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アジアを読む 「カルザイ大統領訪ロ 影響力拡大を狙うロシア」2011年02月08日 (火)
山内 聡彦 解説委員
(冒頭V)
1979年、アフガニスタンに軍事進攻した旧ソビエト。およそ10年間にわたって繰り広げられたこの戦争で、旧ソビエト軍はイスラム勢力の激しい抵抗にあって敗北。全面撤退に追い込まれました。そのロシアが今、再びアフガニスタンとの関係を強化しようとしています。先月、アフガニスタンのカルザイ大統領が初めてロシアを公式訪問。メドベージェフ大統領はアフガニスタンのインフラの再建などの経済協力を約束しました。
▼アフガニスタン、カルザイ大統領ON
「我々は現実を注視しながらロシアとの関係を発展させたい」。
▼ロシア、メドベージェフ大統領ON
「我々は何らかの形でアフガニスタンでのロシアの存在を強めていきたい」。
なぜ今ロシアはアフガニスタンへの影響力を強めようとしているのか。その狙いや背景を分析します。
「カルザイ大統領訪ロ 影響力拡大を狙うロシア」
(吉井歌奈子キャスター)
Q1:カルザイ大統領のロシア訪問はどんな意義があるのでしょうか。
(山内聡彦解説委員)
A2:10年前のタリバン政権崩壊後、アフガニスタンの大統領がロシアを公式訪問したのはこれが初めてです。訪問は旧ソビエトのアフガニスタン侵攻という両国の苦い歴史に新たな1ページを開くものと言えます。旧ソビエトは当時、10年にわたって最大12万人の部隊を侵攻させましたが、アメリカが支援するイスラム戦士、ムジャヘディンの激しい抵抗にあって敗北し、全面撤退に追い込まれました。また訪問はアフガニスタン情勢がこれから重大な局面を迎える微妙な時期に行われました。この夏アメリカ軍が撤退を開始し、2014年末までに治安権限が移譲されますが、これに伴って、アフガニスタンとその周辺地域では戦略バランスが大きく変わると見られています。関係諸国がさまざまな対応を模索していますが、カルザイ大統領のロシア訪問もそうした動きの1つだと思います。
(吉井)
Q2:訪問ではどんな合意があったのですか。
(山内)
A2:注目されたのはアフガニスタンでかつて旧ソビエトの支援で行われたさまざまなプロジェクトを復旧・再建することで合意したことです。例えば首都カブールとアフガニスタン北部を結ぶサラン・トンネルの再建です。
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これはヒンズークシ山脈のサラン峠を通る、標高3300メートル、全長2600メートルの世界で最も高い所にあるトンネルで、1964年に旧ソビエトの支援によって完成しました。しかし、皮肉なことに旧ソビエト軍はこのトンネルを通って首都カブールに侵攻しました。その後の内戦などもあってトンネルは荒廃した状態似なっていました。このほかカブールなど各地で水力発電所やかんがい施設、肥料工場の再建などあわせて10数件のプロジェクトを行うことで合意しました。
▼アフガニスタン、カルザイ大統領ON
「我々はずっと前に始まった死活的に重要なプロジェクトを再び始めたい」。
(吉井)
Q3:他にはどんな合意があったのですか。
(山内)
A3:アフガニスタンと中央アジアとの間のエネルギー計画。これにロシアが参加することにアフガニスタンが支持を表明したことです。計画は2つあり、1つは中央アジアのキルギスとタジキスタンから水力発電の余剰電力をアフガニスタン経由でパキスタンに送ろうというものです。
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ロシアのプーチン首相は今回、ロシアの企業が計画に参加することになれば、送電線の建設などに5億ドルを投資する意向を明らかにしました。
もう1つは中央アジアのトルクメニスタンの天然ガスをアフガニスタン経由でパキスタンとインドに供給しようという計画です。
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この関係4カ国は去年暮れに計画を進めることで合意しましたが、ロシアの政府系企業ガスプロムも参加を希望しています。ロシアとしてはこうしたエネルギー計画に関与することで中央アジアと南アジアへの影響力を強める狙いがあると思います。
(吉井)
Q4:それにしてもロシアが以前敵対していたアフガニスタンとの関係強化に踏み切った狙いは何なのでしょうか。
(山内)
A4:アフガニスタンをめぐる関係国の力関係が大きく変わりそうな状況をにらんで、アフガニスタンとその周辺地域への影響力を再び強めようという思惑があると思います。そうしたロシアの戦略には3つ、柱があります。
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1つは旧ソビエト時代のインフラの再建など経済協力を強化することで、アフガニスタンにおけるロシアの存在感を高めることが狙いです。メドベージェフ大統領は記者会見でそうしたロシア側の強い期待を表明しました。
▼ロシア、メドベージェフ大統領ON
「我々は何らかの形でアフガニスタンでのロシアの存在を強めていきたい。両国の経済協力の歴史的な結びつきは、ソ連時代も含め、非常に強固だ」。
アフガニスタンには膨大な天然資源が埋蔵されていることが明らかになっています。カルザイ大統領は今回、その資源開発にロシアの参加を求めましたが、これはロシアも強く望んでいることだと思います。
(吉井)
Q5:ロシアの戦略、2つ目はアフガニスタンの麻薬の流入の阻止ですが、これは?
