ロシアでは
来年三月の大統領選挙まであと一年
今ロシアではメドベージェフ大統領が再選されるのか、
それとも実力者プーチン首相が復帰するのか
さまざまな思惑が渦巻いています。

今年は19世紀、アレクサンドル2世が
農奴を解放してから150年、
その記念日の三日
メドベージェフ大統領は
改革を続けるのは自らだと宣言し、
大統領再選への強い意欲を滲ませました。
「我々は、19世紀の改革者の全面的な正当性と先見性を21世紀において証明してみせる」

メドベージェフ大統領の改革路線に対しては
プーチン支持派から公然と反旗も上がっています。

ユーラシア同盟会長ドゥーギンモスクワ大学教授
「メドベージェフではロシアは維持できない。
プーチン首相が復帰すべきだ」

中東で広がる長期政権の転覆、
ロシアでもインターネットなどで
じわじわと政権への不満が広がっています。

メドベージェフか、プーチンか
ロシア大統領選挙に揺れるロシアに迫ります。

「ロシア大統領選挙まであと一年・揺れるロシア」

 

ここからは石川解説委員とともにお伝えします。
吉井)石川さん、ロシア大統領選挙に向けてどのような状況ですか。

石川)ロシアは完全に内政の季節に入りました。
ロシア政局を見る場合三つの要素に注意しなければなりません。
・メドベージェフ大統領はプーチン首相の意思に関わらず再選・つまり立候補への意思を貫けるか。
・プーチン首相はいつどのような形で大統領選挙への立場を明らかにするのか。
・ロシア社会で広める体制そのものに対する不満が大統領選挙にどのように影響するのか、この不満を野党が利用できるのか。
そして外部的要因をもう一つ付け加えるとすれば、
・国際関係、特にアメリカとの関係がどのようにロシア大統領選挙に影響するか、です。

a110310_01.jpg

 

 

 

 

 

 

 

メドベージェフ大統領自身、少なくとも彼を支えるグループはリベラルな改革と近代化を旗印に再選を既成事実化する動きを進めています。
今年は19世紀、1861年アレクサンドル2世が農奴解放令を発してから150年になります。
 アレクサンドル2世の大改革と言われる社会改革がここから始まるわけですが、メドベージェフ大統領は、この農奴解放令を記念するシンポジウムで演説して、大統領再選への強い意欲を示しました。

「アレクサンドル2世は農奴制度と軍・官僚による中央集権体制を受け継いだ。彼はこの非効率な経済と遅れた社会構造は国の崩壊を招くと見通した。私は21世紀のロシアがこの改革者の正しさと先見性を証明すると期待したい」 
アレクサンドル2世の父ニコライ1世は、30年余りの長い治世を収めた絶対的専制君主として知られました。国家に安定をもたらしましたが、同時に自由を押さえつけ、近代化は遅れました。メドベージェフ大統領の演説は暗に前任者のプーチン首相の時代は終わり、新たな改革が不可欠になったことを訴える点に主眼を置いています。
ロシアのマスメディアはこの演説をあたかも自らを現代のアレクサンドル2世に譬えたものだとして事実上の大統領選挙への立候補を表明したとの受け止め方をされています。
実際にこの演説は大統領自身が側近とともに準備した演説で、大統領立候補に向けた事実上の綱領演説と言ってもよいでしょう。プーチン時代の継続から差異を明確にして「リベラリズムと近代化」をスローガンに再選を既成事実化しようという狙いが込められています。

吉井)これに対してプーチン首相はどのように動こうとしているのでしょうか。

石川)プーチン首相はメドベージェフ大統領が演説した次の日に、与党統一ロシアの代表として、ロシア中部の都市での統一ロシア党大会で演説し、首相としての自らの経済実績を誇示しました。こうした地方での党大会を極東、シベリアなど各地で開いており、それぞれの大会でプーチン首相が演説して統一ロシアへの支持を訴えています。ただこれはあくまで議会選挙に向けた与党への支持であって、自らが大統領選挙に立候補するかどうかは、まったく明らかにしていません。ただプーチン首相は、大統領選挙にも影響を与える今後の政治日程を明らかにしました。

吉井)どのような政治日程なのですか

石川)どこでも政局と言うのは政治日程と密接に結びついています。

a110310_02.jpg

 

 

 

 

 

 

 

ロシアは、まず今年12月に議会選挙、そして来年3月に大統領選挙が行われ、議会選挙の選挙運動は10月に始まります。メドベージェフ大統領は、プーチン首相は与党党首として議会選挙、自分は大統領候補と議会選挙前に与党から大統領候補としてのお墨付きを得たいと考えていました。しかしプーチン首相は9月に党大会を開くことにしました。9月ですとまだ大統領候補決定は早い。プーチン首相は大統領候補の決定を12月の議会選挙後まで引き延ばす戦略に出てきたのです。つまりプーチン首相は自らの帰趨をぎりぎりまで明らかにしないことで、影響力を維持しようとしたものと見られています。統一ロシアの戦略決定に直接かかわる幹部の一人は私に対して、統一ロシアとして大統領候補を決めるのは12月の議会選挙後だと明言しています。

