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くらし☆解説 「どうする?子宮頸がんワクチン」

土屋 敏之  解説委員

岩渕)くらし☆解説です。
子宮頸(けい)がんワクチンの接種後に、原因不明の体の痛みなど、重い症状の訴えが相次いだ 問題で、先週、追跡調査の結果や今後の対応について厚生労働省の会議が開かれました。
このワクチンとどう向き合えばいいのか?土屋敏之解説委員に聞きます。

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子宮頸がんワクチン、そもそもどういうワクチンなんですか?

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▼このワクチンは法律で定められた「定期接種」の一つです。
定期接種というのは、費用が公費で補助され、対象者には接種を受ける「努力義務」があって、国が呼びかける「積極的勧奨」が行われます。
例えば、BCGや、日本脳炎、はしかなど、誰もが打ったことがあるようなワクチンが含まれています。

▼子宮頸がんは年間3千人が亡くなる深刻な病気で、原因はHPVというウイルス です。このワクチンはHPVの感染を減らす効果があるもので、おととし4月に「定期接種」になりました。
小学6年から高校1年の女子が対象になっています。
▼ところが、接種後に全身の痛みや痙攣など、ワクチンの影響、いわゆる「副反応」が疑われる症状を訴える人が相次いで批判が高まり、わずか2か月で「積極的勧奨」が中断されたんです。

岩渕)接種をやめたわけじゃなくて、「積極的に勧めるのを中断した」だけなんですね?

そうです。今も定期接種から外れたわけではないので、多くの自治体で無料で受けられますが、「受けたい人は受けて下さい」という状況です。
実態としては、ほとんど接種が行われていないという見方もあります。

岩渕)そうした中で、先週、国の会議があったんですね?
 
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▼はい。医療関係者などを集めた合同会議がおよそ1年ぶりに開かれました。
▼まず、副反応と疑われる人たちの追跡調査の結果、1割を超える186人が、症状が治っていないと報告されました。
▼2年以上たっても痛みが続いたり、歩けないなどの運動障害、中には「記憶力が極度に低下した」など様々な症状が報告されていて、学校に通えなかったり、車いすに頼って生活している少女もいます。

▼会議では、こうした被害者の救済も議論されました。
これまで医師の間でも副反応が十分理解されておらず、「精神的なもの」などとされて、適切な対応を受けられないケースもありました。
また、接種を受けた時期によって救済制度が異なっていました。
▼これを、たとえワクチンとの因果関係が証明はされなくても疑いが否定できない場合は医療費を出し、さらには生活や通学の支援など、救済を拡充していくことになりました。

▼そして、注目されたのは、積極的な勧奨が再開されるかどうか?でした。
先月、産科婦人科学会が勧奨再開を訴える声明を出すなど、医療関係者の間では、早く再開すべきだという意見が主流です。
一方、被害者団体などは、強く反対してきました。

▼会議では、副反応には依然不明な点があり、治療法も確立していないことなどから、「国民に適切な情報提供をするには、検討を続ける必要がある」として、再開を見送りました。

岩渕)なぜ医療関係者は、勧奨を再開すべきだというのですか?
 
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▼世界ではこのワクチンは、がんを減らす効果が大きいとして普及しているからです。
WHO世界保健機関もワクチンを推奨していて、ワクチン会社のある欧米を中心に、既に8千万人以上が接種を受けたと見られます。
先進国で消極的なのは日本だけとも言われます。
▼また、日本医師会などは先月、副反応の診療の手引きを公表し、診療体制も整備できたとしています。

岩渕)日本の方が特殊だと言うことですか?

