NHK 解説委員室

解説アーカイブス これまでの解説記事

くらし☆解説 「ロボットで守る!?橋やトンネル」

土屋 敏之  解説委員

(VTR1)
 2012年笹子トンネル事故/12月9日トンネル点検ロボ

岩渕)2012年12月、中央自動車道の笹子トンネルで、天井板の大規模な落下が起き、9人の命が失われました。
それから、3年、トンネルでの作業用に様々なロボットの開発が進められています。奇妙な形をしたドローン。そして、台車に沢山の機械とカメラを積み込んだもの。
こうしたロボットが、トンネルの安全を守るために今、注目されています。

k151218_1.jpg

(スタジオ前説)
くらし☆解説です。
いま、橋やトンネルなどの老朽化が大きな問題になっています。その対策のひとつとして進められているのが、ロボット技術の導入だそうです。土屋敏之解説委員に聞きます。奇妙な機械が色々出てきましたが、これで何をしようとしているんですか?

土屋)橋やトンネルなど、いわゆるインフラの点検を、ロボット技術を使って効率よく行えるようにしようと、国土交通省と経済産業省が進めているんです。選ばれたものは、来年度以降、実際の点検に試行的に導入される予定です。

岩渕)どうして点検にロボットが必要なんですか?

橋やトンネルなどが今一斉に老朽化しつつあって、点検する人手の不足が深刻になっているからです。

k151218_2.jpg

インフラは50年ぐらいで補修が必要なものが増えてくると言われます。
全国の道路橋では、2013年には建設後50年経ったものが18%ありましたが、2023年には43%と一気に倍以上に増えるんです。

これは、日本では、高度経済成長期に大量のインフラが集中的に作られたために、それが今ちょうど建設後50年を迎えつつあるためです。

岩渕)半数近くが建設後50年以上になってしまうわけですね。

k151218_3.jpg

冒頭でご覧いただいた笹子トンネルの事故も、老朽化が背景にあると指摘されています。他にもインフラが壊れるような事故は既に幾つも起きていて、待ったなしの状況です。
こうした中、国は法令を改正して、去年から全ての道路橋やトンネルを5年に一度、詳しく点検することを自治体などの道路管理者に義務づけました。
具体的には「近接目視」、つまりすぐそばに寄ってヒビ割れ等を確認することが義務になりました。
さらに「打音検査」と言って、ハンマーで叩いて音の響き方から内部に異状が無いか?などを判別することも求められています。
きちんと点検して異状を補修すれば、多くのインフラは建設してから百年以上使えるとされています。

岩渕)点検は重要なんですね。これまではこうした制度はなかったんですか?

これまでは統一された具体的な点検の基準というものは無かったので、それが出来たのは前進ですが、そのために人手不足も深刻化しています。そもそも点検対象になる数が膨大なんです。
 
 k151218_3_2.jpg

全国の道路トンネルだけで1万本。橋はさらに桁違いに多くて、70万もあります。
これを全て5年に一回点検するには大変な人手が必要ですよね。しかも、点検にはコストもかかりますし、通行規制をすれば渋滞も起きます。

岩渕)利用する私たちにも影響がある話ですね。

k151218_4.jpg

そこで国が、対策の一つとして打ち出したのがロボット技術の活用でした。ロボットをうまく使えば、まず少ない熟練者でも迅速に検査をすることが可能になります。
その結果、点検のための通行規制や渋滞も減らせます。点検記録を電子データにして残すことで、年々の劣化を正確にフォローもできます。
こうしたことから、長期的には点検や補修費用のコストダウンにつなげられる可能性もあると言います。

岩渕)期待されているわけですね。で、実際どの程度のことが出来るんですか?

それを確かめるために、この秋から公募したロボットの検証や評価が行われています。

(VTR2)橋ロボット:近接目視+打音検査

例えばこちらは先月、茨城県で橋を点検するロボットの技術検証を行った様子です。求められる技術は2つ。先ほどふれた「近接目視」と「打音検査」です。
こちらのロボットは近接目視用。ドローンで接近し、ひび割れが無いかなど、詳しい画像を撮ります。
周りをボール状のフレームで覆っているのが特徴で、複雑な形状の橋の表面に、風が吹いても衝突せず、一定の距離から撮影できるわけです。
他には、ドローンと車輪を組み合わせて、言わば天井を走って点検するものや、磁石で鉄橋にくっついて撮影するロボットも登場しました。
また、こちらは打音検査を行えるメカです。青い部分に注目して下さい。ピストン状の金属で壁面を叩いて、音の響き方を調べます。

k151218_5.jpg

こうした装置で打音検査を行ったデータです。横軸は音程の高さを、縦軸は音の強さを表しています。
健全な場所をたたくと、こちらの青い波形のような響き方になりましたが、異状がある場所では赤い波形のデータが取れました。違いがありますよね。
打音検査は、熟練者の経験に頼る部分が大きいのですが、機械を使って誰でも違いがわかるデータを取れると、熟練技術者の不足を補える可能性があります。

(VTR3 モニターに) トンネル内走るトラック/壁面を走る光の帯
さらに、ロボットならではの機能もあります。
こちらはトラックに装置を積んだタイプのものですが、トンネル内を走りながら光と電波、さらにレーザーをトンネルの壁に当てて、一気にデータを取ります。

k151218_6.jpg

こちらがその結果です。赤い部分はトンネルの壁が内側にわずかに盛り上がっている部分で、内部に隙間が出来ている可能性もあります。
このようにして、肉眼では見分けるのが難しい異状を検出できるかもしれません。

岩渕)こうした技術はどの程度、実用化に近い段階なんですか?

k151218_7.jpg

率直に言って、まだ人の点検を代行できるレベルではありませんが、人を支援する、例えば、ロボットで全体をざっと調べて異状がありそうなところを絞り込むことで点検を効率化する、といった使い方なら、かなり役立ちそうな段階に来ています。
ただこれから多くの課題があるのも事実です。まずは、検査の精度や作業全体でかかる時間など、まだ熟練した人には及ばないレベルですので、さらなる改良が必要です。
別の問題としては、現在の法律の壁があります。今の法令では、「人間が橋やトンネルのすぐそばに行って点検すること」になっています。人が近寄るのが難しい橋の裏側などはロボットだけ接近させて画像や打音データを取り、それを離れた場所の熟練技術者がまとめて診断することに出来れば大幅に効率化できますが、そのためには国が法律の解釈を変えたり、法改正なども必要になるかもしれません。

さらに重要なのは、点検で見つけた異状をどう補修するか?です。今後、老朽化したインフラが急増しますから、補修もこれまで以上に効率よく行う方法が必要です。

岩渕)課題が多そうですが、今後はどうなっていくんでしょう?

老朽化したインフラの維持管理は待ったなしの課題です。
ロボット開発だけでなく、技術者の養成や予算措置、さらには補修技術の開発など再び悲惨な事故を起こさないよう、対策を急いで欲しいと思います。

キーワード

関連記事