所がまだ少ないため定住できず、移動を繰り返している可能性がある。
つまり、増えたとは言え、まだ80羽しかいないコウノトリが各地で目撃されるのは、実はいい話とばかりは言えない。
もちろん、単にコウノトリが定住することが重要ではなくて、人も野生動物も安心・安全な環境が広がって、その結果、コウノトリ「も」定着できる地域が増えることが、結局、私たちのためにもなるのではないか。そういう意味でコウノトリは、“環境のバロメーター”と言えるのでは。

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