▼ある意味ではそうです。実は子宮頸がんに限らず、欧米では一般的なワクチン、例えばB型肝炎やおたふくかぜなどのワクチンも、日本では導入が進んでいないケースが多く、「ワクチンギャップ」と呼ばれます。
私も長期的には、病気を未然に防げるワクチンは普及するのが望ましいと思います。
ただ、「欧米で普及しているから、無条件に日本でもやるべきだ」とは言えません。

▼なぜなら、まず、医薬品の効果や副作用には、人種というか、具体的には遺伝子のわずかな違いなどによって、大きな差が出るケースもあるからです。
▼子宮頸がんワクチンでは、重い副反応の発生率を日米で比べると、日本の方がはるかに多い、というデータもあります。慢性の痛みや記憶力の障害などは、欧米ではほとんど問題になっていないとされます。
診断基準などが違うから、とも考えられますが、何らかの理由で、日本人の方が重い副反応が出やすい可能性も否定はできません。

岩渕)結局このワクチン、接種した方がいいんですか?
 
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▼国も現在は個人の判断に任せている状況で非常に難しいですが、個人にとってのメリットとデメリットを考えてみましょう。
▼まず、『メリット』です。
日本人女性が生涯に子宮頸がんになる確率はおよそ1%。
ワクチンによってこれを0.5%以下に下げられる可能性があります。
ただし、ワクチンの効果が何年持続するかなどで、この数字は大きく変わります。

▼一方の『デメリット』。重篤な副反応の発生率を、先日の厚労省の報告数から計算すると、だいたい0.04%となります。
単純に比較できるかという議論もありますが、数字の上では、重い副反応を起こす確率より、がんを減らせる確率の方がずっと大きい、命を落とす危険も減らせる、これが、「接種を推進すべきだ」とする医学界や欧米の、主な考え方です。

岩渕)確率的には今もワクチンを打つ方がいいということなんですか。
どうも少し釈然としない気もしますが?
 
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▼たしかに、これで誰もが納得できるか?というと、難しい気もします。
例えば接種するとしても、今すぐ急ぐ必要はあるのか?という議論もあるからです。

▼まず、がんになるには普通10年以上の時間がかかりますが、こうしたワクチンが世界で発売されたのは2006年なので、実際はまだ、がん患者を減らせたという事実はありません。
ウイルスの感染や、がんの前段階にあたる変化を減らせた、という所までです。
本当にがんを防ぐ効果があるなら、あと数年で実際に子宮頸がん患者が減った、という結果が出はじめるはずです。
効果が実証されれば、多くの人がワクチンの意義を納得できるかもしれません。

▼次に、まだ副反応の正確な頻度やメカニズム、治療法がはっきりしていません。
今、国の研究班などが取り組んでいます。
それがはっきりしないと子供に接種するのは不安だ、と思う人もいるでしょう。

▼さらに、新たなワクチンの存在もあります。現在のワクチンは子宮頸がんの原因になるHPVのうち、主な2種類、併せて6割程度を防ぐというものですが、欧米では、さらに多くの種類を防ぐワクチンが発売されていて、日本でも7月に承認申請が行われました。仮に副反応が同じなら、「がんを防ぐ効果が高いものが使えるようになってからにしたい」という考え方もあります。

岩渕)もうちょっと様子を見たい、という気もしてきますね。

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▼ともあれ、いま接種を受けるにせよ受けないにせよ、間違いなくお勧めできるのは、20歳になったら「子宮頸がん検診」を受けること、です。
検診では、粘膜の細胞を採って調べることで、7割ぐらいの確率でがんやその前段階を見つけられ、早期発見できれば殆どの場合、治療が可能です。
日本では受診率が非常に低いのですが、きちんと定期的に受けることで、子宮頸がんの死亡率が大きく下げられると考えられます。
▼検診もワクチンも効果は百%ではありませんので、将来的には両者が共に普及することが望ましいと思いますが、現状では、なおさら検診の重要性が高いと言えます。

岩渕)検診を受けることを心がけたいですね。 

▼国や医学界には、ワクチンの副反応のメカニズム解明や、治療法の確立を急いで、誰もが納得して接種を受けられるような環境を整えてほしいと思います。
 

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