(山内)
A5:ロシアでは麻薬問題は非常に深刻で、麻薬中毒患者は500万人にのぼり、毎年3万人が麻薬で死亡しています。また麻薬の90%が、アフガニスタンから中央アジア経由でロシアに入ってきています。今回の訪問でも麻薬対策を最優先の課題として、ケシの撲滅から犯罪組織の摘発まで共同で総合的に取り組むことを確認しました。注目されるのはロシアがアフガニスタン国内の麻薬の取締りに直接参加していることです。去年10月、アフガニスタン東部で、ロシア、アメリカ、アフガニスタン内務省の3者合同の麻薬取締り作戦が初めて行なわれ、密輸組織のヘロイン精製拠点を壊滅させることに成功しています。
(吉井)
Q6:もう1つの柱はイスラム過激派対策ですね。具体的にはどのような対策を取っているのですか。
(山内)
A6:ロシアはアメリカ軍の撤退開始に伴って、アフガニスタンが不安定化し、イスラム過激派が中央アジアに勢力を拡大することを警戒しています。このため、アフガニスタン政府に対して、兵力を増強している国軍の訓練に協力したり、山岳用の軍用ヘリコプターなどの武器を提供するといった形で過激派の掃討作戦に協力しています。またロシアはアメリカに対して、アフガニスタンへの物資の輸送ルートを提供することで、アメリカの軍事作戦に協力しています。こうしたアフガニスタンをめぐる協力は米ロ関係のリセットの大きな成果と言えます。米ロは中央アジアへの影響力をめぐってはあらそっていますが、アフガニスタンの安定化を求める点ではアメリカと利害は一致しています。
▼メドベージェフ大統領ON
「秩序の回復、テロとの戦い、麻薬犯罪の戦いを成功させるため、国際部隊は大きな役割が求められている。ロシアも自分の責任を果たす」。
(吉井)
Q7:一方のカルザイ大統領のロシア訪問の狙いはどこにあるのでしょうか。
(山内)
A7:自らに批判的な欧米諸国をけん制する狙いがあると思います。カルザイ大統領はおととしの大統領選挙の不正や、政権の汚職や統治能力を批判され、欧米諸国とぎくしゃくした関係にあります。そうした中で、ロシアや中国と関係を深めることで、欧米をけん制し、権力を維持する狙いもあると思います。
▼アフガニスタン、カルザイ大統領ON
「我々はロシアとの関係を発展させたい。現実を注視し、善意と相互理解の原則を基礎としていくべきだ」。
ただカルザイ大統領にとってロシアとの関係強化は危険な賭けでもあります。アフガニスタンでは旧ソビエトの軍事侵攻で死亡した人は150万人にのぼると言われ、ロシアに対する憎しみや敵意は消えていません。そうした中で、ロシアと何らかの成果を出そうとするカルザイ大統領の試みがうまくいくかどうか疑問視する見方もあります。
(吉井)
Q8:アフガニスタンに再び進出しようとするロシアの試みはうまくいくでしょうか。
(山内)
A8:ロシアの戦略に限界があることも確かです。それはアフガニスタンに再びロシア軍を派兵することはできないということです。ロシアにとってアフガニスタンはアメリカにとってのベトナムと同じで、国民が派兵に強く反対しています。ただロシアはアメリカが全面撤退するのではなく、将来もある程度駐留して過激派を掃討してくれることを望んでいます。そうした中で、ロシアはアメリカ軍の撤退開始に伴う現地の情勢を見極めながら、アフガニスタンへの進出の可能性を探っていくものと見られています。