吉井)今後プーチン首相の決定に影響を与えるとしたらどのような要素がありますか。

石川)プーチン首相を支持するグループの中には、メドベージェフ大統領の外交政策がアメリカより過ぎるとして反発を強め、公然とプーチン首相の復帰を求める声も強まっています。
例えばロシアはユーラシア国家だとして、アメリカ、ヨーロッパなどに対してロシアの独自性を主張するイデオロギーは政権内部でも強い影響力を持っていますが、そうしたイデオロギーの支柱と言われるロシア・ユーラシア同盟会長・ドゥーギン・モスクワ大学教授は次のように述べて、プーチン首相が復帰すべきだと強く主張しています。
「プーチン首相が復帰して、欧米との対立を恐れなかった初期プーチンの路線に戻るべきだ。メドベージェフの選択はプーチンの大きな誤りだった。メドベージェフは西側の歓心を買おうとしているが、大統領としての正当性は無い」
こうした親プーチンの声は体制内部にも強くあり、プーチン首相の決断に影響を与える可能性もあります。

吉井)メドベージェフ大統領が、プーチン首相の意思が明確になる前に自ら公式に立候補を表明するということはあるのでしょうか。

石川)事実上はメドベージェフ大統領と彼を支持する側近グループは再選への運動を始めているわけですが、公式な声明となりますと、やはりメドベージェフ大統領にとってプーチン首相の合意なしには行うのは難しいでしょう。
ただメドベージェフ大統領がプーチン首相よりも弱い立場かと言いますと、情勢はもう少し複雑です。
大統領府の政治経済の専門家グループが、ロシアの政治経済状況を分析して、2020年までの発展の方向性を提言した報告書を大統領や首相に提出しました。そこでは資源に依存したプーチン時代の発展モデルは限界に達したとして、内需を中心とした新たな発展モデルを採るよう提案されています。
 ドゥーギン氏のように公然とプーチン首相の復帰を求める声が強まっているのは、逆にメドベージェフ大統領の周囲に再選を求めるエリート層が結集し、プーチン首相が態度を表明しない中で、プーチン氏を支持するグループが危機感を強めているからです。
またロシアの大統領権限が強大であることを忘れてはなりません。たとえば法律上はプーチン首相もメドベージェフ大統領の一存で解任できますし、軍も治安機関も大統領に直属しています。プーチン首相としてもこうした強大な大統領権限は無視できないでしょう。
 与党からはメドベージェフかプーチンのどちらか一人が統一候補として出るものと見られ、二人の神経戦がどこまで続くのかが焦点となっています。

吉井)中東では市民の蜂起により長期政権が崩壊しています。インターネット、ソーシャルネットワークを使った市民の動きが今後ロシアでも起きる可能性はあるのでしょうか。

石川)私はこの番組で繰り返し話していますように、ロシアでは今は市民の体制に対する不満が強まっています。ロシアではインターネットの普及は急速に広がっており、facebookや汚職告発サイトを使った政権批判は広がっています。
プーチン時代とは何かと言いますと簡単にいえば「体制は安定と生活の向上を保証する。その代り市民は自由の制限を甘受する」というプーチンと国民の間の非公式な合意の上に成り立っていたと言ってよいでしょう。しかしその合意は終わりに近づいています。
プーチン時代の生活向上が中産階級を生み出しました。しかし豊かさをつかみつつある中間層が体制に対する不満を強めています。彼らの社会意識は高まり、自由の制限などに我慢できなくなっているのです。もう一つ不満を強めているのは若者です。去年12月クレムリン前で民族主義的な若者の暴動が起きました。今年は連邦崩壊から20年にあたりますが、つまりソビエト連邦と言うものを知らない若者が成人を迎えるということです。体制に近いシンクタンクで若者の意識調査を継続的に続けている学者は、若者が不満を強めている背景には社会の不公正さに対する不満があると指摘しています。

社会計画研究所タルーシン主任研究員
「法の下での公正さを求める若者たちの不満が爆発している。クレムリンはまだその重要性を十分理解していない」

吉井)市民や若者はいまの体制のどのような点に不満を持っているのでしょうか。

石川)ロシアではマスメディアの自由や野党の活動が抑えられた結果、汚職が蔓延しています。富める者が法を捻じ曲げて、ますます貧富の差や社会的な不平等が広がっているとの不満が拡大しています。ロシアでもインターネットを通じて、権力者や財閥の汚職や蓄財を告発するサイトが立ち上がり、最近ではプーチン首相のための宮殿が造られているのではないかとの疑惑が告発されました。
野党がぜい弱でこうした不満を吸収できるような政治家が見当たらず、社会の不満がどの程度選挙に影響するかは未知数ですが、逆に言えば野党が大同団結して、大統領選挙に向けて国民の不満を吸収できる人気のある候補者を擁立出来れば、無視できない票を集める可能性もあるでしょう。

吉井)アメリカなど西側はロシアの大統領選挙の行方をどのように見ているのでしょうか

石川)アメリカのバイデン副大統領が9日からモスクワを訪問し、メドベージェフ大統領と会談しました。アメリカやヨーロッパは本音ではメドベージェフ大統領の再選を望んでいます。そのためメドベージェフ大統領の進めるロシア経済の近代化についても関与する姿勢を示し、メドベージェフ大統領のもとでロシアの民主化が進むことに期待を示しています。
ただ米ロ関係はメドベージェフ・オバマの良好な両首脳の関係のもとで再構築・改善したわけですが、今年はむしろ厳しい局面も出てくるかもしれません。それはミサイル防衛をめぐる対立が解消する見通しがないからです。メドベージェフ大統領としても去年のような米ロ関係の改善の波に乗る中で再選路線を進めるということは難しいでしょう。