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くらし☆解説 「"残薬"をどう減らす?」

村田 英明  解説委員

岩渕)きょうのテーマは、「“残薬”をどう減らす?」 村田英明解説委員です。
 
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村田)“残薬”というのは医師から処方された薬を飲み残したり飲み忘れたりして余った薬のことです。

岩渕さんも、いつもらったか思いだせない薬が見つかった経験はありませんか?
 
岩渕)あります。病気がよくなって薬を飲み切ることができず、棄てるのはもったいないので保管していたことがあります。

村田)そうした経験は誰にでもあると思いますが、きょう、お話しする残薬はそれとはスケールが違います。こちらをご覧ください。
 
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岩渕)いろんな種類の薬が大量にありますね。

村田)それぞれの写真が別の高齢者の自宅から回収された残薬です。

日本薬剤師会によると在宅の75歳以上の高齢者だけでも残薬は年間およそ475億円分に上ると推計されています。
 
岩渕)475億円というのは高齢者だけの数字ですよね。
実際にはさらに多くの残薬があるということでしょうか。

村田)国が調査をしていないので実際のところどうなのかよくわかっていないんですが 
1000億円をはるかに超えるという専門家もいます。
国の医療費はどんどん増えて39兆円を超えています。
このうち薬剤費はおよそ8兆円で2割以上を占めます。
ムダをなくさなければ医療費の伸びを抑えることはできないので、政府も残薬の問題に注目しているわけです。
 
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ただ、それよりも重要なのは人の命に関わる問題だということです。

岩渕)どういうことですか。

村田)自宅に大量の残薬があるために高齢者がどの薬を飲んだらよいかわからなくなって、飲み合わせが悪くて体調を壊し病院に運ばれる事態が相次いでいます。

また、薬を飲まなかったために症状が改善されず、医師がさらに薬の処方を増やすといった悪循環に陥っているケースもあって、治療の効果を上げるためにも残薬はなくさなければなりません。
 
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岩渕)それにしても、なぜ薬が飲まれていないのでしょうか。

村田)理由はいろいろありますが、厚生労働省の調査では、「飲み忘れ」が70%近くを占めて最も多くなっています。

次いで、20%余りの人が「新たに別の薬を処方されたので飲まなくなった」、「自分の判断で飲むのをやめた」といった理由を挙げています。

思い当たる方も多いと思いますが、高齢になると高血圧や糖尿病など様々な病気を抱えるようになって1回に10種類以上の薬を飲む人も珍しくありません。
   
こうした残薬が生まれる背景には、まずは、医師が処方する薬の種類や量が多過ぎるといった問題があります。
それに加えて薬の管理が患者任せになっていることがあります。
 
岩渕)薬の管理が患者任せとは、どういうことですか。

村田)医師が患者を診察して処方せんを書き、それを薬局に持っていくと薬剤師が処方せん通りに調剤した薬を出してくれます。
しかし、実際に薬を飲むかどうかは患者しだいです。
医師も薬剤師も患者が実際に薬を飲んだかどうかまではチェックしない場合が多い。
そうしたあいまいな状態が大量の残薬を生みだしているのです。
 
岩渕)では、残薬をなくすにはどうすればいいのでしょうか。

村田)まずは薬を処方する医師が責任を持たなければなりません。
 
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しかし、日本では患者の健康を日常的に管理する「かかりつけ医」も高血圧の治療が専門、糖尿病の治療が専門といったように細分化が進んでいます。
患者からみれば病気ごとに「かかりつけ医」がいるような状態です。

患者がこれらの病院を受診して回ると、それぞれの病院では、ほかの病院がどんな薬を処方しているか確認することなく薬を処方し、さらに、治療に時間がかかる高血圧や糖尿病などの「慢性疾患」の場合は、1回の処方で数か月分の薬が処方される場合があります。

