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くらし☆解説 「若者がなぜ"イスラム国"へ?」 

二村 伸  解説委員

きょうの「くらし☆解説」は、イスラム過激派と若者がテーマです。担当は二村伸解説委員です。
 
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(岩渕キャスター)
ニュースでも連日取り上げられている「イスラム国」は、日本の私たちの生活に関係がないように思えますが、他人事ではないのですね。

 
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(二村)
カナダやアメリカでイスラム過激派の思想に共鳴した男による事件が相次ぐなどテロの脅威が世界に広がっています。また世界の若者たちが次々と過激派に加わり、日本の大学生もシリアに向かおうとしていたことが明らかになりましたね。欧米では10代の少年・少女が自らシリアに向かったというニュースが相次いでいます。地域や文化に関係なく若者たちが吸い寄せられるようにシリアに向かっているのです。遠い中東のできごとではなく世界が直面する重大な問題として捉える必要があると思います。
 
(岩渕)
イスラム過激派の脅威は、日本にもあるということなのでしょうか?

(二村)
日本はシリアやイラクでの軍事行動に参加していないのでイスラム過激派によるテロが起きる可能性は低いのですが、シリア難民の支援など資金面の協力で有志連合に参加しているため過激派の報復の対象にならないと断言はできません。また、海外でテロに巻き込まれる可能性もないとはいえませんので、過激派の動向に関心を持ち注意することが必要です。
 
(岩渕)
そもそも「イスラム国」とはどんな組織なのでしょうか?

(二村)
シリアで活動する数多くの過激派組織の中で最大の勢力が「イスラム国」です。
 
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シリアとイラクの広い地域を支配し、ことし6月、2つの国にまたがるイスラム国家の樹立を一方的に宣言しました。誰も国として認めてはいませんが、シリア最大の油田を支配下に起き、石油の密売で1日1億円以上の収入があると言われ、豊富な資金を背景に勢力を拡大させています。
 
(岩渕)
そこに世界の若者たちが加わっているのですね。どれだけの数に上るのですか?

(二村)
正確な数はわかりませんが、「イスラム国」のメンバーは3万人以上、その半数が外国人だと言われています。
 
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アメリカ国務省は、イスラム国の外国人は80か国以上の1万5000人に上ると見ています。
 
(岩渕)
どんな国から集まっているのですか?

(二村)
こちらをご覧ください。
 
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イギリスのシンクタンクがまとめたシリアの過激派に加わったと見られる人の数です。半分はチュニジアやサウジアラビアなどイスラム教徒が多数のアラブの国々からですが、それ以外ではトップがロシアでチェチェンのイスラム教徒です。
欧米からも3000人と言われ、フランスが700人、イギリスが500人、ドイツが400人に上っています。イギリスはヨーロッパの過激派のネットワークの拠点ともなっています。
 
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イギリスの新聞では、連日シリアに向かった若者たちの記事が掲載されています。中には子どもの写真もあります。子どもを連れてシリア入りした人も少なくないのです。
また、すでにイギリス人20人以上が戦闘や自爆テロなどで死亡したと見られています。
 
(岩渕)
アジアからもいるのですか。
 
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(二村)
中国やインドネシアのスラム教徒の他、マレーシアやシンガポールからもシリア入りしています。日本でも、北海道大学の学生が「イスラム国」に加わろうとしてシリア行きを計画していたことがわかり、警視庁から事情聴取を受けましたね。
 
(岩渕)
日本の若者もいたことには驚きましたね。

(二村)
この学生以外にもシリアで過激派組織に加わっていた若者がいたことが明らかになりました。
 
(岩渕)
なぜ若者たちは、あえて危険なところに行こうとするのでしょうか?

(二村)
動機はさまざまですが、大きく分けて3つのタイプがあるようです。
 
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1つは信仰・宗教上の理由からです。シリア政府軍に弾圧され続けるイスラム教徒を守るための「聖なる戦い」だというのです。
2つ目は生活や社会への不満、孤立感を抱いていた人が自分居場所を求めてシリアに向かったケースです。イスラム教徒に対する偏見や差別、大学を出ても仕事につけず将来への希望が持てないことや、貧富の差が広がっていることなどに不満を抱える人たちにとって、その原因が政府や西欧の文明・価値観にあるとする過激派の主張は受け入れやすいのです。
3つ目が金目当てや、刺激を求めただ戦闘がしたいという人や仲間に誘われたという人もいます。軽い気持ちで過激派に加わった人たちです。
 
(岩渕)
ツイッターやフェイスブックなどで勧誘しているという話を聞きますが。

(二村)
イスラム国にこれだけの若者が集まっている背景に、ソーシャルメディアによる巧妙な宣伝活動があります。
【YouTube イスラム国制作の宣伝動画】
YouTubeでは外国人の戦闘員が広告塔となって英語やフランス語、ドイツ語など各国の言葉で語りかけています。映像の編集技術もプロ並みで、いかにイスラム国が素晴らしいか吹聴しています。そうした宣伝につられて行く人が少なくなく、中には戦士の妻になりたいと言ってシリアに向かう少女もいます。
 
(岩渕)
少女もいるのですか?

(二村)
シリアの過激派に加わった外国人の1割、およそ200人が女性と言われ、10代の少女も少なくありません。
 
【新聞】
これは今月2日のイギリスの新聞です。15歳の女子生徒が17歳の少女と一緒にシリアに向かったと見られ、母親が帰国するよう訴えています。専門家によればこの少女を含め50人以上が過激派メンバーとの結婚目当てにイギリスからシリアに向かったということです。

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こちらは、オーストリアからイスラム国に加わった15歳と17歳の少女です。戦闘員に憧れてイスラム国に入り、妊娠したということですが、イスラム国の現実はひどいもので祖国に帰りたいと訴えています。
 
(岩渕)
帰ることはできるのですか?

(二村)
家族が引き渡してほしいと頼んだものの拒否されたということです。イスラム過激派はいったん入れば抜けることは非常に難しく、命の危険と引き換えに逃げるしかありません。
軽い気持ちでシリアに行ったら抜け出すことができず取り返しのつかないことになってしまうのです。
 
(岩渕)
それでも過激派に入ろうとする若者が後を絶たないのですね。

(二村)
先週もアメリカの15歳と17歳の姉妹、それに16歳の少女の3人が、シリアに向かう途中、ドイツで保護されました。この流れはまだ続きそうです。
 
(岩渕)
どうやったら若者たちを引きとめることができるのでしょうか。

(二村)
具体的な方法としては水際で食い止めること、若者をシリアに行かせないために出入国管理を強化することです。
 
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シリアへはほとんどがトルコ経由で入りますのでトルコに向かう若者を各国が連携して封じ込めることが重要です。それでもイギリスの少女のように監視の網をかいくぐってシリア入りする人はあとをたたず限界があります。
 
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それだけに、過激派に向かわないように若者たちを社会に取り込むこと、いかに社会で居場所を見つけられるようにするかが重要になってきます。学校での教育だけでなく地域社会が若者の悩みを聞き、相談にのるなどカウンセリングや、過激な思想を持つ若者の矯正プログラムに力を入れ始めた国もあります。若者の職業訓練や雇用の創出も重要ですし、過激派の実態も知らない少年少女が誘惑に乗らないように、残虐で反社会的な過激派の現実を理解させること、ソーシャルメディアの過激派対策も必要でしょう。テロとの戦いは軍事行動だけでは成功しません。世界の若者がなぜ過激派に向かうのか、海外の特殊なケースではなく身近な問題ととらえ、国と地域社会が連携して取り組むことがますます重要になっていると思います。

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