こうした医療機関どうしの連携が不十分なことが大量の残薬が生まれる背景にはあるのです。

そうした中で、厚生労働省は薬局を中心に薬の管理を徹底する「かかりつけ薬局」の普及に乗り出そうとしています。  
 
岩渕)どうやって管理を徹底するのでしょうか。

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村田)こちらの図で説明しますと、例えば、これらの3つの診療所で診察を受けた男性が処方せんを持って「かかりつけ薬局」を訪れたとします。

薬剤師が自宅に残薬がないか確認したところ、この男性は処方された不眠の治療薬とまったく同じ薬が「2週間分残っている」と答えました。
 
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薬剤師は医師に相談して、処方された4週間の半分の2週間分の薬を男性に渡し、残りの2週間は自宅にある残薬を飲むように言いました。

さらに、処方された高血圧と糖尿病の薬の飲み合わせが悪く副作用が起きるおそれがあることもわかりました。
 
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この場合も医師に相談して、高血圧の治療薬を副作用の心配がない別の薬に変えることにしました。

「かかりつけ薬局」が個人の薬の情報を丸ごと管理することで、残薬の調整や薬の重複、飲み合わせによる健康被害を防ごうというのです。
 
岩渕)そういったことが実際に出来るのでしょうか。

村田)実は、薬の処方に疑問を感じた薬剤師が医師と相談して処方を変えることは薬剤師の仕事の中でも重要な仕事で、これまでにも行われてきました。
ただ、薬剤師の意見を聞かない医師がいるのも事実です。
薬を処方する権限を持つ医師との力関係もあって、十分に行われてこなかったのです。
残薬を減らすには、医療機関が薬局と連携して薬を処方する仕組みを作れるかどうかが課題となります。
厚生労働省は「かかりつけ薬局」が残薬を削減した場合に薬局に支払われる報酬を加算するなどして「かかりつけ薬局」の普及をめざす方針です。
 
岩渕)薬局で薬を出すところまでの取り組みはわかりましたが、それだけでは患者が処方された薬を飲むかどうかはわかりませんよね。

村田)その通りですね。
患者に薬の飲み方を指導するのも薬剤師の重要な仕事です。

そこで、大阪府のある薬局ではこんな取り組みを始めました。
薬剤師が高齢者の自宅や介護施設を訪問して残薬を回収したり、薬の飲み方を指導したりする取り組みです。
 
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岩渕)患者の自宅に行けば残薬があるかどうかわかりますからね。

村田)そうですね。
薬剤師が高齢者の自宅を訪問して指導を行うことは在宅医療や介護保険のメニューでも行われていますが、この薬局の場合は薬が正しく飲まれているかどうか確認するだけではなく、患者に質問をして薬が効いているかどうか、副作用の症状が出ていないかチェックします。

また、患者の血圧や脈拍を測って健康状態を確認し、それらの情報を訪問診療を行っている医師に伝えます。

さらに、薬が患者に合っていないと思えば、医師に薬を変えるように提案することにも取り組んでいます。

簡単に聞こえるかもしれませんが、処方の権限を持たない薬剤師が医師が決めた方針に疑義を唱えるのは勇気のいることです。

この薬局の取り組みは、薬剤師と協力して高齢者医療に取り組む医師たちの協力があって実行できているのです。
 
岩渕)残薬を減らせるかどうかは医師たちの意識が変わるかどうかにかかっているようですね。

村田)そうですね。医師と薬剤師が協力して働く「協働」がカギを握ると思います。
例えば、患者の具合が悪くなったら医師は病気の悪化、薬剤師は薬の副作用を疑って、それぞれが専門の立場から原因を考え協力してチーム医療を行えば、残薬の解消だけでなく治療の質も向上すると思います。

高齢化が進む中で、今後、在宅での医療や介護のニーズはさらに高まります。
ですから、薬の管理を患者任せにしている状況は一刻も早く改めなければなりません。
医師と薬剤師の新たな関係を作れるかどうかが、残薬を減らし、薬の安全な使用を進めていくうえで大きな課題となっています。

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